第70話 歪んだ心 ※賢治視点
俺、大山賢治の高校生活は順風満帆と言えた。
バスケ部では実力を認められ、ベンチ入りを果たした。
3年引退後はスタメン入りも可能だろう。
中間テストはまあまあだったが、問題はない。
男女ともに友人も増え、部活のない放課後はよくカラオケやボーリングなんかに行っている。
休みの日に女の子とデートすることもあった。
奏との付き合いも順調で、毎朝迎えにきてくれて、弁当を作ってくれて、なんでも言うことを聞いてくれる。
そう、なんでも聞いてくれるのだ。
これが、たまらなく嬉しい。
部活のない休日や放課後は奏と過ごす約束になっているのだが、訳を話せば他の友達と遊ぶことを許してくれる。
だいたいこう言う会話をする。
「賢治、今度のお休みだけど」
「ああ、悪い奏。その日は友達と約束が入ってしまって、奏と遊べないんだ。
埋め合わせは次の休みの時にするから、行っていいよな」
「う、うん。いいけど」
「良かった」
「あのね、賢治」
「何?」
「その友達って、女の子?」
「そうだよ。いいやつでさ、今度奏にも紹介するよ」
「そ、そう。ねえ……私たち、付き合ってるんだよ、ね」
「ああ、もちろんだよ。俺たち付き合ってるって言っても、幼馴染だから、いつも一緒にいすぎると飽きちゃうだろ。
たまには違う友達ともいたほうがいいと思うんだよな」
「そう、なのかな」
「ああ、そうだって。奏も女の子の友達いたろ。古賀さんだっけ?」
「うん」
「古賀さんと遊びに行けよ。そうしたら楽しいぞ、きっと。」
「うん、楽しいだろうとは思うんだけどね」
と、こう言った具合で話を丸く収めている。
そのおかげで、俺は学校生活が普通のやつよりも充実していると思ってる。
そして、気になる子ができた。
いつも遊ぶメンバーが少なかったので、誘ってみた1年4組の稲田瑠美っていう子だ。
最初は放課後に遊ぶだけだっが、そのうち日曜日にもデートをするようになった。
ゴールデンウィーク後から始まった交流も5月の半ばには好きになっていて、告白をすることにした。
奏のことは後で考えればいいと思う。
ある日の放課後、校舎裏に呼び出した。
「来てもらって悪かったな」
「ううん、いいよ。話って何?」
「ああ、俺たち遊ぶようになって2週間だろ」
「うん」
「その間に俺は瑠美のことが好きになったんだ。付き合ってもらえないか?」
「え? 急に言われても」
「他に好きなやつでもいるのか?」
「いるにはいるけど、連絡先も知らないし、もうずっと会ってないんだ」
(それならいけんじゃないか?)
「それなら、俺と付き合ってくれよ。もし、そいつが現れたら、俺と別れてもいいしさ」
「え? それじゃあ、大山くんに悪いよ」
「いいんだって。俺と付き合ってるうちに俺のことの方が好きになるかもしれないだろ。
会えるかどうかわからないやつをただ待ってるよりもその方が楽しいぜ」
「い、いいのかな」
「もちろんだよ」
「私ね、正直にいうと大山くんのこと、少し気になってるの。
でも、あの人のことが忘れられなくて。
でも自分でも可能性のないことを待ってるって知っているんだ」
「じゃあ」
「うん、私と付き合ってください」
「ああ、よろしくな。瑠美」
「うん、よろしく。け、賢治くん」
こうして、俺と瑠美は付き合い始めた。
俺はすぐに瑠美にぞっこんになった。
部活のない放課後はデートをし、部活がある日も美術部の瑠美と待ち合わせをして、一緒に帰った。
そのうち、奏に作ってもらった弁当も瑠美と一緒に食べられたらって思っていた。
最初の2週間は順調そのものだった。
しかし、どこにでも余計なことをする奴はいるものだ。
俺が、奏とも付き合っていることを瑠美にバラしたやつがいたのだ。
俺は瑠美にファミレスに呼び出された。
「賢治くん、他にも付き合っている人がいるって本当?」
「あ、ああ、本当。でも、そいつ幼馴染でな、腐れ縁っていうか、お互いでいつ別れてもいいっていう感じなんだよ」
「本当? 栗山奏さんって、すごい美人の子でしょ」
「ああ、そうだよ」
「私、栗山さんと二股とかで揉めるのやなんだよ」
「そ、それはそうだよな」
「私と別れるか、栗山さんと別れるかどっちかしてくれない?」
