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「番探しの王子と転生おばあちゃん~王子様、私は黒髪黒目じゃありません~」  作者: 栗原林檎
第1章

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嵐のようなお説教タイムがようやく終わった。

王宮の離れ、フルールに与えられた寝室には、しんと静まり返った夜の帳が下りている。


「お疲れ様でした、フルール様。さあ、今夜はもうゆっくりお休みくださいね」


世話係のミーナが、手際よくフルールの全身をマッサージしてくれた。


「ふぇ……。極楽、極楽……」


「ふふ、フルール様って時々、私のひいおばあちゃんみたいな反応をされますね」


そんな冗談を言いながら、ミーナは灯りを落として部屋を後にした。

一人ベッドに潜り込み、ふかふかの羽毛布団に包まれる。


(それにしても、若返るってお肌の回復力もすごいのねぇ。さっきまでの疲れが嘘みたい……)


前世では一度膝を痛めれば三日は引きずったものだが、今の体は驚くほど軽い。

ふと思い立ち、フルールは暗闇の中で小さく指を動かした。


(ステータス、最近見てないわね。なにか変わったことはあるかしら)


目の前に、淡い光を放つ半透明の画面が浮かび上がる。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

名前:フルール

年齢:15歳

スキル:アイテムボックス/鑑定/料理/???

魔力適性:魔法(不可)/召喚魔獣(極)


【Lv:5】

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「あら……。Lv 5って何かしら」

森で見た時は何も書かれていなかったはずだ。

孫がよく言っていたことを思い出す。


『おばあちゃん、レベルを上げなきゃお話は進まないし、ボスにも勝てないんだよ』


(なるほどねぇ……。あの魔物を倒したから上がったのかしら)


今日の戦いで、フロストリーネの氷が弾かれた瞬間の恐怖がよみがえる。


(召喚獣たちも、私と一緒に成長していくのね。……今のままじゃ、ギディオン様をハラハラさせるだけだわ。もっと私とあの子たちが頼もしくなれば、あの方も少しは肩の荷が下りるかしら)


「もっと強くならなきゃ」という思いは、決して野心ではない。

自分を守ってくれたあの背中を、今度は少しでも支えてあげたい。そんな、孫を、あるいは夫を想うような慈愛に近い決意だった。


(さあ、明日はハチミツをどう料理しようかしら。甘いものがあれば、ギディオン様の眉間のシワも少しは伸びるかしらねぇ……)


難しい考察はそこで打ち切り、フルールは幸せな献立を夢見ながら、泥のように深い眠りに落ちていった。



―――同じ頃、王宮の本館にある執務室では、ギディオンが一人、窓の外を見つめていた。

月明かりが部屋に差し込み、彼の横顔を白く照らしている。

ペンを置き、自分の手を見つめる。

脳裏をよぎるのは、昼間の図書館での出来事だ。


「……ニホン」


彼女の口から漏れた、その奇妙な言葉。

確か、初めて出会った時も「ニホンジン」とか言っていたな……。

聞き覚えなどないはずなのに、なぜかしっくりくる。随分前からその言葉を知っていたような気がしてならない。

彼女はまだ何かを隠している。あのケルベロス戦での驚異的な回復も、目撃者はいないが、状況から見て間違いなく彼女の召喚獣によるものだろう。


「一体、召喚獣とはなんなんだ...?」


そして、今日の森での光景。

魔物の腕が彼女に振り下ろされようとした瞬間、ギディオンは全身の血が逆流するような感覚に襲われた。


(なぜだ。なぜ、あれほどまでに恐ろしかった)


魂の片割れをもぎ取られるような、圧倒的な喪失への予感。


『……おじいさん?』


守られた彼女が、呆然とした顔でそう呟いたとき。


(……俺の胸の奥で、カチリと何かが嵌まる音がした)

それは、予言に示された「番」に出会った喜びというより、もっと古い、数十年を共にしたような深い安らぎに似ていた。


(馬鹿げている。彼女はまだ十五の小娘だというのに)

伝説にある「黒髪黒目の番」とは正反対の、雪のような白髪の少女。

なのに、「あらまぁ」と上品に口元を隠して笑う彼女の些細な仕草ひとつで、自分の世界の輪郭が鮮明になっていくのがわかる。

ギディオンは窓の外、彼女が眠る離れをじっと見つめ、低く独白を漏らした。


「……俺は、一体、お前の何を知っているんだ」


その問いに答える声は、まだどこからも聞こえてこない。

静かな夜の闇だけが、二人の運命を包み込んでいた。


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