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何のライバル?

「あー……倉敷はさ、花野さんのこと好きなんだってさ。恋愛的な意味で。」

……え⁇まじ⁇


 はっきり言って、想定していなかったわけではない。ここは乙女ゲームの世界、幼馴染なんだからそれくらいあってもなんらおかしくない。おかしくはないが…

「それ、多分言っちゃダメなヤツ…だね?」

「やっぱ、俺言わないほうが良かった⁈ 」

「いや…この話はなかったことにしよ。ね?」

そうだ、全てなかったことにすればいい。私は何も聞いてないし、こいつは何も言ってない。

「なかったことにできんの?」

「私は聞かなかったことにする。五月雨も…」

「つまり、花野さんは倉敷のことは好きじゃないってことか…なかったことにできるってのはそーゆーことだろ?」

なんだコイツ、結構鋭いじゃん。私の心中を言い当てた割には少し悲しそうな顔をしていた。どうやらしっかり倉敷の恋を応援していたようだ。その割には口が軽すぎるけれど。

「あ!みんな見えたよー!」

三年のギャルパイセンが最初のスタンプラリーを発見した。そのあとは順調にスタンプを回収していき、班全員に景品がもらえた。柄がハートになっている小さい爪切り。ハートは全く気に入らなかったが、爪切りとしては十分使えそうなので試しに少し爪を切ってみたが、刃の噛み合わせが悪く、切った爪の断面は汚くなってしまった。


 スタンプラリーが終わると昼食のカレー作りをしなくてはいけない。が、何を隠そう私は元一人暮らしアラサー女、高校生に比べれば自炊にはかなりの自信がある。どんとこい!そんなわけで私は2年の鞍田先輩とお料理シスターズを組むことになった。

「花野さんは料理する?」

鞍田先輩が米を研ぎながら聞いてくる。

「結構しますよ。一周回って最近は卵かけご飯とかが好きなんですけど。」

「あぁ、あれはやっぱ美味しいよね、私は韓国ノリとか乗せたりする。」

「あ、それにごま油垂らせば最高ですよ。」

やっぱり女子だと落ち着く、変な気遣いとかも皆無だし。

「一年の五月雨君とは元々知り合い?楽しげだったけど。」

「知り合いの知り合いだったみたいで、一方的に知られてました。」

五月雨のことを聞かれると困る。要らないことまで言ってしまいそうだ。

「…花野さんはやっぱりモテるの?」

「はい?」

予想斜め上すぎる質問が飛んできて、声が裏返ってしまった。“モテ“なんぞ私に一番関係ない要素だと思っている。

「モ、モテないですよ!これっぽっちもないです、そんなの。」

「そう?モテそうなのに。」

この先輩は目が腐っているのかもしれない。モテたとしても今の私は全然嬉しくない、と言うより迷惑だ。

「あはは…、先輩はどうですか?」

「私?私は全然。そう言う感じじゃないでしょ。」

ふーむ、背が低いとはいえ容姿的には綺麗な部類だと思うが。まあここは乙女ゲームの世界だしな、普通の世界の価値観ではないのか。野菜と米が洗えたら、先輩はお米を炊きに行ってしまった。私はジャガイモを剥かなければ。

「ジャジャーン!ピーラーでーす」

またしてもうるさい奴が現れた。ニコニコで手にピーラーを持っている。

「ピーラー使わなくても、ジャガイモは剥けるよ。」

「え?もしかして料理できる系女子?」

コイツは煽ってるのか?

「ほら、ピーラー持ってんだったらニンジンの皮を剥きなさい。」

五月雨の返事を待たずにザルに入ったニンジンを押し付ける。五月雨のことはガッツリ無視して私はジャガイモを剥き始めた。

「おぉ、花野さんうまいねえ!」

「五月雨はニンジン!」

しばらく皮剥きに集中していると、五月雨から面倒な質問が飛んできた。

「倉敷のこと…全然好きじゃねえのな、結構モテんのにあいつ。もったいなー。」

「私は…そういうこと全般に興味ないから。」

「ふーん。」

「五月雨もでしょ、その感じで恋愛に興味あったりする?」

「ないないない。俺はこれっぽっちもなーい。あぁ!」

嫌な予感がして彼の方を向くと、案の定コイツはピーラーで指の皮を剃っていた。傷は浅いとはいえ、傷口に血が滲んで痛そうだ。

「あー、痛い痛い!血ぃ出てるよ、ホラ!」

小さいかすり傷でこんなに騒げるのか。骨折すればサンバでも踊ってくれそうだ。騒がしい奴は放っておいて、先生に絆創膏を求めに行く。絆創膏をゲットして帰ってくると、五月雨は何事もなかったかのようにニンジンの皮を剥いていた。

