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お調子者の激白

「今度デート行かね」

倉敷はそう言った。私の心の中はとんでもない騒ぎだったし、持っていた教科書も床にぶちまけたが、唯一返事だけはしっかりしていたと思う。

「あはは、デートしないよ。」

…いや、しっかりはしてないな。ただ簡単に断ってるだけだった。

「どうして?」

どうして⁈、だってそもそも倉敷と私はそんなにつるんでないし、高校生男女が何気なくデートに行くわけないし、私は倉敷と仲良くなりたくないし。

「デートに行くには早くない?」

丁度いい答えなんじゃないか?やんわり断れてるよね?

「何が?季節?」

違うわ!季節なわけないだろ、あーこれで「二人の関係性としてはまだ早い」とか言い出しにくくなった。あーもうこの際、断れればなんでもいい。

「うん、やっぱデートはもうちょっと後じゃない?」

「夏とか?夏祭りデート?」

「もうちょい後だよ」

「秋?紅葉とか?」

「あともう少し過ぎてからかな?」

「冬?スケートとか?」

暗意に断ってんだよ、気づけ!

「スケートか、スケートいいな。」

スケートいいなじゃねえよ。これははっきりと断った方が良さそうだ。

「でもさ、なんていうか…一日デートしたとして気まずいんだよね。」

言ってやった。気が重くて彼の顔が見れない。どんな表情をしているのやら。

「気まずくねぇよ?俺とデート行ったら楽しいって。」

ニコニコと笑っている。こいつは強者だ…

「だからデート行こうよ。」

自信は認めるが、私は行きたくない。その自信を他の女の子に向ければいいのに。

「他の子誘えばいいじゃん。倉敷と行きたがると思うよ。」

そう、嫌な事実だが若いうちはこういうちょっと軽めなやつがモテる、それは恋愛に無縁だったアラサーでもわかる。そして浮気されるのがオチ。

「俺は花野と行きたいの。」

こういう惑わすセリフをサラッと言えるくらい、こいつはモテてきたのだろう。

「倉敷、バスケ部でしょ?休みあるの?」

「休めばいい。」

「部活行きなさいよ。」

丁度いいところでチャイムが鳴った。どうにかデートの誘いから逃げ切れたが、奴はまた話しかけにくるに違いない。同じクラスなせいで徹底的に避けることができない。どうしたもんか。


 私の悩みの種は尽きない。それは攻略キャラとのイベントに遭遇しないようにすることももちろんそうだが、新たな攻略キャラに出会わないこともかなり重要だ。つまり、学校のイベントは大変迷惑だということ。しかも今度あるのは生徒同士の仲を深めるレクリエーション遠足らしい。乙女ゲームとしては絶対にイベントを起こすに違いないし、学年を混ぜた交流なんて先輩キャラに出会うに決まってる。独り身でいたい主人公としてはたまったもんじゃない。休もうかな。私が遠足に向けて対策を練っていると、担任の笛木がプリントを配り始めた。

「配ってるのは当日のスケジュールです。班によっては前後するかも、班分けはこのあと行います。質問は?」

プリントにはスケジュールとこっちの気も知らずに呑気に踊ってるクマのイラストが印刷されてある。私がこのクマにメンチを切っていると、質問者が現れた。

「先生ー、班分けってどうするんですか。」

「僕が番号を無造作にふりわけるだけです。同じクラスの奴とは絶対に同じ班になることはないので、ご了承を。」

クラスに気落ちする声が重なる。私としては倉敷と同じ班にならないことが確定してホッとしていた。順に番号が振り分けられていき、私は56班に当てられた。私がここで危惧するのはただ一つだけ、他クラスの攻略キャラと同じ班にならないかの心配。今、私が出会っているのは…まずメインヒーローの…名前は忘れたけど、入学式で出会ったあいつと、テニス部の…俺様の…名前は忘れたけどあいつと、あとサボり魔のルービックキューブプレイヤーの…チリフ?だっけ。あ、でもチリフも同じクラスだから、班は同じにならないか。ならあの二人だけに注意すればいいわけだ。どうかなんのイベントも起こりませんように…


 班分けから二週間後、遠足は良い天気に恵まれての決行となった。班のメンバーは当日に分かるシステムらしく、始まる前から私は憂鬱である。集合場所である森林公園の広場へ行くと皆が班ごとに分かれていた。56という数字を探しながら進むと、自分より小さい女子生徒ができるだけ高いところで56と書かれたカードを掲げていた。掲げている手がプルプルと震え、56という数字もそれに伴い揺れていた。

