第87話 姉妹の恋バナ
奏は今日もベッドに横たわり、まどかと通話していた。
「まどか、私ね。うーん、言っちゃおうかな、どうしようかな?」
『何、奏。そこまで言うなら言っちゃいなよ』
「でも、恥ずかしいんだよね」
『言いたいんでしょ。聞くよ』
「うん、じゃあ言うね。私ねー、恋をしてるの」
『うん』
「反応薄くない!?」
『だって、そんなの今更でしょ』
「違うの! 今日、大山くんとやり合ったでしょ。その時に色々口に出して気持ちが解放されたせいか、涼君を見ると、すごくドキドキするようになったの。近くに居られないくらいドキドキして、でも離れると寂しくて。どうすればいいかわからないくらいになっちゃったの」
『それで、今日の昼休みは様子がおかしかったのね』
「うん、涼君に向かい合って座ると、涼君がキラキラしてみてられなくて、しょうがないから横に座ると、ドキドキしてご飯が喉を通らなくて、でも気づかれたくないから、一生懸命食べたんだよ」
『そうなんだ。その割には食べた後、涼君にもたれかかってたじゃない?』
「あれも、顔を見れないから後ろ向けばいいかなって思って。でもくっついてたくてもたれかかった。
すごいドキドキしたけど、安心もしたよ」
『はぁ、確かに恋をしたようね』
「うん、そうなの」
『それで、告白するの?』
「しない!」
『え?』
「告白しない」
『どうしてよ』
「今の関係を壊したくないのよ。涼君には他に気になる子がいるみたいだし」
『それはそうかもしれないけど、いいの?』
「今はこのままでいいよ」
『他の子が告白しちゃうかもしれないよ』
「それは嫌だけど、涼君は私たちが困るようなことはしないと思うし」
『だって、涼君には気になる子がいるんでしょ。その子が告白したらどうするの?』
「それは、まずいかもだけど」
『じゃあさ、その気になる子って誰なのか聞いてみたら?』
「えー、できないよそんなこと」
『じゃあ、私が聞いてあげるよ』
「いいの?」
『うん、私も気になるし』
「え?ごめん、声小さくてうんまでしか聞こえなかった」
『ああ、なんでもないよ』
「そうなの?」
『それじゃあ、また明日ね』
「うん、おやすみ」
奏がスマホをベッドの上に放り出すと、同時に部屋のドアがノックされた。
「お姉ちゃん?」
「どうしたの、天音。入って」
「うん」
天音が入ってきて、ローテーブルの前のクッションに座る。
「どうしたの?」
「お姉ちゃん、今日おかしかったけど何かあったの?」
「おかしかった?」
「うん、お兄ちゃんのところにいる頃から。勉強はちゃんとやるんだけど、他のことはなんか」
「変だった?」
「うん、紅茶はこぼすし、平らなところでつまずくし、お兄ちゃんのことボーッと見つめてたり、急にニヤニヤしたり、うちでもそうだったし。どうしたの?」
「そんな酷かったんだ。私」
「そうだよ」
「実を言うと、私ね」
「うん」
「涼君に恋をしていることを今日はっきり自覚したんだ」
「えっ、そうなの」
奏は、賢治に呼び出されたところから、涼に対して自分がどういう反応をしてしまうかまで話した。
「そうだったんだ。そんなことがあったんだね。完全に恋だね」
「うん、そうだと思う」
「ねえ、お姉ちゃん、そんなにキラキラして見えるの?」
「涼君はもともとカッコよかったけど、それがありえないくらいかっこいいんだよ。キラキラエフェクトがかかってる感じがする」
「えー、そうなんだ。じゃあ、私はやっぱり違うのかな」
「何?、天音」
「ううん、なんでもない。でもよかったね。やっと自覚できたんだね」
(天音もまどかも時々声が小さくなるんだよね。多分私に言いにくいことなんだろうな)
「うん、とっても幸せな気分なんだ」
「そうなんだ。告白するの?」
「まどかとも話したんだけどね。告白はしないことに決めたの」
「えーなんで?」
「今の関係がすごく心地いいから壊したくないっていうのがあるの」
「うん、今の関係って、なかなかない関係だよね」
「それに、涼君に気になる人がいるみたいなんだよね」
「えー、そうなの?」
「うん、告白しても、その人選んじゃったら、もう終わりだから」
「それは嫌だね」
「うん、まどかが今度、誰が気になるのか聞いてくれるみたいなんだけど」
「そっか、じゃあ、それ待ちだね」
「うん」
「……お姉ちゃん」
「何?」
「私、お兄ちゃんに今まで通りに甘えてもいいかな」
「それは……」
「……」
「天音」
「うん」
「正直言って、独占したいんだ」
「うん」
「でも、天音といるときの涼君も私好き。とっても優しい顔してるの。そのときの天音も好きよ。だから、それを私は奪いたくないの。今まで通り甘えてもいいよ」
「お姉ちゃん、ありがとう」
「それに、涼君は私のものではないよ。今はね」
「今はなんだね」
「やっぱりいつかはって期待しちゃうからね」
「そっか。お姉ちゃんが、お兄ちゃんと付き合っても、お兄ちゃんにいっぱい甘えさせてもらうからね」
「……ちょっと早まったかな」
奏は涼を独占したい気持ちはある。
しかし、もし付き合ったとして、涼を縛る事によって天音に悲しい思いをさせたくないという本心も持っていた。
実はこの時に下した奏の決断で、涼と天音の仲は普通の男女より距離が近くなるのだが、その事が後になって、奏を安心させる材料になるのだった。しかし、今は知る由もない事ではある。
「お姉ちゃん」
「何?」
「いつかお兄ちゃんがお姉ちゃんに告白してくれたらいいね」
「っ! そんな時が来るかな」
「私は、そうなる気がしてるよ」
「あーあ、そうなればいいなぁ」
「そうだね、お姉ちゃん」
「うん」
「それはそうと、相変わらずひどいね、あいつ」
誰のことか聞かなくてもわかる。
「本当に頭に来たけど、恋を自覚したきっかけになったから、今回は感謝かな、なんて」
「確かにね。そう言う意味では役に立ったね」
「うん、そうだね」
「でも、まだ付き纏ってきそうだね」
「それはあるかもね。嫌だなー」
「もう、あいつのことは完全に吹っ切れたの?」
「うん、好きって言う気持ちは結構前になくなってたけど、残ってた幼馴染の情みたいなのももうないよ」
「そっか、それならよかった」
「そんなことよりさ、どうせなら、もっと楽しい話しようよ」
「えー、どんな話?」
「涼君のことならいっぱい喋れるよ」
「私もお兄ちゃんのこといっぱい喋れるよ」
「ふふふ」
「えへへ」
姉妹は、それから30分ほど恋バナを楽しんだ。
姉妹のどちらかしか知らないことを、バラされていることを涼は知らない。




