第83話 奏の笑顔のため
その日、授業自体は順調に進んだ。
しかし、登校時に涼と奏の親密さをアピールしたのに、休み時間は涼も奏も多くの生徒に囲まれてしまったため、3人が集まって話す時間は昼休みしかなかった。
そして、放課後。
涼と奏は生徒会室へ向かっている。
「今日も涼君は人気だったねぇ」
「それは奏もだろ」
「涼君は女子だけ集まってたねぇ」
「奏は男女両方だったか」
「涼君は女子に囲まれて嬉しそうだったねぇ」
「まあ、嬉しいけどな。女子と話すことってなかったし」
ちょっと、むすっとして奏が話す。
「涼君は女の子なら誰でもいいのかな?」
「誰でもいいっていうわけじゃないよ。でも、楽しいは楽しいよ」
「へぇ、どんな子が良かったの?」
「そうだなぁ、綺麗で可愛くてロングヘアで性格も良くて俺のことをよく知ってくれてる子」
「へ、へえ、そんな子いたんだ」
「いるよ……」
「ふーん」
2人は無言になる。
(奏みたいな子って付け足そうとしたら、言葉が出なかった……)
(気になる子ができたのかな、涼君。)
涼は思ったことを言うように心がけている割には、緊張しすぎて、肝心なことが言えなかった。
そのため奏が小さな誤解をしてしまうのだった。
生徒会長室に着くと、メガネの生徒が迎え入れてくれた。
「やあ、涼君、奏ちゃん、いらっしゃい」
「いきなり、下の名前呼びですか? 生徒会長」
「涼君、同じ同好の士になるんだから、他人行儀はやめようよ。敬語もなし、私のこともありさでいいよ」
「わかった、ありさ」
「えっ! 涼君も変わり身はやっ! 先輩なんだよ」
「いや、それでいいよ。ありさなんて呼んでくれる男子はいないからね。新鮮だよ。
それに歳も1年しか違わないしね」
「あれ、ありさは生徒会長なのに2年生? 3年生だと思った」
「そうだよ、2年生だ。1年の時に立候補してね」
「すごいな」
「奏ちゃんも今度の選挙、立候補するかい?」
「いや、する気はないです。同好会を楽しみたいので」
「まあ、そうなるよね。色々やるとなると時間は必要だからね」
「ありさは成績いいの?」
「いいよ。学年で主席だから」
「そっか、じゃあ余裕を持って活動できるね」
「うん、それに次の生徒会選挙に出なければ、もっと時間できるよ」
そこに、メガネの生徒が割って入ってきた。
「会長、次の選挙でないんですか!」
「生徒会長っていう肩書きはもう手に入ったからね。
あとは高校生活を楽しむ方法を考えていたら、よろず同好会が現れたってわけだよ。
これからは青春だよ。若林さん」
メガネの女子は若林さんっていうんだなと、涼は思った。
「そんな……」
「まあ、そういうわけで、2学期の生徒会選挙が終わったら、さらに同好会に力を入れられるからね。
それまでは兼務になるから、活動時間は減るけど、一緒に楽しませてね」
「わかった、一緒に楽しもう、ありさ」
(涼君って、女子に気安いよね。男子にどうなのか知らないけど)
「それじゃ、これを出しておいてくれる?」
「ああ、確かに預かったよ。
それと、部室だけど、使ってない空き教室があったから、そこをもぎ取ってきたよ。」
「おお、すごい、ありさ」
「すごいです。会長」
「奏ちゃん? 奏ちゃんもありさって呼んで欲しいんだけど」
「なんか言いづらくて。じゃあ、ありささん」
「呼び捨てでいいのに。まあいいか」
「でも、ありささんも私のことちゃん付けしてますよ」
「涼君との差別化と、奏ちゃん可愛いからちゃん付けの方がいいかなって思ってね」
「そうなんですか」
「ありさ、活動を開始するのは、テストが終わった翌週にするよ。
夏休みの活動について相談することになってる。ありさも参加できたら参加して」
「分かった。じゃあ、2人のWineID教えて」
「そうだね」
3人はWineIDを交換した。
「それじゃあ、連絡するよ」
「よろしくね」
「さよなら、ありささん」
「奏ちゃん、またね」
涼と奏は生徒会室を出ると、職員室へ向かう。
「涼君、職員室に何しにいくの?」
「男子バスケの監督に、同好会やるって報告をしにね。3x3もやりますのでよろしくお願いしますってね」
「あ、そうか。私も挨拶しておこう」
「そうだね」
職員室に入ると、バスケ部監督の川越がちょうど席にいた。
「川越先生、ちょっといいですか?」
「ああ、羽山君か」
涼は今回同好会を作ったことを説明した。
「なるほど、面白そうだね」
「それで、彼女が栗山奏さんです」
「よろず同好会副部長になった、栗山奏です。よろしくお願いします」
「栗山さん、球技大会の活躍見たよ。3x3にもきてくれるんでしょ。
部員にもいい刺激になると思うよ。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「そうだ、来れるときはWineで知らせてくれると助かるよ」
「はい、そうします」
涼と奏はWineIDを交換したあと、職員室を後にした。
涼の家に向かっての帰り道。
「結局、大山君謝りに来なかったね」
「ああ、来なかったな。まあ、来にくいのはあるだろうけど」
「それでも、涼君には謝らなきゃダメだよ」
「まあ、俺としては謝って欲しいけどね。こっちからいくのも変だし」
「明日、直接言いにいくよ」
「いや、それはやめた方がいいよ。変に拗れたら面倒だから」
「でも……」
「あんな、反則ができるやつなんだから、奏が知っている頃の大山と違うのかもしれない。
だから、2人で会うのは避けてくれないか? 心配だから」
「うん、分かった。そうするね」
涼は、ほっと息を吐いた。
(実際、あいつって少しやばい気がするんだよな。
奏に執着している感じだし、2人にしたくない)
「そういえば、栗山家と大山家の繋がりってどうなったんだ?」
「子ども同士のつながりは途切れたけど、親同士の繋がりは切らないみたいだよ。
でも毎年やってるバーベキューはやらないみたい」
「ああ、バーベキューやってたって言ってたな」
「うん、私は毎年結構楽しみだったんだけどね。大山君とやるのはやっぱり嫌だから、なくていいけど」
「そうか。じゃあさ、今年はうちの庭でバーベキューしないか? 初音さんと進さんも招待するよ」
「え? いいの?」
「ああ、子供の頃よくやってたから、道具もあるしな。」
「嬉しい、ありがとう」
「ああ、そうだ。良かったら、同好会の活動にも入れるのはどう?」
「いいね、まどかとありささんも呼べばいいね」
「ああ、そうしよう。肉も肉屋さんでいい肉用意してもらってな。大人はお酒もOKにしよう」
「うん、いいね」
「同好会ではテスト明けで予定立てるけど、進さんたちには先にいつが都合いいか聞いておいてもらえるか?」
「分かった。聞いておくね」
バーベキューの話題で盛り上がった後、少し奏がトーンを下げて喋り出す。
「涼君」
「何?」
「涼君、私に気を遣ってくれてるんだよね。
大山家との交流がなくなったから、それに変わるものを考えてくれたんでしょ。
お父さんとおかあさんまで招待してくれて」
「まあ、俺は奏が楽しんでくれたら嬉しいし、奏の笑顔が見たいから」
「もう、また口説いてきて……」
「はは」
「ふふ……ありがとう、涼君」
奏が花が開いたような笑顔でお礼を言ってきた。
(この笑顔のためだったら、なんでもしてやりたくなるなぁ)
そう思いながら、奏の笑顔を堪能する涼だった。




