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アンニュイな午後 選民たちの憂鬱  作者: カキヒト・シラズ


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3/4

第3話

 午後九時前に帰宅したのは久しぶりだった。

 タワマンの30階が水原浩一の自宅だった。

「早かったじゃない」

 ドアホンを押すとほどなくして妻の美香がドアを開けた。

「たまには早く帰りたいよ」

 水原は革靴を脱ぎ、玄関に上がる。


 リビングルームのソファに腰掛けると、美香が無言のまま缶ビールを渡す。

 ステイオンタブを開け、一口すする。

「早紀のことなんだけど」

 美香が隣に座る。

「学校でねえ。コロナワクチン打つよう勧められたみたいなの」

「だめだ。いつも言ってるけど、あれは絶対に打っちゃいけない」

「でもテレビ見てると打った方がいいみたいなことを専門家が言ってたわ」

「その専門家も自分ではワクチン打ってないんじゃないかな。

 国民にはワクチンを薦めるけど、毒だとわかっているから自分では打たない。

 でないとその専門家は早晩仏様になるか、寝たきりだな」

「……」

「それより早紀はどうしてる?」

「もう寝てるわ」

「そうか、いつも早いなあ」

 水原は一気に缶ビールを飲みほした。



 早朝の日比谷公園は人もまばらだった。

 Mはベンチに腰掛けるとリュックからドローン、リモコン、そしてノートPCを取り出した。

 ノートPCを立ち上げた後、リモコンでドローンを飛ばしてみる。

 ノートPCをベンチの自分の隣に置き、リモコンを膝にのせて操縦した。

 ドローンは日比谷公園を越え、道路に出た。

 道路を越えると歩道があり、その向こうに中央合同庁舎5号館がある。

 ドローンに備え付けのカメラから、ノートPCのディスプレイに歩道の様子が映し出される。

 通勤する多くの公務員の頭上にドローンから霧を噴霧する。噴霧は2分以上、続いた。

 最初にドローンに気づいたのは、5号館の警備員だ。

 警棒を振り回して怒鳴る顔がノートPCから見える。これはまずい。撤収するか。

 Mはリモコンでドローンを公園の方へ移動させる。

 リュックにドローン、リモコン、ノートPCをしまうのに30秒もかからなかった。

「ちょっと君」

 ベンチから立ち上がろうとすると、警備員に呼び止められる。

「ここにドローンが飛んで来なかったか」

 Mは警備員を睨みつける。ノートPCに映っていた顔だ。

「ドローンなら、あっちへ飛んでいきましたよ」

 Mは適当な方向を指さした。

「ありがとう」

 警備員はMが指さした方向へ小走りで進んでいった。

 まぬけな野郎だ。Mは胸の中で毒づいた。

 Mは警備員と反対方向へ歩いていった。

 

 

 水原は笑緑食堂で日替わり定食を食べていた。

 笑緑食堂霞ヶ関本庁店は中央合同庁舎5号館にある厚労省職員の社員食堂だ。

「ここいいかな」

 水原の向かい側に恰幅のいい男が座る。

 中林正司――水原の厚労省の同期で、同じ健康生活衛生局に所属するが、中林は感染予防対策課主任だった。

 中林の膳も日替わり定食だった。

「どうしてる?」

 水原が聞く。

「相変わらずだね。コロナのおかげでそっちも忙しいかもしれんが、こっちもてんてこまいだよ」

「お互いさまだな」

 顔色が少し悪そうだ。中林を見て水原はそう思う。向こうの部署も忙しいのかな。 

「ところでさあ」

 中林が言う。

「話変わるけど、”魔人の友達の友達”って知ってる?」

「何だそれ。聞いたこともない」

 中林は長々と話し始める。

 話を始めると他人が聞いていようが聞いていまいがお構いなく長時間しゃべる男。水原はいつもそういう彼の習性に辟易していることを思い出す。

 中林の話では、”魔人の友達の友達”とは複数の人気SNSで話題のアカウントだった。

 複数のSNS間で同一人物なのか、別人なのか検証されてないが、数万人いるフォロワーたちの多くは同一人物と信じているらしかった。

 ”魔人の友達の友達”はいわゆる反ワクのインフルエンサーだった。

 コロナワクチンはコロナの予防接種という名目で世界中の政府が大衆に打たせているが、実はワクチンは猛毒で、地球規模の人口削減を目的に各国政府が手を組んで大衆を殺戮しているという神話。

 これは他の反ワクインフルエンサーと同じだ。

 だが”魔人の友達の友達”が他の反ワクインフルエンサーと違うのは、ワクチンを打たせた厚労省に復習を計画しているという点だった。

 ”魔人の友達の友達”はバイオテクノロジーに精通しており、厚労省職員だけが感染するウイルスを開発して、ドローンで中央合同庁舎5号館の通用口付近に散布した。通勤する職員の数名が感染すれば、後は庁舎内で他の職員にも感染させるという計画だ。

「信じられないなあ」

 水原が言う。

「どうせデマだろう。おれたち職員だけしか感染しないって病原菌、あるわけないだろう」

「それがあるんだよ」

 中林が言う。

「最新のバイオテクノロジーでは特定のDNAしか感染しないウイルスを製造できるようなんだ」

「でもどうしてそいつはおれたちのDNA情報を入手できるんだい」

「半年前、職員の健康診断があっただろう。あのとき血液検体から検出したDNAデータをやつはPCでハッキングしたみたいなんだ」

「ますます信じられないな」

「ともかく今朝、ドローンで人工ウイルスをおれたちに撒いたって書き込みがSNSにあって、炎上してるみたいなんだ」

 中林はスマホを水原に見せる。

 だが水原はスマホを見るふりをしただけで、最初から彼の話には興味なかった。

「おそろしいよな。ウイルス反対のデモ隊より、こういう手合いの方が面倒だと思わないか。

 それに…...」

 中林はふと無口になり、椅子から転げ落ちて床に倒れた。

「どうした。たいじょうぶか」

 水原は慌てて立ち上がる。

 中林は口から血を吐いている。

「だれか、救急車を呼んでくれ」

 水原は周囲に叫ぶ。


 中林の死亡が確認されたのはそれから二時間後だった。


(つづく)

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