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多分お前じゃない。

「ラブソングの作詞とかどう?」

牧園はサラッとそう言った。

「え?ラブソング?」

「そうそう、メロディはなんとかできたけど…歌詞がさどうにもまとまらなくて。」

だからと言って私にできるわけもない。

「無理…だと思うよ?」

「そこをなんとか頼むよ〜、女子の意見も大事だし?良し悪しだけでも判断してよ〜」

「えぇ…」

一度遅刻を助けてもらった身としてはかなり断りづらい。

「お願い!」

「…わかりました…力にはそんなになれないと思うけど。」

よりにもよってラブソングか、皮肉だ。

「マジ⁈ 助かるよ!」

牧園は少し飛び跳ねた。飛び跳ねた後に私の手を掴み、風の如く走り出した。廊下をものすごいスピードで駆け抜けると、階段を通り過ぎた突き当たりでピタリと止まった。突き当たりにあるのは給湯室と書かれた部屋だった。

「ここがバンドの練習場所、メンバーしかいないから気軽に上がって。」

メンバーしかいないところに上がるのはだいぶと気まずい。息を整えながら牧園の後ろについてゆく。

「おーい、作詞者捕まえてきたよ。」

「あぁ?お前が歌詞考えるって言って飛び出したんだろうが。」

先ほど牧園を呼んでいた野太い声が聞こえる。

「ボクじゃ無理。語彙力皆無だし。」

「作詞者って誰なの。」

別の声も聞こえてくる。残念ながら作詞者と名乗れるほどのセンスは持ち合わせていないので申し訳なくなってくる。

「ジャジャーン、花野さんでーす。」

かなり大袈裟な演出で紹介されたが牧園以外は私も含めなんとも言えない顔をしている。自責の念が募るばかりだ。

「すみません、お力になれるかわかりませんが頑張ります。」

私は顔を引き攣らせながら新入社員ばりの自己紹介を見せた。給湯室を見渡すと所々古いシミが目立つ、ドラムが奥に置いてあり、所狭しと機材らしきものが壁際に積まれてあった。

