第90話 栗山家での食事2
「進さん、初音さん、今日はお招きいただき、ありがとうございます」
「もう、涼君そんな堅っ苦しくならないで」
「そうだぞ涼君、ここを自分のうちと思ってリラックスしてくれ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
「敬語もいらないのよ」
「いえ、流石にそう言うわけには行きません」
「じゃあ、徐々に崩していってね」
「ありがとうございます」
天音が声をあげる。
「お母さん、お腹減った。今日のご飯なに?」
「もう、涼君がいるのになんですか? 涼君に引かれるわよ」
「お兄ちゃんはそんなことで引かないもんねー」
「あはは」
「今日はすき焼きよ。部活やってきたんだから、先にお風呂行ったらどう?」
「お兄ちゃんのうちでシャワー浴びてきたから大丈夫」
「まあ、ごめんなさいね、涼君」
「いえ、僕も動いて汗かいていたんで、シャワー浴びてからきたかったのでいいんです」
「そう? 迷惑だったら断っていいからね」
「迷惑なんかじゃないですよ。賑やかで嬉しいです」
「そうだよ、お兄ちゃんは優しいんだもん」
「調子のいい子ね。奏と天音、準備を手伝って」
「「はーい」」
「なんか、僕はやることありますか?」
「じゃあ、進さんの相手していてもらえるかしら」
「はい。進さん、ここに座っていいですか?」
「もちろん」
「奏に聞いたよ。昨日物件を見に行ったんだって?」
「はい、と言っても自分の物件なんで、たいしたことしてないですが」
それから、進と投資用物件の話などして過ごした。
しばらく経ってから、いい匂いが流れ始めた。
それにつられて、お腹がぎゅうっと減ってきた。
「涼君、もう少しだからね」
奏が隣に座った。
「準備はもういいの?」
「うん、あとは天音とお母さんがやるから」
「そうなんだ」
「涼君はすき焼きは好き?」
「ああ、鍋の中でかなり上位に入るくらい好きだな」
「私も」
「特にすき焼きは寒い冬はもちろん、暑い季節も美味しく食べられるって言うのがいいよな」
「そうだよね。他の鍋料理は夏はやる気しないもんね」
「だな」
「今日は楽しかった?」
「ああ、中学生が眩しかったよ。1年しか違わないのにな」
「そうだね。でも涼君は特にじゃない?」
「ああ、俺部活やってなかったから、余計にそう感じたかもな」
「そうだろうね」
天音が声をかけてきた。
「準備できたよ。テーブルに座ってー」
「「はーい」」
テーブルに座ると、甘く食欲をそそる匂いを立てながら、すき焼きが煮えている。
初音が座りながら言った。
「今日は涼君がくるから、お肉奮発しちゃった。遠慮しないで食べてね」
「ありがとうございます。嬉しいです」
「「「「「いただきます」」」」」
すると、すかさず天音が
「お兄ちゃん、アーン」
「天音?」
「ダメよ、天音」
「いいんだよ、お兄ちゃんアーン」
涼はチラと、進と初音を見る
(2人の前でやるのはハードルが高いのにー)
「まあ、じゃあ私もやろうかしら。進さんアーン」
進は、面食らっている。
涼に気を使ったのだろう。
「ほら、お兄ちゃん早く。アーン」
「アーン」
パクッ
「美味しい?お兄ちゃん」
「うん、すごく美味しい」
(やった、お姉ちゃんの前にお兄ちゃんにアーンしちゃった。嬉しいな)
柔らかい肉にちょうど良い脂がついていてとても美味しい。
「それなら、私も。涼君しいたけあげるね。アーン」
涼は抵抗するのをやめて、流れに身を任せた。
「アーン」
パクッ
すき焼きの汁と椎茸の旨みが合わさって、とてもうまい。
「涼君、美味しい?」
「うん、美味しいよ」
(涼君にアーンするの緊張するよ。でも、すごく嬉しいかも)
