第51話 シャワーもダメ
いい香りがしてくる。
意識が浮上してくる感覚のあと、目が開く。
(ああ、そう言えばソファーで寝ていたんだっけ。なんか柔らかいけど)
「あ、お兄ちゃん起きた?」
「あれ、天音」
「うん、天音だよ」
涼は自分と天音の位置関係のおかしさに気づく。
「え、あの、天音? なんか膝枕してない?」
「うん、してるよ。嬉しい?」
「うん、嬉しいけど、悪いから降りるよ」
「大丈夫だよ。お姉ちゃんにもやってもらってたんでしょ」
「え? そう言えば、寝る直前にしてもらったような。あまり覚えてない」
「ええ、涼君覚えてないの?」
そこで、奏がやってきた。
「ひどいわ涼君。私は恥ずかしいの我慢してたのに」
「あ、ごめん奏。ほとんど寝てたからわからなかった」
「じゃあ、やり直しを要求するわ。天音、変わって」
「やだ。それでもお姉ちゃんは膝枕してたんだから、今度は私の番」
「そんな、天音がひどいわ」
「お姉ちゃんは今晩、お兄ちゃんに添い寝するんだからいいでしょ」
「天音、奏は添い寝はしないからな」
「ええ、涼君添い寝させてくれないの?」
「そ、添い寝、してくれるのか?」
涼が、顔を赤くさせて言うと奏まで赤くなる。
「え、っと、添い寝がいいの?」
「い、いや、色々まずいと言うか、なんというか」
「もう、お兄ちゃん! 私に膝枕されてるんだから、お姉ちゃんのことは今はいいの」
「あ、ああ。ごめんな天音」
「いいよ」
「あ、よくないよ。天音に膝枕なんて」
「いいの。それとも嫌なの?」
天音が不安そうに聞いてくる。
途端に涼の中に罪悪感が湧いてくる。
「じゃ、じゃあ、もうちょっとだけ」
「うん」
「もう、涼君ったら。仕方ないから私は料理の続きをするわ。あ、涼君キッチンを勝手に使わせてもらってるよ」
「ああ、奏、ありがとうな」
「いいのよ」
「天音は食べていく?」
「ううん、私はうちで食べるからもう少ししたら帰るね」
涼は少し焦っていう。
「天音、じゃあ暗くなる前に帰ったほうがいい」
「大丈夫、自転車できてるし、もう少し暗くなるまでに時間がかかるから」
「そうか」
「だから、もう少し膝枕してあげるね」
「あ、ああ、ありがとう」
(いいのだろうか?)
天音はそのままの体制で話し始める。
「お兄ちゃん、本当に心配したんだからね」
「ああ、悪かったね。心配させて」
「本当だよ。お母さんから聞いた時は目の前が一瞬真っ暗になったんだよ」
「そうだったか。申し訳ない。あと……」
「ん?」
涼が満面の笑みになって言う
「心配してくれて、ありがとう」
天音が真っ赤になって涼を見つめる。
(本当にこの人の笑顔、破壊力抜群よー)
「? どうした、天音」
「うー、なんでもない」
「そうか」
そこで、奏が声をかけてくる。
「涼君、準備できたよ。起きられるかな?」
「ああ、大丈夫。天音、膝枕ありがとう。足痺れてない?」
「うん、大丈夫。じゃあ、お姉ちゃん、お兄ちゃん、私帰るね」
「分かった。気をつけてね」
「天音、送れなくてごめんな」
「もう、お兄ちゃん、私は大丈夫だって」
「それでも心配だからさ」
「ありがとう。気をつけるね」
「ああ、気をつけてな」
「あ、そうだ。明日の昼間はお姉ちゃんの代わりに私が来るからね」
「え? 部活はないの?」
「休むんだ」
「それは悪いよ」
「お兄ちゃんの役に立ちたいの。もう休むって連絡したあとだから、何言っても遅いよ」
「そうか、ありがとうな。天音」
「えへへ、どういたしまして。じゃあまた明日ね」
「ああ、また明日頼むよ」
「はーい」
天音は、どこか温かい気持ちで涼の家を出た。
(お兄ちゃんと話すとホッとするな。楽しかった)
笑顔で自転車に跨り走り去った。
奏が作った料理は、肉じゃがにほうれん草のおひたしとサラダとなめこの味噌汁だった。
「おお、うまそう」
「いっぱい食べてね」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「「いただきます」」
まずは肉じゃがを食べる。じゃがいもがホクホクとしていて、味が染みて美味しい。
「美味しいな、奏」
「そう、よかった。嬉しいよ」
なめこの味噌汁もおひたしもサラダも最高だった。
「どれも美味しいな。サラダのドレッシングは自分で作ったの?」
「うん、ドレッシング買ってくるの忘れちゃったから」
「これ、好きだよ。また食べたい」
「それなら、また今度作ってあげるね」
「ありがとう。期待しておくよ」
「なんだかんだ言って、私が涼君のうちでご飯作ったのって初めてだね」
「そうだな。楽しみにしてたんだよ。前に作ってくれるって言ってたから」
「そっか。ようやく作れたね」
「嬉しいよ。本当に」
楽しく話しながら夕食を過ごした。
食事を済ませて片付けも終わって、リビングでゆったり過ごしていた。
「あのさ、奏」
「何?」
「今日、本当に泊まるんだよね」
「泊まるよ。涼君1人にできないもん」
「ありがとうな」
「うん、それで涼君の部屋で寝ていいでしょ」
「へ、俺の部屋で寝るの?」
「うん」
「まずくないか?」
「なんで、そうしないと涼君に何かあっても気づかないじゃない」
「それはそうなんだけど。何かあったら」
「何かするの?」
「いや、しないと思うけど、我慢できない時とかもあるだろ」
「うーん、大丈夫だと思うよ。涼君は」
「そうかなぁ」
「まあ、そうなったらそうなったじゃない?」
「そんな軽くていいの?」
「涼君だからね。他の人だったらこんなことしないよ」
「そう言ってくれると嬉しいよ。信頼を裏切らないようにするよ。よろしくお願いします」
「はい、よろしくされました」
奏は満面の笑みで答えた。
涼は、それを見て顔を赤くする。
(奏は、その笑顔が可愛すぎるんだよな)
「ねえ、涼君。今日は一応お風呂に入らないようにって言われているでしょ」
「ああ、そうだね。シャワーぐらいなら大丈夫かな」
「ダメだよ、私の目が届いていないところに行ったら」
「でもなあ、今日は汗かいたからな」
「私に任せて」
「任せる?」
「うん、私が拭いてあげる」
「え、大丈夫だよ」
「でも涼君は怪我人だからやってあげないと」
「普通に動けるから平気だよ」
「何が起こるかわからないでしょ。安静にしてないと」
「体拭くくらいなら……」
「だめ、私がやってあげるから」
「そ、そうなのか、じゃあお願いしようかな」
奏が小さな声でつぶやいた。
「やった」
「え? なに?」
「な、なんでもないよ」
「そうなの?」
「うん、あ、でも……」
奏が急にモジモジする。
「あ、あのね、涼君」
「うん」
「全部私が拭いてあげるけど、その、ね。あ、あそこだけは自分で拭いてもらえる?」
「っ! わ、分かってるから」
「じゃ、じゃあ、準備するね」
奏が赤くなりながらリビングを出ていった。
1人残された涼は思う。
(これから拭かれるのに、あんな事言われると、色々やばいかも)
緊張やら興奮やらと色々とやばい涼だった。