「女の子じゃん。」

野太い声が反応を返してくれた。声の主はかなりガタイのいい男子で、持っているギターが相対的に小さく見える。

「ラブソングの作詞なんだから女子の意見は大事でしょ。」

牧園がフォローに入る。

「…作詞とかできるの?」

壁際にいたメガネ男子が話に入ってくる。ガタイのいい男子とは裏腹にこっちはいかにもベースを担当してそうなダウナー系。しかし手に握っているのはドラムのスティックだ。

「本とか読んでるって。」

牧園が雑な理由で誤魔化している。今の所かなり反対されているようでこちらは肩身が狭い。

「俺は賛成、男だけで曲を作るよりも女性がいた方がいろんな意見が出るだろ?」

奥の方で静かに座っていた男子が口を開いた。

「やっぱヨモギくんは賛成してくれるよね。」

牧園にヨモギくんと呼ばれた男子は制服を全く着崩さず、頭から足先まで生徒の模範のような格好をしていた。妙に貫禄があり、ついでに圧もあった。

「まあヨモギが言うんなら…」

「ヨモギが認めるんだったらいいか。」

先ほどまでの様子と打って変わりバンドメンバーはヨモギの意見をすぐに受け入れる。ヨモギくんは牧園よりもよっぽど信頼を集めているらしい。

「じゃ、そーゆーことで花野さんウチのバンドへようこそ!」

「あ、はい…」

牧園のノリにはついていけないが、他のバンドメンバーも半ば無視している。

「ボクはギターボーカルね、こっちのでっかいのがリードギターのカモちゃん。」

「鴨岡な、ちゃんと紹介しろよ。」

鴨岡は牧園の紹介に茶々を入れた後に麦茶を胃に流し込んだ。体が大きくて気づかなかったがよく見ると2Lタイプのペットボトルだ。

「ヒョロっとしてるのが野賀くん、ああ見えてもドラマーだよ。」

「うるさいんだよ。」

野賀の弱々しいミドルキックを受け流し、牧園はヨモギに近づいて行った。

「そしてこちらが、大黒柱のヨモギくん。」

「蓬 武博です。よろしく。」

シャキッとしたスマイル、握手のためにスッと差し出した手、まるで営業マンのような身のこなし方に怖さを感じる。とりあえず握手はしてみたが内心はビビっていた。

「ハイ、これ聞いてみて。」

牧園に手渡されたのはCDで表に『しんきょく』と殴り書きがされてあった。今時わざわざCDとは珍しい。

「CDに入れてるの?」

「ヨモギくんがCDが良いって、ウチのデジタル大臣だからさ。これで聞いて。」

もう一つ手渡されたのはかなり時代を感じるポータブルCDプレイヤー、前世の私が高校生の時でもすでにウォークマンがあったというのにまだこれを使っている奴がいたとは。プレイヤーに入れて聞いてみると、CDプレイヤーが悪いのかガビガビで途切れ途切れの音楽が流れてくる。大サビと思われるところが終わったくらいからやっと音質がマシになった。メロディ的にはド定番のロックという感じで曲の良し悪しはわからない。

「どう?歌詞書けそう?」

ちょっと無理そう。とは言えない。

「ちょ…っと、持ち帰ってもいいかな?」

「いいよ!楽しみにしてる。」

楽しみにされても困るが苦笑いだけを返して給湯室を後にした。なぜこんなことを引き受けてしまったのか、私は肩に重荷を乗せて帰宅した。


 期末試験の一週間前になり、放課後の図書室もいい具合に混むようになってしまった。今日も図書室が混み出したため、私は知り合いに会わないようにコソコソと図書室を抜け出した。下駄箱に続く石畳をボーッと歩いていると、足元に転がっていた何かを踏みつけ盛大に転ぶ。石畳から起き上がると足元にはテニスボールがころがっており、憎しみのあまり蹴飛ばしそうになったがその気持ちはなんとか抑えた。腹の虫は全く治まりそうにないため、テニスボールを放置したテニス部員にメンチの一つでも切ってやろうかと思ったが、よく考えると期末試験の一週間前は部活が出来ないことに気づく。私は力任せにテニスボールを握りしめ、諦めて大きなため息を吐きながらボールを返しに行く。体育用具室に向かうとその周辺にもいくつかテニスボールが落ちていることに気づいた。辺りを見回すと、校舎の間から新たなボールが転がってくる。散らばったテニスボールを蹴りながらそこへ進むと、校舎の壁で壁打ちする男子生徒が目に入った。

「お前、何見てんだよ。」

向こうも私に気付きメンチを切ってきた。その顔で思い出した、こいつは以前私の足にボールを直撃させた挙句、謝らずに逆ギレした男だ。名前は本当に思い出せないが、厄介な奴だったことは鮮明に覚えている。

「ボール、しっかり片付けてください。」

私は彼から目を逸らしながらもそう言った。

「うるせぇな、んなことお前に言われる筋合いはない。」

「あなたのボールにつまずいて転んだんです。言う筋合いはあると思いますけど。」

「お前が間抜けなだけだろ。」

少しカチンときたが元アラサーとして高校生に対して感情的になってはいけない。

「そもそも今は期末試験の一週間前なので部活はできないし、こんな隠れたところで壁打ちしてるってことは許可をもらってないですよね。」

少し煽り気味でそう言うと、向こうの眉間に少し皺がよる。やはり痛い所を突かれたらしい。

「脅してんのか?そうやって自分が一番正しいみたいな顔してろよ。」

彼は吐き捨てるようにそう言った。かなりの煽り文句だがこちらは女子高生に転生していても心はアラサー、流石に受け流せるくらいには大人である。それよりも煽り方がが若々しくて見ていて辛い部分もある。

「ボール、片付けてくださいね。」

一言だけそう言い残して私は彼から彼に背を向けた。が、2歩くらい踏み出したところで左腕をガッツリと掴まれた。

「どわっ、」

予想外のことに情けのない声を出してしまった。先ほどまでの大人の余裕はどこにいったのか。

「何ですか。」

私はしっかりと彼を睨んだ。

「このことは誰にも言うな。」

彼も負けじとこちらを睨んでいる。

「離してください。」

左腕を振り払ってみるが彼の手が離れる様子はない。

「離してもらえますか。」

彼は腕を離すどころかどんどん力を強めている。彼の手に血管が浮き出ていた。

「離してください!」

身の危険を感じた私は語気を荒げた。それでもなお彼の手はしかと私の左腕を掴んでいた。私は怒りよりも恐怖が頭に浮かんでくる。どうしよう、乙女ゲームって暴力を振るわれるもんなの⁈

「おい峠坂、お前何してんだよ。」

まさかのヒーロー登場に期待をして振り返ると、そこには五月雨の姿があった。その時の私の表情はさぞかし酷いものだっただろう。

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