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「番探しの王子と転生おばあちゃん~王子様、私は黒髪黒目じゃありません~」  作者: 栗原林檎
第1章

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4

結界が大きく波打った。

空気が灼ける。

地鳴りのような咆哮が夜の森を震わせた。

炎をまとった巨大な影。

三つの首がそれぞれ唸り声を上げ、鋭い牙をむき出しにする。


「ケルベロス――」


その名が落ちた瞬間、騎士団の空気が凍りついた。

フルールの足がすくむ。

胸がぎゅっと締め付けられる。


(おっき……なに、あれ……)


今まで見てきた魔物とは明らかに違う。

圧だけで息が詰まりそうだった。


「フルール!」


ギディオンの叫びが飛ぶ。


「隠れていろ!!」


反射的に焚き火のそばから後ずさる。

副団長ルーカスが叫ぶ。


「ケルベロスなんて大型が出るって、さすがにやばくないですか!?」 「最近魔物増えすぎでしょ!!」


「動揺するな!」


ギディオンの声が戦場を貫く。


「前衛、陣形を組め!」

「魔法部隊、後方支援に回れ!」

騎士たちが一斉に動く。


次の瞬間――


ケルベロスの口が大きく開いた。

轟音とともに炎が吐き出される。


「散開!!」


間一髪で避けるが、熱風だけで肌が焼ける。

さらに、棘だらけの尻尾が唸りを上げて振り回された。


「ぐあっ!!」

「腕が――!」


数人の騎士が吹き飛ばされ、地面に転がる。


「治療急げ!」


魔法部隊が走るが、追いつかない。

炎、爪、尻尾。

容赦ない猛攻。


「くそ……!」


ルーカスが歯を食いしばる。

その瞬間。

ケルベロスの尻尾が大きくしなり――

ルーカスへと一直線に迫った。


「ルーカス!!」


ギディオンが飛び出す。

剣で弾こうとした、その刹那。

ずぶり、と嫌な音が響いた。

棘がギディオンの腕を貫いていた。


「――っ!」


血が弾ける。


「団長!!」


膝をつきかけるギディオン。

ケルベロスが追撃の炎を構える。


(やばい……このままじゃ……)


フルールの胸が苦しくなる。


(無理……見てられない……!)


震える指を握りしめる。


(えっと……回復の子……なんだっけ……)


頭の中が真っ白になる。


(ほら、孫がゲームで……小さくて……ふわふわしてて……)


必死に思い出す。


「えっと……あれよ……あれ……!」


焦りで涙がにじむ。


「名前……名前……!」


息を吸って、叫ぶ。


「――癒しの風を運ぶ小精獣、ブリーズリル!!」


淡い光がふわりと広がる。

小さな白い獣が現れ、宙をくるくると舞う。

羽のような毛並みがきらきらと輝き――

優しい風が戦場を包んだ。

その風がギディオンの腕に触れた瞬間。

血が止まり、裂けた肉がみるみる塞がっていく。


「……なに?」

「傷が……消えてる……?」


騎士たちが息を呑む。

ギディオンも驚愕する。

腕を見つめ、ゆっくりと握りしめる。

痛みがない。


(治癒……魔法? いや……)


誰も答えを持たない。

だが、迷っている暇はなかった。


「……今だ」


ギディオンの瞳が鋭く光る。


「全員――このまま殺れ!!」


怒号とともに、騎士団が一斉に突撃する。

魔法が剣に宿り、閃光が走る。

ケルベロスの咆哮が夜を裂き――

やがて、巨体が地に崩れ落ちた。

炎が消え、森に静寂が戻る。

ただ、荒い息と焚き火の音だけが残った。

フルールは胸を押さえ、へなへなと座り込む。


(よ……よかった……)


誰にも気づかれないよう、

小さな召喚獣はふっと光となって消えていた――。

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