「五月雨、指は?」

「あぁ、なんか痛くなくなった。でも大丈夫、傷がある方でピーラー持ってるから。」

何も大丈夫ではないが、五月雨は軽い笑顔を見せる。このお騒がせ野郎が。

「バイ菌とか入るから、絆創膏して。」

「別に要らないよー。」

ケタケタと笑う五月雨に怒りを募らせ、半ば強引に手を引っ張る。傷口は血は出ていなかったものの、皮膚はないため真っ赤になっていた。一応、絆創膏を貼っておく。

「花野さんてば、強引♡」

私は気色の悪いことを抜かす五月雨を睨み、ジャガイモの皮剥きに戻る。さっさと終わらせて一刻も早くコイツから離れたい。

「花野さん、ありがとね。」

五月雨はそう言うと、横でニンジンを片手にウィンクした。全ての行動が癪に障るが、コイツにペースを乱されるわけにはいかない。

「花野!」

私を呼ぶその声にものすごく嫌な予感がする。誰なのかは検討がついているからだ。この声は…

「倉敷じゃん!どうした?俺に会いたかった?」

私が反応する前に五月雨が返事をする。

「五月雨と花野、同じ班なんだな。いいなー、俺もここが良かった。」

私は五月雨に倉敷の片思いを激白されているので、この場が修羅場と化している。年相応の女の子だったらぶっ倒れているに違いない。逆に五月雨はどうして普通の顔ができるんだ?少なくとも親友の片思いを相手にバラした奴がする顔ではなかった。

「よっ、元気?」

五月雨を華麗にスルーして倉敷が話しかけてくる。

「元気だよ。普通に。」

私のそっけない態度でその場が冷める。つい大人げないことをしてしまった。ことの重大さにやっと気づいた五月雨は私と倉敷との間に乱入してくる。

「倉敷ぃ、こんなとこでくっちゃべっていいの?先輩に怒られるだろ?」

乱入の仕方が不自然すぎて、目も当てられない。

「なんだよ急に、お前こそ何もしてないじゃん。」

「俺は…手を怪我したから休憩してんの。ほら。」

倉敷の目の前にズイッと絆創膏を貼った手を持っていく。

「近ぇよ。ていうか絆創膏から傷はみ出てんじゃん。」

それはその通りで、傷が縦長だったので全部を覆うことはできなかった。

「あぁん?これは花野さんが貼ってくれたんですぅ。」

うわ、こいつ言いやがった。

「は?花野が貼ったの?」

倉敷が五月雨の絆創膏を指差して聞いてくる。

「私が貼ったよ。」

私はジャガイモを剥きながらノールックで答える。倉敷は何か言いたげな表情で五月雨を見ていた。

「火できあがったよー。」

火を起こしに行っていたギャルパイセンが戻ってきた。その流れで倉敷は離れて行き、修羅場が去った。

「花野さーん、さっきのアイツ、俺に嫉妬してたよね⁈ 俺、睨まれちゃった!」

五月雨はものすごくニンマリした顔でこちらに尋ねてくる。どうやら親友の嫉妬はいじりたくてしょうがないらしい。

「今の子、一年?イケメンじゃん?」

ギャルパイセンが興奮気味に尋ねてきた。

「あはは、アイツ花野さんが好きなんすよ。」

は?お前マジか。口軽すぎだろ。

「えー!!そうなの⁈ てか言っちゃって大丈夫?」

全然大丈夫じゃないです。やめてほしいです。今すぐ記憶消してください。

「やばいね⁈ 花野ちゃんは?どうなの?」

「それがー、花野さんは全然好きじゃないみたいっす。」

誰かコイツを黙らせろ。もうこの剥いたジャガイモを口に詰めてもいいだろうか。

「キャー♡修羅場じゃん⁈ 」

「そうなんすよー。」

そうなんすよじゃねぇ。

「五月雨…ちょっといい?」

怒りを抑えながらパイセンと五月雨を引き剥がす。

「アンタ、ちょっと口軽すぎない?なんで先輩に言うの⁈ 」

「えー?だってこんなこと黙ってられないし。」

「いずれ倉敷の耳に届くかもしれないんだよ?」

「そしたら倉敷は諦めがつくんじゃない?花野さんにとってもイイコトじゃん。」

「は?私は穏便に済ませたいの。介入しないでよ。」

「倉敷は諦めの悪い男だよ?ちょっとやそっとでどうにかならなそうだけど。」

確かにそれは当たっているが、こんなクレイジーボーイに介入されたら話が大きくなるに決まってる。

「というか、どうして倉敷の恋を応援しないで諦めさせようとするの?ズッ友なんでしょ?」

「あはは、どれだけ親友でもライバルになったら手加減しないよ。」

ライバル?ライバルって…, は?


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