第59話 涼と奏の出会い
「お兄ちゃん、お姉ちゃんと知り合った経緯を話してもらっていいかな」
「ああ、いいよ。奏本人の許可がないといけない部分は隠すけど、それでいいなら」
「それで、いいわ。聞いてみたいからお願い」
香奈美からも頼まれて、涼は頷く。
「私も聞いてないところがあるかもしれないから楽しみ」
「奏と出会ったのは、入学式の時で、入学式の立て看板前で、うまく自撮りができないで困っている時に奏が声をかけてくれたんです。その時に写真を撮ってもらったことに僕はとても恩義に感じていました」
「写真撮るくらいなら、そこら辺で頼むこともあるのに恩義を感じるって、何かあったのかしら」
「はい、実は母親が入学式を楽しみにしてくれていたんです。でも、前日から体調を崩して、何度も何度も僕に謝ってきたんです。入学式行けなくてごめんねって。それで、入学式の写真撮ってくるから待っててっていったら、楽しみにしてるっていってくれたんです。
でも、入学式に行ったら1人で写真を撮ることできなくて、知り合いもいなくて、同じ中学の人もいるにはいるんですけど、家のことがあったので、誰とも交流をしてなかったんです。だから、どうしようって途方に暮れていたところで、奏が声をかけてくれたんです。二つ返事でお願いしたんですが、その写真をとても上手に撮ってくれたんです。
それで、嬉しくて、この恩は必ず返すって、約束したんです」
そこで、涼はコーヒーを一口飲む。
「それで、そのまま急いで帰って、お母さんに見せたら、喜んでくれて、すごい笑顔になってくれたんですよ。
お母さんは、その日の夜に亡くなってしまったんですけど、お母さんの笑顔を最後に見ることができたんです。
だからその写真を撮ってくれた奏には大きな恩を感じていたんです」
見ると、天音が涙を拭いていた。大山夫妻も涙ぐんでいた。
「天音、泣いてくれてんの?」
「うん、だって」
「ありがとう天音」
今度は自然に天音の頭に手を持っていき、ぽんぽんと優しく叩いた。
そして、話を続ける。
「でも、奏と同じクラスになったんですけど、お母さんが亡くなってから気力がなくて、誰とも交流を持たなかったので、クラスではいつも1人でした。そんな状態ですから、奏とも話す機会は全然ありませんでした。
それで、お母さんの49日があったあたりで、僕の気持ちが切り替わったんですね。
気持ちに整理がついて、これからは前向きに進もうと。
それで、実はその日は大山君に奏が振られた日で、辛そうな顔をしている奏とすれ違ったんです。
流石に声をかけるのは失礼かと思って、通り過ぎようと思ったのですけど、前向きに生きようと思ったばかりだし、もし迷惑だったら謝ろうと思って、追いかけたんですね」
「そうしたら、奏がかなり強引なナンパに合っていて、連れ去られそうだったんです。
奏は振られたせいか、振り払う気力もなくなって、なすすべなくって感じで。
それで、証拠をビデオに収めた僕は奏を助けに出て行ったんです。
最終的には相手の学生証までカメラに収めて撃退してやりました」
香奈美が口をひらく。
「ああ、よかった。羽山君が居合わせてくれて」
「はい、今では本当に良かったと思っています。
奏を落ち着かせたいと言うこともあって、近くのファミレスで、食事をしたんです。
それで、お互いの身の上の話をして、これからも愚痴を言いあえるような関係になりましょうってことで、慰め合い同盟っていう同盟を結んだんです。あ、ネーミングは奏ですよ」
「わかりやすいネーミングでいいわ」
「やっぱりそんなものですかね」
「ええ、そうよ」
「それからも奏は振られたばかりということもあり、頻繁に話を聞いていました。お二人にこんな話をするのもどうかと思いますけど、振られた翌日に大山君は奏に弁当をくれってきたんですよ。そりゃ愚痴も出ます」
「あの子はそんなこともしたの? なんて勝手な……」
大山夫妻は自分の息子の行動に唖然としている。
「それからは奏の話を聞くためにカフェに行ったり、うちに来てバスケをしたり勉強したりしてました。
奏と天音のうちに呼ばれて夕食もご馳走になったこともあります」
「その時に、私はお兄ちゃんと知り合ったんだよね」
「そうだな天音。
天音もうちに来て、一緒にバスケをやってから、部活後には頻繁にうちによって、勉強をして帰るようになりました」
「そういうこともあって、今回のような怪我がありましたけど、姉妹が僕の様子を見てくれるような仲になったんです」
「そうだったのね。うちの息子のせいで、悲しい思いをしていた奏ちゃんをフォローしてくれてありがとうね。
奏ちゃんも天音ちゃんも自分の娘のように思っていたから、本当に感謝してるわ」
「おばさん……」
「天音ちゃんもごめんね。嫌な思いをさせてしまって」
「うん、おばさんとおじさんは悪くないから、気にしないで」
「それでもよ。息子がやったことは申し訳ないわ」
「そうだな。本当に残念だよ」
ピンポーン。
ここでインターホンが鳴る。
「あ、私が出るね」
天音がインターホンのモニターを見る。
「あ、お姉ちゃんだ。はい、お姉ちゃん。今行くね」
程なくして、天音が奏を連れて戻ってくる。
「奏ちゃん、久しぶりね」
「香奈美さん、賢介さん……」
「奏、また来てくれてありがとう。立っているのもなんだからとりあえず座って」
涼に促されて、ソファーに座る奏。
混乱している奏に天音と涼が声をかける。
「お姉ちゃんコーヒー淹れるね」
「ありがとう」
「奏、大山さんのお二人は昨日の件で謝罪に来てくれたんだよ」
「あ、そうなんだ」
奏にとって香奈美と賢介は元彼の両親だから、なんとも居心地が悪い。
「はい、どうぞ。お姉ちゃん」
「ありがとう、天音」
少し、沈黙が続いたのち、賢介が口を開いた。
「奏ちゃん」
「はい」
「この度は、本当に申し訳なかった」
大山夫妻は、その場で深く頭を下げた。




