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「番探しの王子と転生おばあちゃん~王子様、私は黒髪黒目じゃありません~」  作者: 栗原林檎
第2章

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間話: 束の間の休息

街の喧騒を離れ、ルーカスがアニエスを連れてきたのは、森の奥にひっそりと佇むエメラルドグリーンの湖だった。

木々の隙間から差し込む陽光が水面に反射し、まるで無数の宝石を撒き散らしたようにキラキラと輝いている。


「わあ……綺麗……」


アニエスは、思わず胸の前で手を組み、感嘆の声を漏らした。


「気に入ってくれたかな? 宿の人に、この辺りで一番のデートスポットだって教えてもらったんだ。……少し、ベタすぎたかな」


ルーカスが照れくさそうに笑いながら、彼女の手を引いて水際へと進む。

二人は用意されていた小さなボートに乗り込み、湖の中央へと漕ぎ出した。

オールが水をかく静かな音と、鳥のさえずりだけが周囲を包み込む。アニエスは、そっと水面に手を伸ばした。


「冷たくて、気持ちいい……。」


ボートが湖の真ん中で静かに揺れる中、アニエスは向かい合って座るルーカスをじっと見つめていた。

陽光を浴びて輝く彼は、騎士としての誇りに満ち、非の打ち所がないほど眩しい。


「……ルーカス様。あの、差し支えなければ……あなたのことを、もっと教えていただけませんか?」


アニエスの控えめな問いに、ルーカスは少し驚いたように眉を上げた。


「僕のことを?」


「はい。……あなたはいつも私を助け、守ってくださるけれど、私はあなたのことを、まだ何も知らない気がして」


ルーカスは一瞬、照れたように視線を泳がせたが、やがて柔らかく目を細めた。


「じゃあ…僕の家族の話をしようか。 あんまり面白くもないと思うけど。……でも、君が僕自身に興味を持ってくれたなら、とても嬉しいよ」


彼はオールを置き、昔を懐かしむように語り始めた。


「僕はホワイトウルフっていう狼の末裔なんだ。男三兄弟の次男坊さ。……信じられないかもしれないけど、小さい頃は今よりずっと体が弱くてね。よく兄弟にいじめられて、泣いてばかりいたんだよ」


アニエスは驚きに目を見開いた。目の前の、凛々しく強い騎士からは想像もできない過去だった。


「でも、ギディオン様に会って、僕の運命が変わったんだ。この人の隣に立てるくらい、強くなりたいって思った。それから無我夢中で鍛えて、騎士団に入って、気がついたときには副騎士団長! ね、つまんない話でしょ?」


ルーカスは「あっという間だった」と屈託なく笑う。

けれど、アニエスには分かった。彼がその地位を掴むまでに、血を吐くような、途方もない努力を重ねてきたのだということが。


「……全然似ていないのに。ルーカス様、あなたは私に似ている気がします」


「僕に?」


「はい。……目標に向かって努力している時って、自分が“生きている”って感じがしますよね」


その言葉に、ルーカスはハッとして目を見開いた。


「……そうだね。僕は、ただ生きたかったんだ。そして、君も」


「はい……」


二人の間に、言葉を超えた絆が結ばれた瞬間。ルーカスが愛おしそうにアニエスの手を握り直した、その時――。


『本当に?』


心臓を冷たい氷で撫でられたような感覚。

アニエスの脳内に、自分のものではない声がドロリと流れ込む。


『こんな世界、壊れてしまえばいいと思っただろう? 愛も希望もない暗闇の中で、お前はすべてを呪っていたはずだ。……忘れたか?』


「っ……!?」


アニエスの顔から、すっと血の気が引いた。


「アニエス? 」


「……あ、少し、風が冷たくなってきましたね」


アニエスは無理に微笑み、ルーカスの手を握り返した。

彼の手はこんなにも温かいのに、私の指先は氷のように冷たい。


(違う……私は、もう呪ってなんていない。今はこんなに……)


だが、アニエスの必死の否定をあざ笑うように、首元の指輪が彼女の過去から「絶望」を吸い出し、甘く痺れるような毒へと変えていった。

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