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初対面の幼馴染

 入学式を終え、クラスで担任を待っていると私は左肩を叩かれた。

「よっす、久しぶり。」

そう言った男子生徒はニカっと笑っている。誰?久しぶりと言われましても…顔すら見覚えないけど。でもここは話を合わせておくか?いや…待て待て。わざわざ話を合わせなくとも、忘れたフリでもしたらいいんじゃないか?実際にこいつのことは1ミリも知らないんだし。あとでボロが出るよりマシでしょ。

「ごめん、誰?久しぶりすぎて覚えてないかも。」

「えー、マジ?竜介だよ、リュウちゃん。」

知らねぇよ。誰だよ。

「…フルネームは?」

「倉敷 竜介。ホントに覚えてないの?幼稚園のお遊戯会で一緒にメダカ役やったじゃん。」

知るか。なんで一番のエピソードがそれなんだよ。普通に生きてる人でも分かんないわ。

「幼稚園で一緒だったっけ?覚えてないかも。」

「なあんだ。じゃあほぼ初対面じゃん。花野優ちゃんでしょ。よろ。」

ほぼ初対面なのに、名前にちゃん付けはヤバい男の法則だとアラサーの勘が言っていた。襟足が長いし、よく見ると耳にピアスをつけている。この学校はピアス禁止じゃなかったけ。無造作に投げ出された彼の手は握手を求めてそうだったので、一応しておく。彼に何となくの笑顔を向けていると、担任らしき人影が前に見えた。

「えー、一年間よろしくお願いします。担任の笛木です。君たちの数学も受け持ちます。質問ある方?」

淡々と語るその教師は少し猫背で、職員室で飲んでいるであろうコーヒーの香りが漂ってきた。長所は若くて顔が綺麗なこと。乙女ゲームに出てくる教師なんだから、当たり前と言えば当たり前か。

「先生、好きなものとかありますかー?」

質問したのはまさかの幼馴染ボーイだった。その質問で一気に場が柔らかくなる。

「好きなものは串カツ。質問は以上でいいか?」

それなりに雰囲気の良いクラスにはなりそうで一安心する。あのメインヒーローとも違うクラスみたいだし。とりあえず近づかなければ大丈夫だろう。それよりも要注意は幼馴染ボーイなのかもしれない。


 その日の夜、私は今日のイベントに疲れ果ててベッドに倒れていた。これから始まる高校生活に胸を躍らせながら、これから始まるフラグ回避ゲームにうんざりしている。私がもう少し若ければ、こういうのにもノリノリで参加できたんだろうけどな。…あ、そういえば日記があったんだった。朝に見た日記を思い出す。あれはゲーム上ではセーブポイント的なアレなのだろうか。一応毎日つけておくか、あーめんどくせ。とぼとぼ歩き、机の前に座る。今日は色々あったが、自分的に書きたいことはないため、一言だけ。

“4月6日 私はすごく疲れた。“

それだけ書くとすぐにベッドに潜り込み、寝てしまった。


 流石に中身は社会人、どんなに気が向かなくともなぜか時間通りに起きれてしまった。そして驚くのは身の軽さ。もちろん昨日も身は軽かったが、昨日あんなに疲れていたのに寝ると回復する高校生の体はすごい。若さってすごい。口に入れられるだけの朝ごはんを詰めて、家を出る。雲一つない青空が憎い。バスを降りて学校まで歩いていると、前方に縦ロールが現れた。もっとちゃんと説明すると、縦ロールをした女の子がただ歩いているだけなのだがかなりのボリュームなため、上半身が一切見えない。やはり乙女ゲーム、派手だ。現実ではあまり見かけない髪型を遠くからまじまじとみていると、彼女がストラップを落とすのが見えた。なるほど、この流れで行くと、私がストラップを渡す→彼女が感謝する→お友達になる、的な感じじゃない?どう考えても縦ロールはモブじゃないし、関わらない方がいいかな。でも、落とし物くらい届けるか。彼女のストラップを拾って走る。

「あのっ、これ、落としましたよ。」

振り向いた彼女は、言わば昭和の少女漫画のような見た目だった。バッサバサのまつ毛に大きい瞳。さすが縦ロール、伊達じゃない。振り向いた時に揺れた縦ロールから薔薇の香りを強く感じる。

