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「番探しの王子と転生おばあちゃん~王子様、私は黒髪黒目じゃありません~」  作者: 栗原林檎
第1章

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6

王宮。

長い回廊を進み、湯気の立ちのぼる扉の前で立ち止まる。


「こちらが浴場でございます」


メイドがにこやかに頭を下げる。


「ごゆっくりお入りくださいね」


扉が開くと、ふわりと温かな蒸気が流れ出した。

広い湯船。

白い石造りの床。

天井まで届く湯気の向こうに、静かな水面が揺れている。


「……すご」


思わず呟く。

誰もいなくなったのを確認して、フルールはそっと中へ入った。

フード付きコートを脱がず、そのまま端に置く。


(とりあえず……あったまろ)


恐る恐る足を入れる。


「……ふぅ……」


じんわりと体がほぐれていく。

肩まで沈みながら、息を吐く。


「生き返るわ……」


しばらく、静寂。

湯の揺れる音だけが響く。

――そのとき。

きぃ……っと扉が開いた。


「失礼いたします〜」

「お背中流しますね〜」

「髪も洗いましょうか?」


ぞろぞろとメイドたちが入ってくる。


「え?」


フルールが固まる。


「い、いやいや!自分でできるのよ〜!!」

「まあまあ遠慮なさらず」

「王宮式のおもてなしですから」

「さぁさぁ」


あっという間に囲まれる。


「ちょ、ちょっと待ってぇ!」


メイド達は制止の声も聞かず髪の毛に手を入れた。


「え?」

「これは……?」


湯気で見えにくかった頭皮がしっかりと見えてくる。

絹糸のような髪が肩へ背へと広がる。

一瞬の沈黙。


「……まぁ」

「なんて綺麗な……」

「雪みたい……」


メイドたちの声が震える。


「この世界に……白い髪の方はいないんですよ」

「え……?」


フルールの胸が小さく鳴る。


(やっぱり……私だけなんだ。

おばあちゃんみたいかな。)


「とても珍しくて、とても美しいです」

「宝石みたいですよ」


くすくすと笑いながら、優しく髪をすくわれ

お世辞でも嬉しくホッとする。


「少し冷たいですよ〜」

「はい、流しますね〜」

「ひゃっ……!」

「くすぐったいですか?」

「ふふ、我慢してください」


湯気の中に笑い声が弾ける。

フルールも思わず笑った。



「も、もう……好きにしてください……」



湯気の立ちこめる浴場を出ると、待っていたメイドたちが素早く動き出した。


「さぁ、こちらへ」

「髪も乾かしましょうね」


柔らかな布で水気を拭き取られ、椅子へ座らされる。

白い髪は丁寧に梳かされ、絹のようにさらさらと流れ落ちた。


「本当に……月光みたい」


思わず漏れたメイドの呟きに、フルールは少しだけ肩をすくめる。

やがて差し出されたのは、装飾の少ない淡い色のドレス。

豪華さはないが、上質で動きやすそうな一着だった。


「王宮用としては控えめですが……」

「とてもお似合いですよ」


フルールはそっと袖を通す。

鏡に映る自分は、どこか別人のようで。

旅装のフード付きコートに包まれていた時とはまるで違う。


「……なんだか落ち着かないわ」


そう呟いた瞬間だった。

――バンッ!

勢いよく扉が開く。

「いたーーーー!!」

金色の髪を揺らして飛び込んできたのは、小さな少年だった。

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