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「番探しの王子と転生おばあちゃん~王子様、私は黒髪黒目じゃありません~」  作者: 栗原林檎
第1章

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15


朝の光の中で、フルールはそっとステータスを表示させた。


**【Lv:10】**


「あら……。もう『10』まで上がったのね」


ここ数日の「魔物食材」確保のための遠征は、思いのほかハードだった。しかしその甲斐あってか、召喚獣たちの放つ技の威力も目に見えて増している。


(この調子なら、あの時手も足も出なかったケルベロス相手でも、少しは戦えるようになるかしら……)


そんなことを考えていると、扉を叩く音がした。現れたのは、世話係のミーナだ。


「フルール様! 今日は絶対にお休みです! ギディオン様にも、働きすぎだって私からガツンと言っておきましたから!」


「あらまぁ……。そんなに私、疲れた顔をしてたかしら?」


おばあちゃんとしてはこれくらいの労働、昔の農繁期に比べればなんてことはないのだが、若返った体は自覚以上に無理をしていたのかもしれない。


結局、部屋に引きこもっているのも性に合わないので、城下を見に行くことにした。


身支度を整えていると、再び扉がノックされる。


「入るぞ」


現れたのは、案の定ギディオンだった。


「どこへ行くつもりだ」


「あら、ギディオン様。市場にでも行ってみようかと思いまして」


「なるほど。……私も行こう」


(……あら。なんかこの会話、図書館に行く時もしたわね。デジャヴかしら?)


フルールはくすりと笑いながら、差し出された護衛(という名のお供)の手を取った。


とはいえ、王太子と「白髪の少女」がそのまま歩けば騒ぎになる。二人は手早く変装を済ませた。

ギディオンは質の良い平民の服に着替え、前髪を下ろして鋭い眼光を和らげている。フルールもまた、目立つ白髪を深いフード付きのケープで隠した。


ミーナは思う。

(2人とも、オーラは隠せてないんですよね...)


王都の市場は、これまでにない活気に満ち溢れていた。


驚いたことに、あちこちの店先には、先日フルールたちが獲った魔物の魚や肉が並んでいる。


「えっ、もうこんなに受け入れられているのね」


「騎士団のやつらのおかげだろう。家族に振る舞っていたら、どんどん口コミで広まっていったらしいぞ」


店先では、鑑定スキルを持つ商人が、主婦たちに「この部位は煮付けが旨いんだ」と熱心に説明している。


その光景を見て、フルールの胸に温かなものが広がった。


「よかったわぁ……。みんな、お腹いっぱい食べられるようになるわね」


ふと、頭の上に大きな手が置かれた。


ギディオンが、優しく、慈しむように彼女の頭を撫でている。


「よかったな。お前のおかげだ、フルール」


「……っ。そ、そんなことないわ、

みんなで頑張っただけよ」


不意打ちの言葉と体温に、フルールは顔を赤らめて俯いた。15歳の少女の体が、勝手に心臓の音を速める。


そんな彼女を冷やかすように、近くにいた自警団の若い男が声をかけてきた。


「おいおい、お熱いねお二人さん! そこの可愛いお嬢さん、そんなムスッとした男はやめて、俺とデートでもしないか?」


「デ、デート!?(これって、傍から見たらデートに見えるの!?)」


フルールは目を白黒させた。中身は80歳のおばあちゃんである。若者からの誘いに慌てふためき、つい口を突いて出たのは、魂に刻まれた「拒絶」の言葉だった。


「わ、私には音也という伴侶が!」


その瞬間、隣にいたギディオンから、大気を震わせるような凄まじい殺気が放たれた。


「――どこのどいつだ、そいつは!!!!!」

「ヒッ!?」


誘った男は腰を抜かして震え上がり、市場の喧騒が一瞬で静まり返る。ギディオンはフルールの肩を強く掴んで詰め寄った。


「おい、フルール。今、なんと言った? 『オトヤ』だと? どこの誰だ、そいつは! この帝国にいるのか、それともお前が来たという東の国か……! 伴侶だと!? そんな話、俺は聞いていないぞ!」


「ギ、ギディオン様!? 顔が、顔が怖いですー!! 今のはその、ゆ、夢の中の話ですー!!!!」


フルールは顔を真っ赤にして叫んだ。さすがに「前世の夫です」とは言えず、必死に誤魔化す。


「……夢だと?」

「そうです! ほら、若返ったせいか、変な夢を見ちゃって……! 忘れてください!」


ギディオンはなおも納得いかないように眉間に深いシワを寄せていたが、やがて小さくため息をつくと、独占欲を隠そうともせずフルールの手を引いて歩き出した。


「ちょっ……ちょっと! 離してちょうだい、何歳だと思っているのよ!」


「15歳だ」


「あ……そうだったわ! って、もう立派なレディなんだから、恥ずかしいわよ!」


「ハハッ、知っている。だが、今の俺は『お供』なんだろう? なら、離れるな」


繋がれた手の熱に戸惑いながらも、どこか懐かしさを覚えるフルール。夫婦漫才のようなやり取りをしながら、二人は活気づく市場を歩き続けた。


「最近では、平民の中でも『自警討伐隊』を組んで、浅瀬に狩りに行く者も現れ始めたらしい」


「えっ、それは危険じゃないかしら?」


「案ずるな。騎士団が危険な箇所には目印をつけている。これでさらに魔物食が浸透すれば、この国の飢えは過去のものになるだろう」


ギディオンは満足げに頷いたが、すぐにその瞳を鋭く細めた。


「だが……食糧としての需要が増えれば、それに伴って魔物の違法取引にも目を光らせねばならん」


「違法取引?」


「ああ。昔は魔物の血や毒を使った『禁術』の研究が盛んだった。魔物の一部を利用して、無理やり魔力を底上げしたり、人を操ったりするようなな……」


物騒な話に、フルールは小さく身震いした。



――その頃、王都の片隅にある豪華な屋敷では。


「……準備はいいか、娘よ」


低く、湿り気を帯びた声が響く。声の主は、ハイエナの末裔として知られるジャッカル伯爵だ。


彼は、タコ型の魔物の墨を主成分とした、禍々しい紫色の液体が入った小瓶を娘に差し出した。


「魔物が食べられるようになるなど、我らにとっては僥倖だったな。おかげで市場から堂々と材料を仕入れ、こんな物が作れるようになるとは……」


「これは、禁術によって開発した『特製の目薬』だ。これを使えば、例えユニコーンの末裔であろうと、お前の瞳から目を逸らせなくなるだろう」


ジャッカル伯爵は、娘の黒い髪を愛でるように撫で回した。


「ギディオン殿下の『番』という地位……。我が一族が、頂くことにしよう」


不気味な笑い声が、日の当たらない部屋に充満していった。


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