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登山は朝飯前に。

 「花野さんは、人生を送るの何回目?」

突然のことで息ができなくなった。夕日の逆光でバス停での彼の目はよく見えない。

「え?」

「何回目なの?」

なんと答えるのが正解なのだろうか。私が一度死んで、転生したことを知ってるの?どうして池鯉鮒が知ってる?…彼も転生している?そんなことあり得るのか?

「どういうこと?」

「花野さん自身は、人生を何度も送ってると思うかって話。」

「…人生って一回きりじゃなかったっけ。」

私は動揺して脂汗をかいている。

「はは、そうだね。実際はそうなんだよ。でもそれは、ただの勘違いだったでしょ?本当はみんなしてたんだよ。」

ん?どゆこと?急に話がスピリチュアルな雰囲気になったんだが。もしかして都市伝説系の話をしてる?

「えーと…?」

「この前に貸した本のオチだよ。」

あ?貸した本?あの分厚い推理小説のこと?

「ちょっと待って。あれって推理小説だよね?全部は読めてないけど…そんなスピリチュアルな話になるわけ?」

「読み切ってないの?ならネタバレになるな…今の話忘れて。」

無理だわ。待て待て、ということは私の転生的なこととは一切関係ないんだよな。良かった〜。

「いやいや、もう全部ネタバレしてよ。あの分厚い本を全部読むことなんて出来ないから。」

「まあ、時間かけていいから読んでみてよ。絶対気に入ると思うから。」

池鯉鮒は少し笑ってそう言い、歩き出した。彼がスタスタとバスに乗り込むと、バスは今まで彼を待っていたかのように動き出した。私は全身の力がフッと抜け、バス停のベンチに座り込んだ。話している間に火が沈んでいたのか、辺りは薄暗くなっている。もし、誰かに転生のことがバレてしまった時はどうなるんだろうか、と考え込んでしまう。鞄をかき回すと、池鯉鮒に返そうと思っていた例の小説が出てきた。私が読めたのは全体の3割程度、今のところはまだ主人公が推理しているだけだが、ここからどんなストーリー展開になるやら。もう少しだけ読み進めてみようか。


 月曜の朝、私は走っていた。遅刻しそうなのである。原因はただの寝坊ではない、小さいハプニングが積み重なった、チリツモ遅刻である。制服のブラウスが生乾きだったり、いつも通っている道が封鎖されていたり、赤信号が続いたりなど、どうにかバスに乗って学校の最寄りまでは着いたもののここから学校までは20分はかかる、しかしあと8分で校門は閉まる、かなり絶望的な状態だ。自分自身も学校も遅刻に対して厳しいわけではない、が目立つ行動はできるだけ控えたい。こんなに冷静に物事を考えてはいるが、策略は何一つ浮かんでこない。朝ご飯を食べ損ねたからだろうか。バスを降りたところから走っているから息も切れているし、脇腹も痛い。どうしようか。

「アンタ、遅刻?」

横を見ると、自転車を漕いだ少年が話しかけてきた。顔は少年だが、私と同じ制服を着ている。

「多分、遅刻、です。」

これを言うのもやっとだ。

「ちょっと止まりなよ、疲れてんじゃん。」

私もこれ以上は走れないと思い、トボトボ歩き出す。息が上がって頭も舌も回らないが、これは遅刻確定だろうなと確信した。

「私に構わず、行った方が、いいんじゃないですか。自転車ならギリギリ、間に合います、よ。」

「ボク抜道知ってっから、アンタも来なよ。」

「抜道?私も間に合うんですか?」

「うん、ほら自転車のって。」

待て、何か危ない雰囲気がする。やたらと顔の綺麗な少年、自転車の二人乗り、学校までの抜道、ものすごくありがちだ。恋愛フラグの香りがプンプンする。しかし、彼に着いていかないと絶対遅刻になってしまう。

「ほら、後ろに乗って。」

背に腹は変えられない、乗ってしまえ!

