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39 新しい仲間

 見た目幼児の神ジイが旨そうにブルーマウンテンを飲んでいる。

 それを興味深そうに見ていた山田さんが口を開いた。


「お聞きしても良いですか?」


「なんじゃ?」


「もしかして神様ですか?」


「そうじゃが?」


「なぜ子供の姿なのでしょう」


「今日の気分じゃ」


 山田さんが少し咽た。

 僕は慌てて水を出す。


「あなた様が唯一神……」


 山田さんの独り言を神ジイがぶった切った。


「誰が唯一神などと言った? 神とは何かを勘違いしているようじゃが、まあそれは致し方あるまい。今の人間たちのほとんどがそうじゃからな。かつてこの国の民は正しく理解しておったのじゃがのぅ」


「もしかして『八百万神』のこと?」


 神ジイが本日のデザートであるチョコムースを口の横にぺちょっとつけたまま、驚いた顔をした。


「なんじゃ、お前は知っておるのか。そうじゃ、その八百万じゃよ。まあ、それだけでは無いがの」


「私って田舎の生まれで、今はもう誰も身寄りがいないのですが、一緒に暮らしていた祖母がよくお祈りをしていたのです。何もない場所でいきなり立ち止まって山を拝んだり、ほんの小さな溝のような流れを跨ぐときでも『申し訳ございません』って言って」


「正しい在り様じゃ」


「なぜって聞いたら『全てのものに神様はいらっしゃるのだよ』って教えてくれました。まったく意味がわからなかったけれど、全てにってことは、このカップにも?」


 山田さんが僕の顔を見た。

 神ジイと三沢さんがニヤついた顔で視線を寄こしてくる。

 僕が答えるの?


「裕子さんが居るのだと思えば居るんだよ」


 言いながら背中を冷や汗が流れる。

 いったい何の罰ゲームなんだ?


「正解だ、聡志。なかなか成長したなぁ。ところで三沢、紹介してくれよ」


 古村さんと裕子さんが入ってきた。

 また二人でお金……もとい、落ち葉でも集めていたのかな?


「山田玲子さんだ。今日からここに住んでもらう。私の思い人だから絶対に手を出すなよ」


 サラっと言っちゃったねぇ、三沢さん。


「そうかぁ、よろしくお願いします。俺は古村広之進といいます。三沢と同じ狐です」


 古村さんって敬語も知ってたんだ。


「私は西尾裕子です。私は二十四の時に死んじゃった元人間です。狐神の教えで人間の姿をキープできるようになったのですが、私も聡志君と同じ『素の魂』なんですよ。どうぞよろしくお願いします」


 山田さんがニコニコと笑っている。


「お二人はカップルなのかしら。なんだかとてもお似合いね」


 裕子さんは吹き出し、古村さんは真っ赤な顔で俯いた。

 この反応はもしや?

 古村さんが慌てて声を出す。


「俺と三沢は古書店の前の祠に住んでいますが、こいつと裕子ちゃんはここの二階に住んでます。二人とも魂なので、山田さんが初の人間の生身ってことになりますね。お部屋はどこでもお好きな部屋を選んで下さい。内装は山田さんの……もう同居するんだから玲子さんで良いでしょ? それとため口も許してね。内装は玲子さんの好きに変えていいよ」


「もちろんよ。私もその方が嬉しいし。でも内装を変えるなんて申し訳ないわ」


 神ジイがコホンとひとつ咳をした。

 どうやら仲間に入りたいらしい。


「それは心配するな。ワシがなんとでもしてやろう」


 どうやら明朝の僕の仕事がきまったみたい。

 朝の海岸で貝殻を集めるのはなかなか寒いし重労働なんだよね……。


「そうだよ、使えるものは神でも使えって言うでしょ?」


 いやいや裕子さん、古村さんの影響受け過ぎだから! しかも悪い方で。

 全員が笑っている。

 笑っていないのは早起き確定の僕だけだ。


「玲子さんが居るなら、私もこっちに住もうかな」


 おっと! 三沢さんの爆弾発言だ!


「お前がそういうなら、俺だって裕子ちゃんの隣に住みたい」


 なんと! 古村さんまで暴走を始めた!


「まあ構わんじゃろ。ペットがおるというのは癒しになるでのう」


 神ジイ……言い方。


「ではワシは帰るでの」


 ボワンと消えた神ジイを見送る玲子さんの顔は、なんというか憑き物が落ちた? それとも憑いた? まあどちらでも良いけれど、とっても優しい顔になっていた。


「死ぬ気は失せたかな?」


 三沢さんが玲子さんに言う。


「ええ、あなたには何でもお見通しなのね」


「まあ、伊達に長くは生きていないからね。私は今年で九十になるのだけれど、玲子さんはいくつなの?」


「私は三十二よ」


「厄年か……お祓いに行く? みんなで一緒にさ」


 古村さんが素敵なことを口にした。


「いいなぁ、行くならあそこか?」


「うん、あそこしかないでしょ。それとも呼ぶ? 稲荷ずし作ったらすぐ来るんじゃない?」


「まあ、たまには社員旅行とシャレ込もうか。飛ばずに陸路で」


「ははは! なかなか楽しそうだ。じゃあ決まりだな」


 ということで、今度の店休日を挟んだ三日で社員旅行に行くことになった。

 まさか『お前はバイトだから』とか言って、大人だけで楽しもうなんて許さないからね?


「どこに行くの?」


 置いて行かれまいと僕は慌てて声を出した。


「今月は津和野じゃなかったか?」


「そうだっけ? まあ本人に聞いておくよ」


 こんな会話には早く慣れた方がいいよ、玲子さん。

 習うより慣れろって言うでしょ?


「では我らは今日は祠に戻る。明日からはこちらに来るのでよろしく」


 僕はふと気になったことを聞いた。


「あっちって留守にしちゃって良いの?」


「誰も参らない祠などただの石だろ。それに石造りは寒いんだ。まあ夏場の別荘だと思え」


「なるほど……」


 古村さんの言葉に三沢さんが苦笑いで言う。


「古村は寒がりでね、木の葉をたくさん敷き詰めているから部屋が汚いんだよ。掃除もしないし。秋には鈴虫がうるさい」


 それって本当に暖をとるため? それとも金を敷いて……。


「聡志、お前今ものすごく失礼なことを考えただろ。違うぞ」


「ははは……」


 笑ってごまかす術を覚えた僕は、大人の仲間入りをしてしまったのだろうか。


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