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「番探しの王子と転生おばあちゃん~王子様、私は黒髪黒目じゃありません~」  作者: 栗原林檎
第1章

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魔物食が王都に安定して供給され始めてから、数ヶ月が経った。

当初は恐る恐る口にしていた人々も、今では魔物の肉や魚を「滋養強壮に良い高級食材」として日常的に楽しむようになっている。

フルールは週に数回、変わらず騎士団の遠征に同行し、そのレベルも順調に上がっていた。


【Lv:30】

(レベル30……。召喚獣たちも随分と頼もしくなったわねぇ)


最初は数羽だったシルフリードも今や群れを成し、かつての自分なら足がすくんだであろう中級魔物も、今では「美味しそうなお肉」にしか見えない。

そんなある日の午後。レオンとリリアは、離れのテラスでフルールを誘ってお茶会を開いていた。


「フルールのいれてくれるお茶は、優しくてとってもいい匂いだわ」


「このクッキーも、魔物の実が使われてるなんて信じられないよ。本当においしい!」


リリアとレオンが弾けるような笑顔で、フルールの手作り菓子を頬張る。


「ふふ、お口に合ってよかったわ。お二人とも、最近はお勉強も頑張っているんですってね? 偉いわぁ」


フルールは目を細めて二人を見守った。中身が八十歳のおばあちゃんである彼女にとって、素直で愛らしい双子は孫のように愛おしい存在だ。


「お兄様に褒めてもらいたいから頑張っているの」


「僕も、早く大きくなって兄様みたいにフルールを守れるようになりたいな」


「まあ、嬉しいわ。……ギディオン様も、お二人が元気なのが一番の幸せでしょうね」


花の香りに包まれた、穏やかで温かい時間。

だが、その平穏を切り裂くように、一人の近衛騎士が血相を変えてテラスに駆け込んできた。


「レオン殿下、リリア殿下! 至急本館へお戻りください! ……ギディオン殿下がお呼びです。ついに……ついに現れたのです!」


「現れたって……何が?」


騎士は興奮と緊張が入り混じった声で叫んだ。


「伝説の『黒髪黒目の乙女』……! ギディオン殿下の『番』を名乗る女性が、城門に現れました!」


「「えっ……!?」」


双子が、そしてフルールが息を呑む。

平和なお茶会の空気は一瞬で霧散し、王宮全体が激震に包まれた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「ギディオン様! 私を見てください。これこそが、あなたが待ち望んだ運命の色ですわ!」


高らかに声を上げたのは、ジャッカル伯爵の娘、ベアトリスだった。

かつて彼女は髪を染めて番候補に名乗り出たものの、瞳の色で見破られ、ギディオンに冷たくあしらわれた過去がある。しかし、今目の前にいる彼女は、腰まで届く艶やかな黒髪と、黒真珠のように深い黒い瞳を持っていた。


(ふふ……禁術の目薬がこれほど馴染むとは。これでもう、誰も私を偽物とは呼べないわ)


ベアトリスの瞳の奥には、ギディオンへの愛など微塵もなかった。あるのは、帝国の頂点に立つ女になりたいという、どす黒い野心のみ。

ギディオンは、彼女の纏う派手な香水の匂いに眉を寄せながらも、その「色」を否定しきれなかった。


「……確かに、この色は」


ギディオンが物心ついた頃から見る夢。そこに出てくる愛しい女性は、いつもこの「黒」を纏っていた。

だが、これほど完璧な「色」が目の前にいるというのに、**ギディオンの額にある核は、ピクリとも反応しなかった。**真実の番を前にすれば、共鳴し、熱を帯びるはずの核。それが冷え切った石のように沈黙している。

ギディオンの傍らにいたレオンとリリアは、同時に顔を見合わせ、いぶかしげに眉を寄せた。


「……ねぇ、兄様。あのお姉さん、なんだか変だよ」


レオンが小声でギディオンに囁く。


「うん、リリアもそう思う。……なんだか、見ていて胸がザワザワするの。フルールと一緒にいる時みたいな、温かい感じが全然しないわ」


幼いながらも王族の血を引き、鋭い感性を持つ二人は、ベアトリスが放つ不自然な威圧感と、どこか作り物めいた空気を敏感に感じ取っていた。

だが、夢に導かれるように探し続けてきた色を前に、彼は疑念を抱きつつも、ベアトリスを客室に滞在させることを許可した。

ベアトリスは案内された客室を見渡し、小さく唇を噛んだ。


(王太子妃の部屋ではなく、客用の部屋ですって……? 舐めた真似を。まあいいわ、いずれ全て私のものになるのだから)


離れに戻ったフルールは、ミーナから詳しく話を聞かされた。


「黒髪、黒目……?(さっき騎士の人も言ってたわね)」


ミーナが興奮気味に語る。


「そうなんですよ! ギディオン様はずっと、ご自身と同じ色の番を探していらして。瞳の色まで黒いお嬢様が現れたって、城下でもその話でもちきりです!」


「へ、へぇ……。そうなの……」


フルールは、胸の奥をチリリと焼くような、妙な胸騒ぎを覚えた。


(なに、この嫌な感じ。喜ばしいことのはずなのに……)


「それにしても、ミーナ。なんで黒髪黒目が『番』の条件なの?」


「そういえば、なんででしょうね? 伝説ではユニコーンの伴侶は同じ色を宿すと言い伝えられていますが……」


(黒髪黒目といったら、日本人の特徴よね……。ギディオン様を初めて見た時に、思わず日本人って叫んじゃったのも懐かしいわ)


フルールの胸のざわつきは、収まるどころか増すばかりだった。

一方、本館ではギディオンが地獄のような時間を過ごしていた。

隣には、一歩も離れまいとベアトリスが寄り添っている。


「ギディオン様、このお菓子も召し上がって?」


厚い化粧に、むせ返るような香水の匂い。胸ばかりを強調した下品なドレス。

求めていたはずの「色」がすぐ隣にあるというのに、ギディオンの胃の奥は激しい不快感でせり上がっていた。


(……吐き気がする)


なぜだ。色は完璧なはずだ。なのに、核は一度も熱を持たない。

それどころか、離れにいる白髪の少女の方が、よっぽど自分に「近い」気がしてならない。

今すぐ、あの飾り気のない石鹸の香りがする、穏やかな笑顔の彼女に会いたい。


「……様? ギディオン様?」


ハッと意識を戻すと、ベアトリスが至近距離まで顔を寄せていた。彼女の指先が、ギディオンの頬に触れようと伸びる。


「触るな!!!!!」


「……っ!」


思わず、激しくその手を払い除けていた。ベアトリスは衝撃に目を見開き、震える声で叫ぶ。


「ギ、ギディオン様! 私はあなたの番ですのよ!? なぜそんな……!」


「……まだ、番と決まったわけではない。所用ができた、失礼する!」


ギディオンは重いソファを蹴るようにして立ち上がり、背を向けた。

足が勝手に向かう。偽りの色に囲まれたこの場所ではなく、心の底から安らぎを覚える、あの場所へ。


(フルール……お前に会わなければ、俺はおかしくなりそうだ)


彼は、何かに追い立てられるように離れへと急いだ。

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