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「番探しの王子と転生おばあちゃん~王子様、私は黒髪黒目じゃありません~」  作者: 栗原林檎
第1章

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「……さあ、やるわよ!」


王宮の広大なキッチンに、フルールの気合の入った声が響いた。

騎士たちがそれぞれのアイテムボックスから取り出した、『ハニービー』が、今や大きな樽にぎっしりと詰め込まれている。


「……ひっ」

「ま、魔物をキッチンに持ち込むなんて……」


周囲のコックやメイドたちは、真っ青になって激しく首を振った。そんな視線を柳に風と受け流し、フルールはそっと樽のふちに手をかざす。


(どうやって捌いてハチミツを取り出すのかしら。こういうのも鑑定で分かるかしら?)


【鑑定:ハニービーの解体方法を表示します】


「あら、親切ね。これならいけそうだわ」


鑑定結果に従い、手際よくハチミツを抽出していく。黄金色に輝く蜜は驚くほど澄んでいて、濃厚な香りを放っていた。

それを使って焼き上げたのは、特製の『ハニークッキー』。

オーブンから取り出した瞬間、キッチン中にバターと密の暴力的なまでに甘い匂いが立ち込めた。


「……いい感じ。毒味も兼ねて、どなたか食べてみる?」


フルールが問いかけると、コックとメイドは「とんでもない!」と言わんばかりに揃って思い切り首を振った。


(まぁそういう反応になるわよね。)

「じゃあ、私が先にいただくわ」


フルールがまず一枚、サクッと頬張る。


「……美味しい! 疲れが吹き飛ぶわ~!」


その言葉に、真っ先に反応したのは昨日同行していた騎士団員の一人だった。彼は躊躇なく手を伸ばし、クッキーを口に放り込む。


「う、うめええぇぇ!! 甘いものなんて、一体何年ぶりだ……!? 家族にも、家族にも食わせてやりたい!」


震える声で叫ぶ彼の姿に、恐る恐る口にしたコックやメイドたちも、瞬時に表情を輝かせた。


「嘘でしょう……これが魔物だなんて!」


厨房内が熱狂に包まれた、その時だった。


「ずるいぞ! 僕たちも仲間に入れろ!」

「……いい匂いに誘われてしまいましたわ」


大急ぎで駆け込んできたのは、レオンとリリアの双子だった。朝の準備もそこそこに飛び出してきたのか、その着衣はあちこちが乱れている。


「こらこら、着替えもまだじゃない。味見は一枚だけよ」


二人に手渡すと、サクサクという軽快な音の後に「美味しい!!」と歓喜の悲鳴が上がる。

「もっと食べたい!」とねだる双子の後ろから、今度は重厚な足音が響いた。


「随分と賑やかだな。……私達にも頂けるかしら?」


現れたのは、ギディオンと国王夫妻だった。


「ええぇ!? 陛下、王妃様まで……」


戸惑いつつも、それぞれに一枚ずつ差し出す。一口食べた瞬間、国王の目が大きく見開かれた。


「……素晴らしい。これほどまでとは」

「フルールさん、これは国中の民を救う希望になりますわ」


期待に満ちた眼差しを一身に浴び、フルールは冷や汗を拭った。


「あ、あの、たくさん焼いて持っていきますから! 皆さん、食堂でお待ちください!」


結局、王宮のコックたちを総動員して、大量のハニークッキーを作ることになった。

一段落して厨房の外に出たフルールは、アイテムボックスから「ついで」のつもりが命をかけることになった、あの巨体を取り出した。


「二足歩行の牛……。なんか、捌くの嫌ねぇ」


【鑑定:バッファローオーク。可食部位:全身。特にロース肉が絶品です】


「……やるしかないわね。皆さん、お手伝いお願いね!」


協力的な騎士たちと共に解体を進めていく。今日の夕食は、ここ数年で最も豪華なものになりそうだった。

そしてこの日を境に、帝国内に魔物食を浸透させるため、週に三回は魔物を狩りに行くという習慣が定着し始めた。



数日後、魔の森の浅瀬。


「今日は何が食べられるかな〜♪ あの雷鱗魚、また食べたいですよ。団長、この辺にいませんかね?」


副団長ルーカスが、ピクニックにでも行くような軽やかさで尋ねる。

ギディオンも、かつてのような険しい表情は消えていた。


「……探してみるとするか」


一行が川を見つけると、そこには雷鱗魚ではないが、丸々と太った魔物の魚が何種類も泳いでいた。


「よし、収穫だ!」


騎士たちが魔法や剣を振るい、次々と魚が跳ね上がる。そこへ、低級の魔物たちが獲物を狙って出現した。

(今のうちにレベルを上げておかないとね)


フルールは「もう隠しても仕方ないわ」と開き直り、次々と異なる属性の召喚獣を呼び出した。


「――灼熱の焔獅子、レオニール!」

「――疾風の翼、シルフリード!」


炎が、風が、魔物を切り裂いていく。

その光景に、ルーカスら騎士団はポカーンと口を開けた。


「え、団長、知ってたんですか? 彼女が多属性の召喚師だなんて」


「……なんとなくな。あの時の回復も、間違いなく彼女の仕業だろう」


ギディオンは淡々と答えたが、ルーカスは呆れたように肩をすくめた。


「なんていうか……規格外すぎませんか? はぁ、彼女が伝説の『番』だったら良かったのに……」


ズキッ。

ギディオンの胸の奥で、鋭い痛みが走る。

無意識にフルールの白髪を見つめ、彼は低く声を絞り出した。


「……よそ見してないで、早く終わらせるぞ」


自分の感情の正体に気づかない振りをしながら、彼は剣を握り直した。


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