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レウス島

 この孤島には、伝説が受け継がれる。その伝承を要約するとこうだ。


【力は原罪には勝てず。神はその事実を恐れたのだ】



***



「嬢ちゃんは本当にハンターなのかい?」

「勿論!こう見えても鬼人族ですのよ!」


 漁船の船長は歯ごたえをあまり感じ取れない様な表情を見せ、首を傾げた。そして考えるのを止めると、海に浮かぶレウス島を眺め、ハンターとは思わしくない自称双剣使いを再び見返した。


「あんた…本当に大丈夫かい?これからあの島に行くんだろ?あの島はレウスの繁殖場所で並のクエストで近づける場所じゃねぇんだぜ、ハンターじゃ無い俺の見解ですまんが…どうもその装備じゃ不安だな…」


 そのハンターはムッとした表情を浮かべ自分の装備を眺めた。たしかに彼女の風貌はハンターに相応しくはない、生まれも育ちもモンスター達とじゃれ合う様な、血と汗にまみれた環境にはいなっかた。むしろその逆で彼女はある国の貴族である。故に彼女の言ったことには間違いはなかった。鬼人族の直系、ハンターになる者や、軍隊のソルジャーとなる者には必ず流れている鬼人族の血、それは他の種族には類を見ない強靭な体を持たらし、戦いの中で鬼を降臨させられるほどの狂気を兼ね揃えている。

 より力を持つものが王族として君臨することが歴史上多かったこの時代、鬼人の血を色濃く受け継ぐ直系は、貴族としてもてはやされることが多かった。それこそが国の象徴と成りえたのだ。


「お父様の形見の武具をバカにされた…何故かしら、女性用に拵え直したから?」


 ハンターはお供のアイルーに慰めを求めた。


「ご主人様…船長は別に形見の武具をバカにした訳ではないにゃ、出発前に気づくべきだったにゃ…、いつものこと過ぎて僕も抜けていたにゃ」


 そのアイルーは下半身を指刺し、自分の主人に溜息混じりに諭すのである。


「腰がインナーのままにゃ…」


 二人の無言の間に風が流れ、その場の空気と共にハンターの腰を冷めたものへと強調した。

 彼女の名は「リリー・アン・バウンズ」亡き父を追ってハンターの道を駆け出したばかりである、家出も兼ねてだが…故に自国の捜索隊から追われる身でもある。父の武具を愛用し、父の双剣を好み鬼人族の直系のプライドである「鬼人化」を、今はまだ練習中である。

 リリーのお供のアイルーは「ウォルター」と言い、そんなリリーがドスファンゴに襲われているところを、たまたま助けた、主人を持たなかったハグレアイルーである。

 リリーの無謀過ぎるハンターライフをほっておくことが出来ずに、流れでお供アイルーとして落ち着いてしまった。見かけない武器防具を身にまとい、過去をあまりしゃべりたがらない性格である。


「嬢ちゃん、着いたぜ。本当にここでいいんだな?」


 レウス島、上級ハンターでもクエスト発注があまり無い為、ほとんど訪れることが無い島。リリーは船長の問いに無言で頷くと船をウォルターと共に降りる、彼女等はその静かで不気味な孤島へと足を踏み入れた。


「船長…、あのハンターなんでギルド船に乗らずウチラの漁船を利用したんですかね?」

 

 一人の船員が尋ねると。


「…さあな、確かに密猟ハンターには見えねーよな…ウチラの船を漁船て知らなかったりしてな」

「ギルド船だと思っているってことですか…?じゃぁ…もしかしてこの島じゃないんじゃないですか?だってうちら、リオレウスが居る島に行くとしか言ってませんけど…」

「うーん…知らねーよんなこたあ、自称天下のハンター様だぜ。今更、金返して何になる」


 リリーはクエストとは関係の無い孤島へと足を踏み入れていた。その事実を二人は知らない。



***



 密林を進むとウォルターが髭をひくつかせ辺りの匂いを嗅ぐ素振りを見せた。


「ご主人様、音は立てるなにゃ…この島、誰かいるにゃ」


 その匂いを辿るとそこには古びたベースキャンプがある。ウォルターはそこに人影があることに気付くと。リリーが不味い行動を取らないか振り向き確認する。


「誰かしら…おかしいわよね、これは村クエのはずだけど・・・」


 リリーがいきなり声を掛けに行くのではないかと警戒していたウォルターは一先ずほっとすると、その人影を凝視する。そして全てを察して頭を抑えるのであった。


「なんでこうなるにゃ…?だから僕がクエスト受注をしておくと言ったんにゃ…今回は全て任せろって…信じた僕がバカだったにゃ」


 リリーは現状を把握することなく、ウォルターの言葉に対してきょとんとするだけである。


「あのー…すみませーん、どちら様か存じ上げませんが、私達受注料金は払っていますのよ。かってに横取…!?」


 やるであろうとは思っていたがそのリリーの行動に対して、慌ててウォルターはリリーの口を塞ぎ止めた。


「この馬鹿ご主人!」

「…!?誰だ貴様!」


 人影は急に構えを取り今にも打ち込む体制を整えた、その素早い構えが放つ音は実に心地良い音を奏でた。真に手練れのハンターが奏でる音であった。ヘビーボウガンをこちらに照準を合わせると銃口をびたりと止める。そのシルエットは女性であった。