「しっかりつかまって。」

「はい。」

二人乗りしたママチャリはゆっくりと動き出した。自転車の後ろに乗るなんて何年振りだろうか。小学生の頃に友達と乗った時以来か。確かマフラーが車輪に引っかかって破れたんだっけ、よく考えたらめちゃくちゃ危ないな。

「一年だよね?」

少年顔が風に負けない声量で聞いてきた。

「そうです。」

「ボクも一年、牧園、ヨロシク。」

「私、花野です。」

「花野さんね、オッケー。もうすぐ着くから。」

「えっ、早くないですか?」

早い、早すぎる。まだ自転車に乗ってから3分しか経っていない。そして周りは見知らぬ風景ばかりだ。自転車は小高い丘の方に向かっている。

「あの丘を越えるんですか?」

「近くまで行って、自力で登るんだよ。」

マジか。丘とは言ったが普通に草木が生え揃っている小山みたいなところだ。私は朝っぱらから障害物競争めいたことをしなくてはならないらしい。丘の麓に着くと、牧園は自転車を置いて颯爽と登り始めた。そこまで急勾配ではないが、草は生い茂っている。草をかき分けながら登ると林ゾーンに入った。木々が生えていて少し薄暗い、自分が軍事演習に参加している気分になる。

「あと、少しだよ。」

「…はい…」

こんなことになるなら朝ご飯はしっかり食べてくればよかった。自分自身もどこに向かっているのか何をしているのかわからない。

「よしっ、到着!」

彼の言葉を信じて顔を上げると、古びたフェンスが目の前に立っていた。フェンスの向こうには校舎らしき建物が見え、ここが学校の裏側だと言うことを理解した。確かに学校は坂を上がったところにある。私たちはどうやら裏庭的なところを登ってきたみたいだ。学校に着いた感動で呆然としていると、牧園は軽々とフェンスを登ってゆく。

「え⁈ 登るの⁈ 」

「当たり前じゃん。こんなとこに入口なんてないよ。」

彼は慣れた手つきでヒョイヒョイ登り、あっという間にフェンスのあっち側に行ってしまった。フェンスの向こう側から手を振られるが、振り返す体力も残っていない。

「私は…無理かもしれません。」

「いけるって!意外と簡単だから。」

ほんとかよ。あーもう!どうにでもなれ!とりあえずフェンスに足をかけて登る。急に友達に連れて行ってもらったボルダリングカフェを思い出す。よくよく考えると意味がわからないカフェだったよな、ボルダリングした後にコーヒーを嗜もうとは思わないだろ。疲れすぎて集中出来ずに変な記憶を辿ってしまう。これも全部朝ごはんを食べ損ねたからだ。どうにかフェンスの上までは行けた。

「そこから飛ぶんだよ!」

「え⁈ 無理だよ!そんなのできない。」

だからと言って、ここから方向転換をしてから降りることも容易ではないことはわかっている。

「しっかり着地すれば大丈夫だって!」

しっかりって何。私は前世も含めてここまで着地の仕方なんて跳び箱の授業でしか教わっていない。跳び箱の着地ってどんなだったっけ、確かこんな感じ…

「…ナイス着地!」

気づけば体はフェンスから降りていた。牧園がそばでニコニコしている。

「私、飛べた?」

「綺麗に飛んでた。ほら、走るよ。」

足が少しジンジンするような気もするが、なんとか走り出す。まだ間に合いそうだ。

「そう言えば、自転車は?」

「あそこに置いとくよ。帰りに拾って帰るから。」

なるほどいつもこんなにワイルドな登校をしているわけか、道理で手慣れている。牧園と別れ、靴を履き替え、階段を駆け上がり、教室に入る。ギリギリではあったものの遅刻はせずに到着できたようだ。よく頑張った、私。

「おっはモーニング!花野さん!」

…能天気な奴の声が聞こえる。これはおそらく幻聴だ。私は疲れすぎてるんだ。一回深呼吸でも…

「花野さん!おっはモーニングだってば!」

振り返ると五月雨が倉敷の机の上に座っていた。堂々と座ってはいるがコイツは他クラスの人間である。

「もうチャイム鳴るよ、自分のクラスに帰ったら?」

「花野さんに相談したいことがあってさ。」

すごく嫌な予感がする。絶対に聞きたくない。

「ごめん、後にしてもらえる?課題が残ってるから。」

「話はすぐ終わるよな、倉敷。」

「ああ。」

なぜか倉敷もいつの間にやら参戦している。これはかなりピンチだ。ピンチ以外の何者でもない。五月雨と倉敷のペアで物事がいい方向に進むわけがない。

「花野、今度遊びに行こうぜ。」

「俺と花野さんとコイツの3人で。」

勘弁してくれ。絶対に嫌だ。


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