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王宮。
長い回廊を進み、湯気の立ちのぼる扉の前で立ち止まる。
「こちらが浴場でございます」
メイドがにこやかに頭を下げる。
「ごゆっくりお入りくださいね」
扉が開くと、ふわりと温かな蒸気が流れ出した。
広い湯船。
白い石造りの床。
天井まで届く湯気の向こうに、静かな水面が揺れている。
「……すご」
思わず呟く。
誰もいなくなったのを確認して、フルールはそっと中へ入った。
フード付きコートを脱がず、そのまま端に置く。
(とりあえず……あったまろ)
恐る恐る足を入れる。
「……ふぅ……」
じんわりと体がほぐれていく。
肩まで沈みながら、息を吐く。
「生き返るわ……」
しばらく、静寂。
湯の揺れる音だけが響く。
――そのとき。
きぃ……っと扉が開いた。
「失礼いたします〜」
「お背中流しますね〜」
「髪も洗いましょうか?」
ぞろぞろとメイドたちが入ってくる。
「え?」
フルールが固まる。
「い、いやいや!自分でできるのよ〜!!」
「まあまあ遠慮なさらず」
「王宮式のおもてなしですから」
「さぁさぁ」
あっという間に囲まれる。
「ちょ、ちょっと待ってぇ!」
メイド達は制止の声も聞かず髪の毛に手を入れた。
「え?」
「これは……?」
湯気で見えにくかった頭皮がしっかりと見えてくる。
絹糸のような髪が肩へ背へと広がる。
一瞬の沈黙。
「……まぁ」
「なんて綺麗な……」
「雪みたい……」
メイドたちの声が震える。
「この世界に……白い髪の方はいないんですよ」
「え……?」
フルールの胸が小さく鳴る。
(やっぱり……私だけなんだ。
おばあちゃんみたいかな。)
「とても珍しくて、とても美しいです」
「宝石みたいですよ」
くすくすと笑いながら、優しく髪をすくわれ
お世辞でも嬉しくホッとする。
「少し冷たいですよ〜」
「はい、流しますね〜」
「ひゃっ……!」
「くすぐったいですか?」
「ふふ、我慢してください」
湯気の中に笑い声が弾ける。
フルールも思わず笑った。
「も、もう……好きにしてください……」
湯気の立ちこめる浴場を出ると、待っていたメイドたちが素早く動き出した。
「さぁ、こちらへ」
「髪も乾かしましょうね」
柔らかな布で水気を拭き取られ、椅子へ座らされる。
白い髪は丁寧に梳かされ、絹のようにさらさらと流れ落ちた。
「本当に……月光みたい」
思わず漏れたメイドの呟きに、フルールは少しだけ肩をすくめる。
やがて差し出されたのは、装飾の少ない淡い色のドレス。
豪華さはないが、上質で動きやすそうな一着だった。
「王宮用としては控えめですが……」
「とてもお似合いですよ」
フルールはそっと袖を通す。
鏡に映る自分は、どこか別人のようで。
旅装のフード付きコートに包まれていた時とはまるで違う。
「……なんだか落ち着かないわ」
そう呟いた瞬間だった。
――バンッ!
勢いよく扉が開く。
「いたーーーー!!」
金色の髪を揺らして飛び込んできたのは、小さな少年だった。




