第73話 弁当箱デート
昼休みも終わり頃、奏とまどかがトイレの洗面台の前で話していた。
「うまくやったわね、奏」
「何が?」
「お弁当」
「ああ……うん」
「前からきっかけを探してたんでしょ」
「うん、なかなか言い出せなくて。でも、涼君が急に人気出たから、誰かが作ってくるとか言い出しかねないし、それはいやだなって思って」
「うん、牽制にも使えるし、距離も縮むし、いいアイデアだと思うよ」
「そうかな」
「これからはもっとアピールしていくつもりなの?」
「まだできないかな」
「どうして?」
「もう、大山くんに好きって気持ちはないんだけど、まだ気持ちがきちんと整理できていないから、このままじゃ涼君に悪い気がするの。だから、お弁当で精一杯」
「でも、涼君に告白する子、出てくると思うよ」
「そうだよね。悩みどころだよ」
「とりあえず告ってみればいいのに」
「まだだめだよ」
「そう言ってるうちに先を越されて泣かないようにね」
「……うん」
「私だって、いつまでも待たないかもよ」
「え? 何まどか」
「ううん、なんでもない」
まどかのあえて小さい声で言ったつぶやきは奏に聞こえなかった。
放課後。
涼が帰る準備をしてから、奏の方を向くと、男子が奏のそばにいた。
(あれ、誰だっけ?)
相変わらずクラスメイトの名前がわからない涼だが、そちらに意識を集中してみる。
「栗山さん、これからちょっと時間あるかな?」
「ごめんね、今から涼君と買い物に行くの」
「っ! ……ちょっとでいいんだけど」
「最初に約束したのは涼君だから、ごめんね」
「う、うん分かった。」
「涼君、行こう」
「ああ、そうだな」
その男子生徒は涼を睨んでいた。
(なんか、俺が悪いことしたみたいだけど、相手の都合無視して、急に言うのはどうなんだろ)
2人で、駅に近いショッピングモールへ歩いていく。
「奏はやっぱりモテるな」
「涼君だってでしょ」
「俺はそんな実感はないけど」
「今にいやでもわかるようになるよ」
「そう言うものか」
「そう言うものだよ」
「でもさ、奏は」
「何?」
「告白されて、付き合おうとか思わないの?」
「うーん、今の所はないかな」
「やっぱり、大山の件を引きずってるから?」
「ううん、それはあんまり関係ないかな。もともと彼氏欲しいとかって考えてないからね」
「彼氏いらないのか」
「いらないって言うか、誰でもって言うわけじゃないの。いい人がいなかったら、いなくていいから」
「そっか」
「涼君は?」
「今のところ、予定はないかな。大体近くに女性がいないし」
「私たちは女性じゃないの?」
「ごめん、近くの女性は奏とまどかと天音の3人しかいないって言う意味」
「わ、私たちの中から、考えたりしないの?」
「うーん、まずまどかは奏の親友だからな。なんかいけない気がする。
天音は妹って感じだし。
奏はまだ大山のことがあるからな。無理にそんな話をしたら可哀想だと思ってる」
「涼君って、本人にそういうこと言うんだね」
「俺的には、別に言っても恥ずかしくないからな」
「そうなんだね」
(大山くんのことがなければ涼君はどうするんだろ)
そう話していると、ショッピングモールについた。
「えっと、弁当箱は雑貨とか売ってる場所なのかな?」
「そうだね、雑貨屋さんに行ってみようか」
「分かった」
すぐに雑貨屋は見つかって入ってみる。
「涼君は結構食べるよね」
「普段はカロリーバーだけどな。食べる時は食べるよ」
「じゃあ、可愛いので大きめな弁当箱ないかな」
「可愛いのが前提なのか?」
「それは外せないでしょ」
「そうか」
奏は、色々吟味しているがちょうどいいものが見つからないでいた。
