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「番探しの王子と転生おばあちゃん~王子様、私は黒髪黒目じゃありません~」  作者: 栗原林檎
第1章

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17/41

間話: 誕生日

とある日の午後。


帝国の王宮を囲む空気は、少し前までとは違っていた。

神木の力が弱まり始めている影響か、年中穏やかだった気候にはどこか不安定な影が差し、風も心なしか肌寒く感じる。

庭園のベンチでそんな空気の揺らぎを感じていたフルールは、ふと手元のステータス画面を呼び出してみた。


(……あ、いつの間にか16歳になってる)


年齢の項目が更新されているのを見て、フルールは小さく息を吐いた。

転生してから今日まで、がむしゃらに生きる中で自分の誕生日など気にしている余裕はなかったが、どうやらこの身体もいつの間にか節目を越えていたようだ。


(でも、正確にはいつが誕生日なのかしら……。今日の日付を教えてもらえれば、だいたい目星はつくかもしれないわね)


そう考えたフルールは、日課の激しい鍛錬を終えたばかりのギディオンの姿を見つけ、歩み寄った。


「ギディオン様、お疲れ様です」


「フルールか。どうした、そんなに改まって」


ギディオンは少し肩で息を切りながら、首元を流れる汗を無造作に拭った。

はだけた胸元から覗く、鍛え上げられた筋肉。鍛錬直後の熱を帯びた肌が陽光を反射し、男らしい色気が溢れ出している。


(……なんなの、この色気は。鍛錬後とはいえ、刺激が強すぎるわよ。目の毒だわ)


フルールは内心のドギマギを押し隠し、空模様を見上げるふりをして口を開いた。


「な、なんだか、最近は風が冷たいですね。神木が弱っているせいかしら……。そういえばギディオン様、今日の日付をお聞きしても?」


「今日か? 第4月の10日だが……それがどうした」


フルールは思わず息を呑んだ。


(第4月の10日……。年齢が変わったばかりだとしたら、今日か、あるいはつい数日前が誕生日……。呼び方こそ違うけれど、前世の「私」と同じじゃない)


単なる偶然とは思えず、フルールは胸の奥が熱くなるのを感じた。


「いえ、ふと気になって……。ちなみに、ギディオン様のお誕生日はいつなの?」


問いかけた瞬間、ギディオンが分かりやすく動揺した。漆黒の瞳がわずかに泳ぎ、彼は少しだけ顔を背ける。


「な、なぜそんなことを聞くんだ」


「え、聞いちゃいけないの? お祝いしたいと思うのは変かしら」


「……そんなことはないが。第3月の20日だ」


(3月20日……。音也と同じ……?)


驚きで言葉を失う。

性格も立場も違うはずの彼なのに、時折見せる横顔や、言葉の端々に宿る温かさが、どうしても音也と重なってしまう。


(誕生日まで同じなんて……。似ている、なんてレベルじゃないわ。まさか、そんなことが……)


「……どうした、フルール。変な顔をして」


「あ、なんでもないの! ギディオン様の誕生日は、私の少し前だったのね。……来年からは、一緒にお祝いできるわね!」


フルールが努めて明るく笑うと、ギディオンは一瞬呆気にとられたような顔をし、やがて愛おしそうに目を細めてフッと笑った。


「……フッ、そうだな。お前に祝われるなら、悪くない」


その低い笑い声と、自分を見つめる瞳の熱に、フルールはまたしても心臓が跳ねるのを感じた。


(いけない、これ以上見つめられたらどうにかなってしまいそうだわ……!)


その時だった。


「フルール~! お茶しよー!」

「ケーキもありますわよ。 行きましょう!」


賑やかな声と共に、双子のレオンとリリアが走ってきた。フルールの左右の手を奪い、ぐいぐいと引っ張っていく。


「こら、二人とも。ギディオン様とお話し中……」


「構わん。俺はまだやる事があるからな、いってこい。……その代わり、夜は時間を空けておけ」


「……っ、はい」


最後の一言にさらに心臓を射抜かれながら、フルールは双子に引きずられていく。

後ろを振り返ると、ギディオンは再び剣を構えていた。神木が弱りゆく不安な情勢の中でも、その背中は揺るぎなく、どこまでも洗練されていた。


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