「お兄ちゃん、次は何が食べたい?」
「だめだ天音。 一回はしたけど、ちゃんと自分で食べないと、体を作れないよ」
「はーい。じゃあ、デザートでやってあげるからね」
「じゃあ、私は部活やってないから、涼君にアーンしてあげる」
「奏もダメ。奏だって同好会するんでしょ。って言うか、今の時期に栄養を疎かにしちゃだめ」
「まあ、涼君偉いわ」
「いや、涼君、どの口が言ってるのかな?」
「そうだよお兄ちゃん。ご飯すごい適当でしょ」
「う……俺は良くても、2人には健康でいてもらいたいんだよ」
「それは私も同じだよ涼君」
「そうだよ、お兄ちゃん。この間だって心配したんだよ」
「そ、それは……そうだ、進さんと初音さん。先週は奏と天音を寄越していただいてありがとうございました。
おかげさまで何事もなく過ごせました」
「あ、誤魔化した」
「あからさまだよ、涼君」
「あら、いいのよ涼君。うちの子達が役に立てたなら。ね、あなた」
「ああ、そうだな。涼君に何もなくてよかったよ。話を聞いて心配していたからね」
「ありがとうございます」
「まあ、泊まるのはやり過ぎな気もするが」
「は、はい、そうですよね。すみません」
「お父さん、それについてはきちんと話したよね。涼君から目を離せなかったのよ」
「そうだよ、お父さん。お兄ちゃんにもしものことがあったらどうするの」
「うっ」
「うふふ、あなたの負けね。進さん」
「お前まで……」
(女系家族のお父さんも大変だな)
進を哀れに思い、一歩間違えれば自分もああなるんだろうなと、身が引き締まる思いの涼だった。
そのあとは、和やかに食事も進み、片付けて、デザートに駅前のケーキ店のケーキを食べることになった。
「涼君、私のチョコレートケーキ食べてね。アーン」
「じゃあ、お兄ちゃん、私のモンブランあげる。アーン」
「2人同時は無理なんですけど」
「まあ、涼君はモテモテね」
2人は引かなかったので、今度は奏のケーキから食べた。
「涼君、いちごショート食べたい」
「ああ、いいよ」
皿ごと出すが、奏は受け取らないで口を開けている。
「アーン」
「分かったよ。アーン」
「ふふ、美味しい」
「今度私にも、アーン」
「はい、アーン」
「美味しいよお兄ちゃん」
「それはよかった」
微妙な顔をしている進が話題を変えた。
「それはそうと、涼君。今回の事は本当に災難だったね。彼も今までこんなことするタイプではなかったと思うんだけどね」
「そうですね、正直異常かなって思っています。水曜日のことは奏から聞いていますか?」
「聞いてないな」
「私もね」
「私は聞いた」
涼は、わかる部分を話し、奏が補足した。
「まあ、そんなことが」
「うーん、どうしたんだろうね、彼は」
「エスカレート傾向にあるので、栗山家のみなさんも奏のことは気をつけてあげてください」
「そうだね、聞く限り、奏に執着しているように見えるしね」
「天音も、奏ほどじゃないけど、名前は出てきてたから、気をつけてな」
「すごく嫌なんだけど」
「また、何かあったら、私からもお二人にチャットなどで連絡しますね」
「ああ、そうしてくれるとありがたいよ」
ひとしきり話して、そろそろ帰る時間かと涼が時計を見上げると、奏がすかさず言った。
「涼君、まだ私の部屋に来たことなかったよね。部屋に行こうよ」
「え? 奏の部屋?」
「うん、まだ時間あるでしょ」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、行こう」
「ああ、分かった」
天音が、声をかけてくる。
「お兄ちゃん、今度は私の部屋に来てね」
「今度な」
そして、奏の部屋に入った。
(なんか、すごいいい匂いするー)




