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「番探しの王子と転生おばあちゃん~王子様、私は黒髪黒目じゃありません~」  作者: 栗原林檎
第1章

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12

魔の森へ続く街道は、朝の霧がまだ薄く残っていた。

馬の蹄が湿った土を踏みしめるたび、静かな音が連なっていく。

フルールはギディオンの背後に揺られながら、並ぶ騎士たちを眺めていた。

その背中に、ふと思いついたように声をかける。


「そういえば……ギディオン様って、ユニコーンの末裔なのよね?」


低い声がすぐに返る。


「そうだが」


短く、それだけ。

少し間を置き、彼女は首を傾げた。


「……失礼だったらごめんなさいね」


馬の歩調がわずかに緩む。


「今って、馬が馬に乗ってるってこと?」


一瞬。

風が止んだかのような沈黙。

副団長ルーカスが目を瞬かせる。


「……え?」


騎士の一人が息を呑む。


「うそだろ……」


ギディオンはしばらく無言だったが、やがて口元にかすかな笑みを浮かべた。


「……フッ」


喉から漏れた息が次第に笑いへ変わる。


「ハハハハハハ!」


森に響くほどの笑い声。


「団長が笑った!?」

「初めて見たぞ……!」


ギディオンは笑いを収めながら言った。


「末裔なだけであって、馬ではない」

「まぁ、多少、身体が強いぐらいだ」


副団長は乾いた笑いを浮かべる。


「多少、ですか……」


騎士たちは互いに目を見合わせ、ひそひそと囁き合った。


(毎日の訓練量を見てそれを言うか……)

(あれを多少で済ませる種族が怖い)



「そ、そうなのね。」


フルールはギディオンの初めての笑顔に

少しくすぐったい気持ちになった。


やがて森の入口へ到着する。

空気が変わった。

湿った土の匂いと、どこか鉄臭い気配。

ギディオンが馬を降り、剣を抜く。


「ここから捜索を開始する」


騎士たちが一斉に散開した。

ほどなく現れたのは、粘液をまとった異形の魔物。

節くれだった脚が地面を擦り、歪な口がぴちゃりと音を立てる。

フルールは反射的に鑑定を発動した。


(……可食部位なし)


「見た目どおり、無理ねぇ」


頬に手を当てため息をつく。


そんなフルールを見てギディオンが眉を寄せた。


「鑑定まで使えるのか」


「え?言ってなかったっけ?」


「聞いていない」


彼は納得したように息を吐く。


「どうりで、魔物は食べられるなどと言い出すわけだ」


「はは……便利でしょ?」


剣閃が走り、魔物は一撃で消えた。


そのとき――


ぶぅん、と低く響く羽音。

木々の隙間から、手のひらサイズほどの

巨大な蜂の群れが飛び出した。


「ハニービーだ!」

「隊列を崩すな!」


(日本の蜂の3倍ぐらいあるわね!?)


ギディオンの炎が空を裂き、騎士たちの剣と魔法が続く。


「頭を狙え!腹部は避けろ!」


一体、また一体と地に落ちる。

だが――

地面が震えた。

森の奥から現れたのは、ひときわ巨大な影。


「クイーンハニービー……!」


羽ばたくたび、木々が揺れる。


「図体が大きいだけで強い相手ではない。が、

フルール、お前は下がっていろ」

「は、はい!」


そう言われたのに。


胸の奥で、いけない欲がむくりと起き上がる。


「お肉も欲しいのよね……ちょっとだけ……

ほんのちょっとだけなら……」


誰にも気づかれないように一歩。

さらに一歩。

羽音も剣の音も遠ざかる。

気づいたときには、森が静まり返っていた。


「……あ」


嫌な静けさ。


「……迷った」


心細さが胸に広がる。


「これ、ギディオン様に絶対怒られるわぁ……」



そのとき、


どすん。


地面が沈むように揺れた。

木々の影から現れたのは、角を生やした巨体。

赤黒い瞳が、獲物を見る目でこちらを射抜く。


「……うそでしょ」


喉が鳴る。

足が、動かない。


(こういうの、お約束の演出じゃない……)


魔物が一歩踏み出す。

土がえぐれる。


「召喚獣……召喚獣……!」


震える指を組む。


「――氷晶の静謐なる守護蛇、フロストリーネ!」


氷が走る。倒したと思った。

だが。

ばきぃん、と砕け散った。


「え……?」


次の瞬間、巨大な腕が振り下ろされる。

死が迫る。


「――フルール!!」


火花が爆ぜた。

ギディオン様の剣が、魔物の一撃を真正面から受け止めていた。


「離れろ!」


低く、怒りを含んだ声。

フルールはよろめきながら後退する。


(……怖い)


だけど。


(怖がってるだけじゃ、だめだ!)


胸の奥で何かが奮い立つ。


(氷がだめなら……雷!)

「――雷迅の守護獣、蒼猫サンディ!」


雷光が一直線に落ちる。

魔物の身体が痙攣し――崩れ落ちた。

土煙が舞う。

静寂。


「……倒したのか?」


唖然としていたギディオンが

すぐに駆け寄る。


「無事か!」

「は、はいぃ……」


声が震えている。

だが次の瞬間――


「……あ!」


倒れた魔物を見て目を輝かせる。


「おにく!!」

「……肉?」


ギディオン様の眉がぴくりと動く。


鋭い視線を感じる。


「肉とは?それに、おまえ……

召喚獣は二匹だけじゃなかったのか……」


「えへへ……」


「王宮に戻ったら説教だな」


「う……その…」


深く息を吐き、

「まったく……お前といると心臓がいくつあっても足りん」


その言い方。

「………おじいさん?」


「は?」


「あ、あー!ハニービーも回収しなきゃ!

ほら、行くわよ!」


落ち着かない心臓の音を聞きながら

ギディオンの背をぐいぐい押した。


それからはすぐに騎士団と合流できた。


ルーカスが焦った様子でギディオンの元に駆け寄る。

「団長!何してたんですか!」

「クイーンとやり合ってたら急に離脱するもんだから!」


「副団長、被害状況は」

「はっ!軽傷のものばかりです」

「よくやった」


騎士団の皆さんに頼んで、

ハニービー、クイーンハニービーを

アイテムボックスに入れてもらった。


「さて、目的のものは回収できたな?」

「はい!」


大量のハニービーと、ついでのお肉。

こうして上機嫌で帰還したフルールは――



その後、しこたま怒られた。



もう二度と騎士団から、ギディオン様の傍から

離れまいと心の中で誓うフルールであった。


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