「じゃあ、奏と別れるよ」
「そんな軽い感じで別れられるの?」
「ああ、奏とは幼稚園からの幼馴染だからな。別れても幼馴染であることには変わりないから、別れても問題ないよ」
「本当かな?」
「心配するなよ。そうだな、明日には別れるっていうから」
「……分かった。それならいいけど。もう一度言うけど、私、二股とか嫌だからね」
「もちろんだよ。悪かったな。瑠美」
こうして、奏と別れることになった。
まあ、別れると言っても、幼馴染の奏とはこれからも続いていくだろう。と、この時は思っていた。
奏も、俺の思うように動いてくれるはずだった。あいつさえ現れなければ……。
そう、奴は羽山涼。もさい頭に大きな黒縁メガネの陰キャぼっちだ。
最初は、奏に弁当をもらいに行った時だった。
奏に弁当がないことを追求していたら、間に入ってきて邪魔しやがった。
その後も、チラチラ俺の視界に入ってくる。
その時は必ずと言っていいくらい奏と一緒に楽しそうにしている。
奏が俺といる時にはしなかったような笑顔をしているのも腹が立つ。
この間は天音とも仲良くしていた。
天音のお兄ちゃんと呼ばれるのは俺だけのはずなのに。
なんなんだ、あいつは。
俺たち幼馴染の間に土足で入り込みやがって。
いつか必ず吠え面を欠かしてやる。
と、思っていたら、思ったよりも早くそのチャンスはやってきた。
球技大会だった。
しかし、あいつはイメチェンをしていて最初わからなかった。
女子達が騒いでいたのが、不快だった。
確かに前よりはマシになったが、俺ほどではないのに、なんであんなに騒がれているんだ。
こいつを奏の前で、ボロボロに負かして、奏に呆れさせてやる。
ついでに、負けたら奏に近づかないって言う約束もした。
俺もしたが、俺が負けることはないから、問題ない。
1回戦目に派手にダンクなんかしていたらしいが、ダンクをしても普通のシュートをしても2点は2点、同じだ。
せいぜい調子に乗ってるといい。
そう思っていたが、予想外にあいつはポイントガードの仕事をこなしていて、俺のクラスのチームは翻弄され続けた。
その上、シュート力も高く内からも外からもシュートを決めてきやがる。
このままでは負けてしまうと焦るが、逆にいいようにされてしまう。
この試合はバスケ部の監督も見ている。先輩も見ている。奏も見ている。
負けてしまったら、バスケも幼馴染も失ってしまう。
(あいつのせいだ。全部あいつのせいだ。調子に乗りやがって。これ以上やらせない)
そう思うが、点差はついて、もはや逆転もできない状況になっている。
それなら、せめてあいつに思い知らせてやりたい。
でも、どうすれば思い知らせられる?
そのチャンスを待った。
そして、チャンスが訪れた。
あいつがフリーの状態で3Pシュートを打ったのだ。
ブロックには間に合わなかったが、完全に油断している。
(このままこいつを潰せばいい)
シュートを打ったあいつの足にタックルを仕掛けて、両足を抱えたまま倒したのだ。
すごい音が聞こえたが、ザマァと思った。
しかし、立ち上がらない時は内心焦った。
それに奏が介抱している。
そんなやつに手を貸すなよ。
でも、流石に起きなかったら、やばいから何も言えなかった。
でも、すぐに起きたようだった。
焦らせるんじゃねえよ。全く。
そのあと、事もあろうに監督にベンチから外す宣言を受けてしまった。
そして、学校からは謹慎3日の処分が出た。
なんであいつの大袈裟な演技のせいでこんな目に遭わないといけないんだ。
両親からも怒られた。
謝罪に連れて行くと言われたが、俺は悪くないから断った。
両親は、まだ俺に謝罪をさせようと考えているようだ。
冗談じゃない。こっちは幼馴染を2人も盗られているんだ。
その上にバスケのベンチまで外された。
なんで、そんな泥棒大袈裟野郎に謝らなくてはならないのだ。
逆にあいつに謝罪させたいぐらいだ。
この怒り、どうしてくれようか。
それに……
奏と天音はあいつに騙されているんだ。
幼馴染の俺が守ってやらなきゃならない。
「待ってろよ、奏、天音、目を覚させて、あいつから解放してやるからな」
賢治視点、終了になります。
読んでくださってありがとうございます。




