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「番探しの王子と転生おばあちゃん~王子様、私は黒髪黒目じゃありません~」  作者: 栗原林檎
第2章

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エピローグ

満開の桜が淡く発光し、風に揺れるたび光の粒子が舞い上がる――。

神木のふもとを歩きながら、ギディオン――音也はふと足を止めた。

かつての激闘が嘘のように、風は優しく、若葉の香りを運んでくる。


(……そういえば)


一瞬、自分の中に眠っていた「もうひとつの魂」の存在を思った。

この世界にもともと存在していた「元のギディオン」の魂。彼が自分を導き、指輪を託し、最後には音也の魂と完全に溶け合ったような、あの不思議な感覚。だが今は、その気配が自分の中から消えていることに気づく。

役割を終え、彼は新しい場所へ還っていったのだと感じた、その時だった。

隣で神木を見上げていたフルールの体温が、掌を通じて伝わってくる。いつもよりわずかに高い。そして、彼女の奥底から、トク、トクと確かな「別の拍動」が響いてくるのに気づく。


「……!」


ギディオンは吸い寄せられるように、愛おしげに彼女のお腹へ掌を滑らせた。


『……いずれ分かる日が来るよ』


あの時、少年が別れ際に告げた言葉が、すとんと胸に落ちた。


「あぁ……“そこ”に、いるのか」


(俺の中に宿っていたあいつは、ここに繋がっていたのか……)


その言葉が

二人の脳裏に、今はもう遠い記憶となった「孫」の声を鮮やかに蘇らせる。


『じいちゃん! ばあちゃん! 見て! このゲーム、召喚獣が超かっこいいんだ!』


眩しいリビング。隣で笑っていた夫と、夢中でテレビ画面を見つめる孫の姿。


『レベルがなかなか上がらないよー! 助けてじいちゃん!』


『いい、ばあちゃん? このゲームさ、主人公がレベル100になって裏ボスになると、聖獣化して暴走しちゃうんだ。勇者を殺すとバッドエンド。ハッピーエンドにするには、指輪を抜いて、勇者の指にはめなきゃダメなんだからね!』


(……ああ、そうだった。今思い出した……)




――場面は、静かな現実の葬儀場へ。

棺の中で、私は穏やかな眠りについていた。そこへ、一人の青年になった孫がそっと歩み寄り、一冊の本を私の手の中に差し入れる。


「ばぁちゃん。ばぁちゃんと一緒にやってたあのゲームさ、小説化されたんだ。天国でじぃちゃんと一緒に読んでくれな」


その本が手の中に置かれた感触を、魂のどこかで受け取った気がした。

私たちの歩んできた時間が、ひとつの物語として現実の世界にも刻まれた証。


(届いたわよ。……じいちゃんと一緒に、ゆっくり読ませてもらうわね)


意識が、黄金色に輝くルミナリアの空へと戻っていく。

目の前には、愛おしそうに私を見つめる、若き日の夫と同じ魂を持つギディオン。


「えっ……? ギディ、どうしたの? 泣いてるの?」


私が顔を覗き込むと、彼は穏やかな笑みを浮かべて、私の手を強く握りしめた。


「いや……懐かしい声を聞いた気がしてな。……愛している、フルール」


「ええ……私もよ。愛しているわ」


(神木の桜を見上げながら、ギディオンは静かに目を伏せる)


「……ジャッカル。一歩間違えたら、俺もあいつのようになっていたかもしれないな」


ふと漏れた呟きは、風にさらわれて消えていく。

愛する人を突然失う苦しみ。その絶望がどれほど人を狂わせるか、今のギディオンには痛いほど理解できた。もしフルールが自分の前から消えていたら。もし彼女を救えなかったら。

誰にだって、道を踏み外してしまう可能性はある。

闇は常に、愛のすぐ隣に潜んでいるのだ。


「それでも……踏み外してはいけない。人であるかぎり、俺たちはこの光の中で生きていかねばならないんだ」


それが、遺された者の責任であり、彼女に愛された「人」としての誇りだから。


神木の桜がさらさらと祝福の音を鳴らす。

前世で「桜」と呼ばれた彼女が、今、桜の神木に見守られながら新しい命を育んでいる。

孫が届けてくれた小説と、私たちがこの世界で刻んでいく真実。二つの世界が重なり、物語は永遠の幸福へと続いていく。

金色の粒子が降り注ぐ中、私たちは新しい命と共に、輝く未来へ歩き出した。


それは、誰かに与えられた運命ではなく、

私たちが何度も選び続けた、たったひとつの物語だった。


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