「ん?あ、ありがとうございます。」

任務を完了した私は一刻も早く彼女から離れなければならない。それとなく微笑んで、彼女を追い越そうとする。

「ちょっと待って。」

ちょっと待ってと言われたら、無視をするわけにはいかない。それなりに離れていたら聞こえないふりをすればよかったが、残念なことに彼女と私は2、3メートルほどしか空いていなかった。

「はい。」

「あなた、一年生よね?」

「そうです、けれども…」

嫌な予感がする。乙女ゲームなんぞをやっていなくとも、この先の展開はわかる。

「お友達になってくれる?」

予想していたよりも豪速球ストレートを投げられ、返事に迷う。

「急…ですね。」

「急で結構、私はあなたとお友達になりたいと思ったの。」

にっこりと微笑む彼女が狂気に満ちていると感じたのは絶対に私だけではない。何と言うか、圧がすごい。

「なってくれる?」

ここで“NO“と言える勇気は私にはなかった。私がもっていた選択肢は、

「あぁ、いいですよ。」

もしくは

「うん、いいですよ。」

しかなかったのだ。


 彼女の名前は桐咲 百合香というらしい。いかにも乙女ゲームに出てきそうな感じだ。まあ、自分としては友達ができることは嬉しいが、今のところかなりゲームのシナリオ通りに物事が進んでいる気がしてならない。私はゲームのシナリオに反抗していかなくてはならないのだ。これ以上登場キャラを増やすわけにはいかない。新学期なこともあって、一年の廊下には部活のポスターがずらりと並んでいた。元の私は三年間帰宅部で、部活の青春は送っていなかった。今度こそ、とは思うが入った部活に攻略キャラがいる可能性も拭えない。

「よっす、部活はいんの?」

気軽に声をかけてきたのはメダカ役の幼馴染ボーイだった。確か…倉敷だっけ?危ない危ない忘れる所だった。

「あー、いや考えてる。倉敷は?」

「俺はバスケ部かな。」

「何でバスケ部?」

「モテたいから。」

理由、薄っ。すぐに辞めそうだな。

「へぇー、頑張って。」

苦笑いで誤魔化してその場を離れる。が引き止められてしまう。

「今日、一緒に帰らね?」

…は⁈急な誘いにびっくりして、自分の顔が引き攣る。

「あ?…どうして?」

「一緒に帰りたいと思ったから。」

What?何ですって?もう告白じゃんこんなの。序盤から飛ばし過ぎ。今、4月だよね?あってる?流石、乙女ゲーム。恐るべし、乙女ゲーム。

「あぁ…今日、友達と帰る予定だったから…」

「そっか、また誘うな。」

彼はニカっと笑って帰ってゆく。私はその背中を見つめて、チャラい男の危なさとここが乙女ゲームの世界だということを再認識した。


 その後、私は予定通り縦ロールガールこと桐咲百合香と下校することにした。彼女の横にいると薔薇の香りが移りそうだ。

「桐咲さんは部活とか入るの?」

「私はテニス部、中学でもテニス部だったの。」

確かに家に専用テニスコートがありそうな風貌ではある。身長が高く、手足が長い彼女なら運動は得意そうだ。

「それよりも、私のことは呼び捨てでいいよ?」

「あぁ、じゃあ桐咲、もう一個質問してもいい?」

「何個でもしてして」

「その髪型は…パーマ?」

「これ?これは髪をロールに巻き付けて寝たらこうなるの。いいでしょ。」

いいかどうかは置いといて、なるほどなと感心する。キャラの裏事情か、こういうのが小話として公式ファンブックに書いてあったりするよな。桐咲の縦ロールの謎が解けたことが今日の中で一番いいことだった。


 翌日から私は徹底的に倉敷を避けるようになった。また誘われたらたまったもんじゃない。あいつはそのうちバスケ部に入部するだろうし、そうすれば誘われることもなくなるだろう。そしていい感じに、穏便に済ませよう。そうしよう。窓の外ではまだ桜が咲いていた。

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