「ここ、56班ですか?」

彼女に話しかけるとさっきまで苦しそうだった顔がパッと明るくなった。

「はい!ここの班の子ですか?」

「そうです。」

「あー、良かった、女子は私だけかと思いました。名簿を見た限り男の子っぽい名前ばっかりで。」

確かに私も優という中性的な名前ではある。私も安心した。女子がいるなら心強い。

「名簿って見れますか?」

「ああ、どうぞ。」

56と書かれたカードの裏には班員の名前が載っていた。全員で6人、そのうち二人が私と彼女、そして残る四人は…

「こんにちは、ここ56班だよね?」

後方から話しかけてきたのは、メガネの男だった。背が高いので、私と背の低い彼女は彼の影に飲み込まれる。

「あ、稲庭君も56班なの?」

「うん、今日はよろしくー。」

名簿を確認すると、稲庭 慶吾 2年F組 と書かれていた。名前の奇抜さから推測するとこいつは攻略キャラの可能性が高い。が、どうやら背の低い女の子と知り合いのようで、楽しそうに話している。てっきり彼女は1年だと思っていたが、先輩だったみたいだ。

「そっちの子は一年生?」

「あ、はい花野です。今日はよろしくお願いします。」

ここはアラサーの意地として90度のお辞儀を披露する。

「わー、礼儀正しい。」

かなり薄味の感想が返ってきて気まずい。その空気を破るかのように騒がしい奴が現れた。

「56班ってここ?俺、五月雨 清高、一年。好きなおやつはカルパスです!」

うわ、絶対に攻略キャラだ、五月雨が苗字でモブなわけないじゃん。しかも変な奴だし。

「私は2年の鞍田です。こっちは稲庭。その子は1年の花野さん。」

背の低い先輩が全てを説明してくれた。そして彼女の名前は鞍田らしい。

「あ!あんたが花野優?」

五月雨の目線がこっちに向く。事実上は何にも間違っていないが、ここでは違いますと言いたかった。この聞き方絶対に何かある。

「はい…」

「へぇー…なるほどね。よろぴく。」

彼のふざけた挨拶を半ば無視して、名簿を見る。あと二人か。

「遅れて、すいませーん!」

スカートが短く、走っているので中のズボンが丸見えになっていて、明るい髪色に派手なメイク、おそらく先輩であろう人がやってきた。言うなれば…熱血ギャルみたいなそんな人。

「ハァハァ…いち、に、さん、し、それとあたしで全員かな?」

「まだ、一人来てません、えーと…三年の人が」

「あー、それ、そいつ今日休みなの、だから高三はあたしだけ。」

彼女が一息ついて水分を取るのを他の皆で見守った。

「よーし、じゃ自己紹介でもしよっか?あたし三年の大久保でーす。見ての通りのギャルって感じで、好きのものはー、スンドゥブ?とか?とりまよろしくー。」

いきなりアゲな雰囲気になり、慣れない私が戸惑っていると横からお調子者が飛び出した。

「俺、高一の五月雨でーす。見ての通りのうるさい奴って感じで、好きなのはカルパス。食い過ぎて痛風になりかけましたー。よろしくお願いしまっす。」

そのテンプレートのまま自己紹介が流れていく。

「私は2年の鞍田です。好きなのはさっぱり系のアイスかな?よろしくお願いしまーす。」

「同じく2年の稲庭です。好きなものは海鮮系です。よろしくお願いします。」

次々と自己紹介が流れ、私は最後になってしまった。とりあえず普通に…

「一年の花野です。好きなものは…アボカドとか、よろしくお願いします。」

女子高生の好きなものってアボカドではないよな、普通にミスった。

「オッケー、じゃあスタンプラリー行こうか。」

この遠足の初めはスタンプラリーらしい。かなり手の込んだ企画をやってるよな。そういうわけでこの5人で歩き出したのだが、お調子者が私に話しかけてきた。

「花野さん、横で話そうよ。」

え、嫌なんだけど。と初対面では言うことができず、五月雨と話をする羽目になった。

「お噂はさ、かねがね聞いてんだよ。」

話の入りが嫌すぎる。もうすでに勘弁してほしい。

「誰から聞いてるの。」

「え?倉敷から。色々。」

「倉敷?倉敷とどういう繋がりなの。」

「中学からの友達で、ズッ友よ。」

かなりダサいが、そこには突っ込まず話を聞いてみる。

「その…ズッ友からは私の何を聞いてるの?」

「あぁ、まあ色々…っすね。」

五月雨の含みのある言い方が気になる。

「色々って?気になるじゃん。教えて。」

「えぇ…これって言っていいのか?良いのかな?」

こっちに聞かれても困るが、五月雨はかなり口が軽そうなので押せばいけそうだ。

「いいでしょ。言ってよ。」

「マジで?知りたい…?」

焦らすな。教えろ。私は脳震盪を起こすくらい強く首を縦に振った。

「あー……倉敷はさ、花野さんのこと好きなんだってさ。恋愛的な意味で。」

……え⁇まじ⁇


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