「うーん、可愛いのはあるし、大きいのもあるんだけど、両方を満たすものがないなあ」
「可愛いのは女性ものが多いからかな」
「うん、そうなんだけど、最近は大食い女子とかもいるのにね」
「大食い女子にはどんなに大きくても弁当箱じゃ足りない気がする」
「そっか、重箱かな?」
「うん、重箱がいいんだと思うよ」
「涼君は重箱はどう?」
「俺をどれだけ食う人だと思ってるんだ?」
「カロリーバー10箱かな」
「そんなに食いたくねー」
「でも、涼君と結婚したら、奥さん毎日楽だね。ご飯はカロリーバーをテーブルの上に出しておけばいいんだもん」
「俺は結婚してもカロリーバー?」
「あ、でも私はそんなことさせないけどね」
「奏が俺と結婚してくれるのか?」
「え、いや、そう言うことじゃなくて」
奏が焦って誤魔化す。
それを見た涼は意地悪な顔をする。
「へえ、そう言うことじゃなくてどう言うことなの?」
「もう、意地悪な顔してる」
奏がパスパスと涼の腕を叩いてくる。
涼はその可愛さに思わず笑ってしまう。
「ははは」
「あー、バカにしてる」
「いや、可愛くてつい」
「もう、そういうこと言って」
奏がますますパスパスと叩いてくる。
涼は笑いながら見ているが、ふと周りの目に気づく。
お客さんや店員さんが微笑ましいものを見る目で見ているのだった。
「か、奏」
パスパス叩きながら返事をする。
「何よ、もう」
「周り見て」
「え……あ」
奏は周囲の目にようやく気がつき、真っ赤になって、下を向いてしまった。
居た堪れない奏は、指で涼のシャツの裾を掴んできた。
これには涼も恥ずかしくなり、下を向いた。
「可愛いわねぇ」
二人組の大学生くらいのお客さんに言われると、ますます恥ずかしくなった。
どうしたものか困っていると、微笑ましい顔で見ていた店員さんが近づいてきた。
「あちらにも、お弁当箱のコーナーありますよ」
「あ、は、はい。ありがとうございます」
「行こうか」
「うん」
奏が涼のシャツの裾を掴んだままついてきた。
(きゃー、可愛いー)
店員は、奏を見てニコニコしていた。
「可愛い彼女さんですね」
「「っ!」」
「あ、はい」
「涼君!」
店員の発言にびっくりした涼だったが、否定してもしょうがないので、肯定したら、思いの外奏が驚いていた。
「いやだった?」
「……別に、いやじゃない」
「そうか、それじゃそのままで」
「うん」
案内されたコーナーには大きめの弁当箱もあった。
「涼君これなんてどう? 色も可愛いし、大きいし、電子レンジにも使えるんだよ」
奏が持っているのは、2段重ねのパステルブルーの大きめの弁当箱だ。
これなら、食べ盛りの男子高校生にも対応できるだろう。
「いいな、これ。でも、電子レンジなんて使うタイミングないよな」
「そんなことないよ。休みの日に涼君ちに行く時、お弁当作っていけば電子レンジに入れられるんだよ」
「休みの日にも作ってくれるのか?」
「あ、でもキッチンでお昼作ったほうが早いかな」
「うん、でも休みの日にうちでお弁当食べるのもいいかも」
「それならこれで決まりだね」
「じゃあ、買ってくるよ」
涼がレジに持って行こうとすると、奏がとめた。
「私が言い出したんだから、私が買うよ」
「え? 俺が食べるためだろ」
「いいの、私の涼君専用のお弁当箱にするよ」
「それじゃあ、なんか変だけど俺がプレゼントするよ」
「本当? 嬉しい。初めての涼君からのプレゼントだ」
会計を済ませると、奏が嬉しそうに受け取った。
「家まで俺が持つよ」
「いいのいいの。私が持ちたいの」
奏は満面の笑みで楽しそうに歩いていた。




