第49話 担任との会話
「先生、ご飯を作りたいので、今のうちにスーパーに行きたいんですが」
「ああ、確かに2人になった時には栗山さんが離れるわけにはいかないものね」
奏の母親に確認をとったところ、涼なら問題ないとのことだった。
麻里の車で涼の家に送っている最中に奏からの依頼で、スーパーに寄った。
「奏、悪いね。このお金で買ってもらえる?」
「いいよ、いつも奢ってもらってるし、私出すよ」
「そういうわけにはいかないよ。頼むからこれを使って」
「……分かった。じゃあ、使わせてもらうね」
「うん、悪いけどよろしくな」
「うん、調味料類は大体揃ってたよね」
「うん、前は料理してたから、まだあるよ」
「分かった。じゃあ行ってくるね。先生、涼君をよろしくお願いします」
「はい、私は羽山君を見てるわね」
奏がスーパーに入っていくのを見守る。
「羽山君、栗山さんと仲良いのね」
「ああ、最近ですけど、毎日のように家に来ているので」
「ああ、栗山さんって最近2組の大山君と別れたって話だったわよね」
「先生も知ってるんですね」
「栗山さんは目立つからね。そういう話は入ってくるわ」
「あれだけ美人で可愛いくて成績優秀なら当然ですよね」
「羽山君と栗山さんはどういう関係なの?」
「仲のいい友達ですよ」
「それだけには見えないけど」
「そうなんですか?」
「ええ、栗山さんにしたって、今日羽山君が倒れた時、真っ先に駆け付けてたわよ」
「そうだったんですか。心配かけたんだな」
「それに、病院にもついてくるっていうし、羽山君の観察が必要ってわかったら、自分から泊まるっていうし、単なる友達にしては、親身になってるように見えるわ」
「先生、だから単なる友達よりはずっと親しい関係だと思いますよ」
「臆面もなくいうのね」
「事実ですから。奏にはいろいろ感謝しています」
「そうなのね。付き合う予定とかないのかしら」
「今のところないですね。特に奏は大山にまだ未練があるみたいなので」
「未練がなければ付き合うの?」
「どうなんですかね。 僕自身もよく分かってないですしね」
「そうなのね。まあ、これ以上の詮索はやめておくわ」
「はは、すでに結構聞いてきてますけどね」
「生徒のそういう関係も気になるものなのよ。ごめんなさいね」
「いえいえ、別にいいですよ」
「それはそうと、一人暮らしには慣れたかしら」
「まあ、料理とかもしていないし、掃除は家事代行の人が来てくれるし、そんなにやってること多くないですからね」
「1人でいるってことが心配なのよ」
「そうですね。寂しいと思うことは頻繁にありますけど、夕方は奏や奏の妹やまどかもたまに来てくれるので、だいぶ慣れましたよ」
「そうなのね」
「それでも、辛く感じる時はありますね。親戚が一緒に暮らそうっていってくれているので、そちらに行ってもいいかな、なんて思ったりもするんですけどね。」
「そうなのね。1人でいるよりはいいかもしれないわね」
「はい、思ったよりも心が弱っている時があるので、誰かそばにいてほしいなって思うんですよね」
「辛い時は、私に連絡してくれてもいいわよ」
「ありがとうございます。
そうさせてください。助かります」
「いいのよ。あなたはまだ子供なのだから、大人に頼ってね」
「はい、頼らせてもらいます」
「あら、素直なのね」
「なんでも自分でやるってことは不可能って学んでいますから」
「とてもいいことだわ」
その後、涼と麻里はWineIDを交換した。
涼は、あまり交換しているIDが多くないので、ひとつまた増えたことに内心喜んだ。
(先生に悩みとか相談していいのかな? 嬉しいな)
そうこうしているうちに、奏が帰ってきて、涼の隣に座る。
「先生お待たせしました」
「必要なものは変えた?」
「はい、バッチリです」
「そう、じゃあ行きましょう」
「涼君もお待たせ」
「ありがとうな奏」
「お互い様よ」
5分ほど車で走ると涼の家が見えてきた。
「先生、家ここです」
「本当に大きいわね」
「家の中もすごいんですよ。テレビなんて110インチもあるんです」
「すごいわね。今度映画でも見せてもらおうかしら」
「ははは、先生だったら歓迎ですよ」
奏が先に車から降りて、涼が降りる時に手を貸す。
「ありがとう奏」
「どういたしまして」
「先生も本当にありがとうございました」
「お大事にしてね。栗山さん、何かあったら連絡ちょうだい」
「はい、お任せください」
「羽山君も今回のことだけじゃなくて、いつでも連絡ちょうだい」
「はい、暇になったらWineします」
「ふふ、それでもいいわよ。それじゃあね」
「はい、お気をつけて」
奏と涼は車が見えなくなるまで見送る。
「涼君、先生とWine交換したの?」
「うん、さっきした。なんでも相談してって」
みると、奏がむすっとした顔をしている。
「どうしたの? 奏」
「べっつにー」
「別にって感じじゃないんだけど」
「もう、いいから早く入ろうよ」
「ああ、そうだね」
涼は鍵を出して家に入る。
リビングまで行き2人で座る。
「今日は大変だったね」
「うん、でも奏のおかげで何事もなさそうで良かったよ。ありがとうな」
「気にしないで」
「そういえば、俺が倒れた時、真っ先に来て処置してくれたんだって?」
「あ、うん。駆け付けた」
「そうだったのか、それもありがとう」
「本当にびっくりしてね。私泣きそうだったの」
「そっか、心配かけたんだな」
涼が申し訳なさそうな顔になる。
「あ、涼君が悪いんじゃないの。気にしないでね」
「奏は優しいな」
涼の一言で、奏の顔が赤くなる。
「ちょっと、そうまっすぐ言われると恥ずかしいっていうか」
「いや、奏は本当に優しいよ。俺は奏がそばにいてくれる優しさに救われてるよ」
「も、もう。口説いてんの?」
「口説いてないよ。でも感謝は伝えておきたくて」
「そういうところだよ。もう」
「そ、そっか……あ、何か飲み物入れるな」
「そ、それは、私がやるよ。涼君は座ってて」
「あ、ありがとう」
「えっと、コーヒーでいいよね」
と、言い残して奏はキッチンに行ってしまった。
程なくしてコーヒーを持ってきてくれたが、微妙にぎこちない。
「ありがとう。いただきます」
「どうぞ」
無言でコーヒーを飲む2人だった。




