第4話
「主任、ちょっといいですか」
島崎京子が言う。
「今、柳原課長から電話あったんですけど、体調不良で今日は休むそうです」
「そうか、課長もか」
水原浩一はキーボードのノートPCに指を走らせる。
予防接種課の事務室はいつもより閑散としていた。
中林正司が社員食堂で亡くなって以来、厚労省職員では体調不良を訴える者が後を絶たない。
亡くなった職員は中林を含め六人。
また死んではいないが寝たきりになった者が二十名弱。
その他、風邪など軽い症状を含めれば、七割以上の職員が体調不良の憂き目になっている。
なにか原因があるはずだ。
水原はそう思い、PCで検索してみた。
検索キーワードは『魔人の友達の友達』。
中林の話では謎のインフルエンサー『魔人の友達の友達』が、厚労省職員向けにウイルスを散布したとのことだった。
ネットでは『魔人の友達の友達』のアカウントは見つからなかったが、『魔人の友達の友達のそのまた友達』というサイトが見つかった。
サイトの管理人は『魔人の友達の友達』によくアクセスしており、『魔人の友達の友達』のツイートなどを解説していた。
それによるとオリジナルの”魔人”は正体不明の人物。本名はもちろん、住所、年齢、性別、職業、国籍不明。日本にいないかもしれないとのこと。
また”魔人の友達”は魔人の専属エージェント。この人物も正体不明だが、おそらく日本国内在住で日本語を操る人物ど想定される。
”魔人の友達”は会員制サイトを運営しており、会員にだけ情報を流す。この会員は十数名いるがこのうちの一人もしくは二人が、ときどきSNSに書き込みをして情報をリークする。このリークする人物が『魔人の友達の友達』とのこと。
『魔人の友達の友達』はSNSに書き込むとすぐ削除する。だから彼が書き込んだ瞬間にデータを保存しないと貴重な情報がなくなってしまう。
『魔人の友達の友達のそのまた友達』はこうした情報をできるだけ保存しておくサイトだった。
「魔人の友達の友達』は”魔人”もしくは”魔人の友達”の指示で情報リークしているのか、それとも勝手にリークしているのかは不明。
『魔人の友達の友達のそのまた友達』のサイトでは、特定のDNAにだけ感染する人工ウイルスの製造方法についても書かれていた。
デスクトップサイズのバイオリアクター、細胞培養装置、分析装置が紹介されており、ネット通販で購入できる大腸菌などを材料に人工ウイルス作成法が詳細に説明してあった。
またソフトウェアをダウンロードすると、バイオリアクターなどの装置にパラメータを指定できる。
「主任、例の書類作成しましたが」
京子だった。
「そこに置いといてくれ」
我に返った水原はノートPCの手を休めて言う。
京子は書類を机に置くと、その場を立ち去った。
(つづく)