「話を聞いてほしいにゃ!武器は今すぐ捨てるし、敵意が無いことはこのアホなご主人が腰だけインナーなのを見て、どうか悟ってほしいにゃ!!」


 ガンナーの女はしどろもどろするリリーとウォルターを見て、長い沈黙を経た後にこうつぶやく。


「生ぬるいこと言ってる場合かい」


 そのガンナーは引き金を引く。その銃声に驚きリリーは悲鳴を上げ、ウォルターはリリーを渾身の体当たりで突き飛ばした。


「…ふふ、あはははは。…凄い慌て様だね…安心しな、空砲だよ」


 ガンナーの女は肩を震わせ笑っている、その姿にリリーとウォルターは口を開け唖然とする。状況を理解したウォルターは怒りを抑えながら震え声で言葉を交わす。


「…悪い冗談にゃ…」


ウォルターは肉球の汗を拭うと、リリーを抱き上げた。


「な、何してるにゃ!…重いにゃ、ご主人様しっかり立つにゃ!力入れろ!」


 リリーはぐったりしてウォルターの声に反応することはなかった。


「…何その子?白目むいちゃって…あらま」


 リリーは気絶してしまっていた。



***



 リリーが目を覚ますとあたりはすっかり暗くなっていた、ベースキャンプでは火を囲むようにしてウォルターが座っていた、そして先ほどのガンナーの女、そしてもうひとり・・・男の様だ。


「…!ご主人様がやっと起きたにゃ!大丈夫かにゃ!」


 ウォルターはリリーに駆け寄ると背中を小さな体で支え酷く心配する。


「お姫様のお目覚めね・・・キスは必要なかったみたいね」

「…なんだよ、あと一刻待てば俺っちの厚い唇の目覚ましが味わえたのになぁ」


 リリーが状況を掴めることはなく唯混乱するばかりでそのままにしておけばまた気絶するのではないかと言う程であった。見かねたガンナーの女は半笑いで謝罪をしリリーを落ち着かせる様に説明をして見せる、リリーは理解するとけろっと落ち着きを見せすぐに打ち解け団欒に加わった。

 ウォルターはそれもどうかと思いつつも、リリーの笑顔を見て安堵する。しかし油断は出来ないと武器を離すことはなかった。なぜなら彼らは密猟ハンターであったのだ。


「すると、あんたは村専属のギルド公認のハンター、てな訳ね?」

「はい、その通りですわ。この度、実力を認められて小さな村ですが専属ハンターとして勤めさせて頂いております」


 リリーは得意げに胸を張った。


「ところでお二人は・・・?」

「あーそうね、お姫様には密猟ハンターと言っても解らないか、なら自己紹介がてら教えてあげるわ」


 ガンナーの女の名前は「フローラ・ルース」屈強な女性ハンターなのが伺えるが、大人の女性の魅力も兼ねそろえている。もう一人の男の名は「ロン・ブラウン」太刀の使い手で性格は落ち着かず、子供っぽいところが見え隠れする。

 彼らは密猟者である、ギルド非公認のクエストを主に受注し、他国のモンスターの素材などを主に売買している。

 個々の国にしか生息しないモンスターの素材は、国同士の軍事力の差を大きく生む原因であるため、彼らの様な密猟者は軍の下で働くことが多い。よって自国に帰れば彼らは密猟者とは呼ばれない、スパイや特殊部隊要員と呼ばれることが多い。

 

「だからと言って軍隊の人間てな訳ではないわ。私はあくまでハンター、ハンターであるために密猟をしているの、意味解る?軍に定期的に素材を持ち込めば徴兵を間逃れるのよ…」


 リリーは不思議に思った。


「なぜソルジャーが嫌なのですか?ハンターもソルジャーも危険は同じでしょう…どちらかと言えばハンターの方が…」

 

 その質問にリリーは少し引きつった表情を見せるとそれを隠すように口に手をあて少し沈黙を置いた、そして少し目を伏せるとフローラは口を開く。


「もう…人を殺したくないのよ…」


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