第82話 賢治と瑠美2
「賢治くん、おはよう」
「おう、瑠美おはよう」
待ち合わせ場所で賢治と瑠美が合流した。
この数日間、賢治が不機嫌だったため、チャットや通話のやり取りは最低限しかしていなかった。
「やっと、謹慎が終わったよ。あいつのせいで、酷い目にあった」
「賢治くん、相手に怪我させちゃったんでしょ。
そんなこと言ったらダメだよ。もっと、重い処分になっちゃうかも知れないよ」
「そうは言っても、あんなの大袈裟にあいつが騒いだだけだからな。こっちはいい迷惑だよ」
「相手の人には謝罪したの?」
「両親が謝罪に行ってたよ。俺はいかなくていいって言ってたんだけどな」
「なんで? いかないとダメなんじゃない?」
「元はと言えば、あいつが俺の幼馴染にちょっかいをかけるのがいけないんだ」
「それと、バスケは関係ないんじゃないの?」
「それはそうだけど、腹立つだろ」
「腹たったから、あんなことしたの?」
「い、いや、それは。もう、いいんだよ。終わったことなんだから」
「賢治くん! 謝らないと終わったことにならないよ」
瑠美が強く言う。
あまり瑠美が強く言うことはないので、賢治は面食らう。
「そんな、怒ることないだろ、瑠美」
「怒ってないよ。謝らないといけないところはきちんと謝らないとダメだよ」
「ああ、分かった。瑠美に言われた通りにするよ」
「……うん、良かった。」
(賢治くん、本当に謝るかな?)
とりあえず、賢治が謝ると言う姿勢を見せたので、不信感は残るものの瑠美はにこりと微笑んだ。
「賢治くん、今日部活?」
「ああ、今日から部活だ。遅れた分取り戻さないと」
「部活では大丈夫そう? ベンチ外されたんでしょ」
「すぐに、取り返してみせるって」
「そう、良かった」
「今週末、どうする? 日曜日休みなんだ」
「うーん、どうしようか」
「瑠美が行きたいところならどこでも連れていってやるぞ」
(この間、コンクールに行こうって言ったら断ってきたのに……、ダメ、そんなこと考えちゃ)
「じゃあ、ショッピングモールにでも行こうか」
「そうだな。ゲーセンいって、ぬいぐるみとってやるぞ。好きだよな」
「うん、ぬいぐるみ好き」
(本当は、あまり持ってないんだけどね。賢治くんがやりたいみたいだし)
「よし、頑張るか」
「テスト勉強の方はどう?」
「嫌なこと思いださせるなよなぁ」
「あまり、自信ないの?」
「中間テスト、数学と英語がよくなかったんだよな」
「うーん、私はどっちもよくもないけど悪くない感じかな。教えられるほどじゃないかも。ごめんね」
「いいよ。数学と英語は奏にでも教えてもらうから」
「栗山さんに?」
「奏は学年主席だからな。昔から、教えてもらってたんだよ」
「そうなんだ」
(元カノに教えてもらうって、どうなの?)
「そうだ、瑠美も一緒に教わるか? 頼んでやるぞ」
「え? 悪いからいいよ。栗山さん、私のことよく思ってないと思うし」
「全然悪くないぞ。よく思ってないことなんかないはずだから、大丈夫だよ」
「え? だって、私が原因で、賢治くんと別れたんだよ。やっぱり思うところはあるよ」
「いや、奏は幼馴染で今でも続いてるんだから、そこまで気にしないはずだぞ」
「え? そうなの。でも、それはおかしいと思うの」
「何でだ?」
「だって、好きな人をとられたんだよ。幼馴染なんてこと関係なく悲しいでしょ」
「でも、奏は何でも言うことを聞いてくれるから。俺が頼めば大丈夫だよ」
(大丈夫なわけないと思うんだけど。言ってることおかしくない?)
「とにかく、私はいいから。ね。言っちゃダメだよ」
「ああ、分かった」
「お願いね」
「じゃあ、俺はテスト前は奏に勉強を教えてもらうからな」
「でも……一言余計なこと言っていいかな」
「なんだ?」
「元カノと2人でテスト勉強するって言われると、いい気しないよ」
「大丈夫だって、奏は幼馴染なんだから。一番は瑠美だからさ」
「そう言われても、嫌なものは嫌なの」
「じゃあ、数学と英語を終わらせたら、残りは瑠美と勉強するからさ。それで、許してくれよ」
「うん、納得できないけど分かった」
「? 変な言い方するなー。でも分かってくれて良かったよ。これで、俺も期末テストは安心だ」
話していると、学校の校門にたどり着いた。
すると、一部の女子生徒から訝しむような目で見られた。
「ねぇ、あの人。羽山涼くんに反則をした」
「ああ、あの悪質だったやつね」
「私、見てたけど、酷かったからね」
「何日かあの人見てなかったけど」
「謹慎だったらしいよ」
賢治はヒソヒソと言われて気分があまりよくない。
一緒にいる瑠美も肩身の狭い思いをしている。
その状態で玄関まできた。
「くそー、何で俺があんなヒソヒソと言われないといけないんだ」
「大勢の人に見られてるみたいだし、動画も出てるらしいから」
「瑠美も見たのか?」
「私は見てないよ」
「俺は悪くないのによー」
(さっきは謝るって言ったのに)
「でも、賢治くんがタックルしたんでしょ。それじゃ賢治くんが」
「俺は悪くないって言ってんだろっ!」
廊下に賢治の怒鳴り声が響き渡った。
周囲の生徒が賢治に注目して、またヒソヒソと話し始める。
「っ! ごめんね。余計なこと言って」
「まあ、いいよ。気をつけてくれ」
教室に着くまでの間、瑠美は下を向いていた。




