第48話 診察
涼が脳震盪で倒れた時。
ギャラリーにいた大勢の人も賢治のわざとにしか見えないファールを目撃していた。
「何あれ、ひどくない?」
「あの人、バスケ部の人よね。あんなの許されるの?」
「シュート打った後にわざと足掴みに行ったよね」
「羽山君、全然起きない」
口々に言われている賢治はボーッと奏が処置している姿を見ている。
そこに向井が詰め寄る。
「おい、大山! 今のはなんなんだ」
「いや、俺は……」
「わざとやったな。バスケをやる資格ないぞ。わかってるのか!」
「……」
向井が大山の胸ぐらを掴んだ。
「やめなさい、あなたたち。 今はそんなことをしている場合じゃないわ」
1組の担任笠井麻里が止めに入る。
「大山君は、後で話を聞くわよ。いいわね」
そう言い残して、涼の倒れている方へ歩いて行った。
涼の傍では、奏が的確な処置をしているために、教師たちは様子を見ている。
やがて、涼が意識を取り戻して、教師たちが安全なところまで涼を運んで行った。
後に残された選手たちはどうすればいいか、何もできないでいたが、体育教師がやってきて、審判に試合の再開を告げる。
審判が大山のところに来て告げる。
「大山は退場だよ」
「クソッ」
悪態をつきながら、他の選手が控えているところまで戻っていく。
試合は、涼が打った3Pシュートが入っていたため、47対22の再開だった。
しかし、どちらのチームも精彩を欠いており、ギャラリーも静まり返っていて、残り2分を消化するために行われているような試合になってしまった。
結局試合は51対24で、1組が勝ったが、1組のメンバーも喜ぶことなく、体育館を引き上げていった。
賢治が体育館を去ろうとしたところで、バスケ部の監督が声をかけてきた。隣には1組の笠井先生と2組の担任もいる。
「大山」
「はい」
「お前、あのプレーは正しいと思ってやったのか?」
「えっと、あれはたまたま当たってしまっただけなんです」
「お前、ふざけてるのか? 両足を掴みに行ったじゃないか。
そうでないとあんな後頭部から落ちるような倒れ方はしない」
「それは、あいつが大袈裟なだけで」
「お前、本気で言ってるのか?」
「……はい」
「あの生徒に完全にやられていたみたいだが、それにイラついてわざと両足を掴みに行ったように見えたぞ」
「そんなことはないです」
「あんな危険なプレーをする生徒をベンチに入れておくことはできない」
「ま、待ってください」
「あとは、よろしくお願いします」
「大山君、汗を拭いたら生徒指導室に来なさい」
「……はい」
賢治は生徒指導室へ1組と2組の担任に連れていかれ、事情聴取をされた。
大勢のギャラリーも見ていて、悪質な行動だったこともあり、軽い処罰では済ませない方向で考えている教師たちだった。
涼が横になっているところに担任の笠井麻里はやってきた。
「羽山君、具合はどう?」
「頭は痛いですけど、まあ大丈夫だと思います」
「そう、ひどい落ち方だったものね」
奏が口を挟んだ。
「先生、大山君はどうしましたか? 謝りにもきてないんですけど」
「彼なら、生徒指導室にいるわ。私も一緒にいたんだけど、羽山君の様子を見ないといけないから、途中で抜けてきたの」
「そうなんですね」
「まあ、スポーツ中とはいえ、悪質な手段に出たから、処分はすることになるわ。
今頃は保護者の方にも連絡がいってると思うけど、羽山君には後で、保護者の方から連絡が行くと思うわ」
「そうですか」
「羽山君、私の車で病院に連れて行きたいのだけど、動けるかしら」
「はい、大丈夫です」
「あの、先生」
「何? 栗山さん」
「私も病院に付き添っていいですか?」
「うーん、球技大会も授業なのよね。それにこれから試合あるでしょ」
「でも、先生が運転している時に、涼君を見ている人が必要になると思うんです」
「それもそうなんだけどね」
「私は欠席になっていいので連れて行ってください」
「奏、無理しなくても大丈夫だよ」
「涼君が心配だから私も行きたいの。」
「そっか、それじゃあ、栗山さんお願いできるかしら。出席にはしておくわ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、奏。みんなには涼君の病院に付き添ってるっていっておくね」
「ありがとう、まどか。みんなによろしくね」
「うん、じゃあ行くね。涼君お大事にね」
「ああ、まどか。ありがとう」
「先生、私着替えてきます。涼君の荷物も持ってくるね」
「ああ、奏、お願いできる?」
「うん、わかった」
「じゃあ、栗山さんが戻ってきたら、行きましょう」
病院に行き、診察を受けてから涼のうちに向かう途中の車内。
「とりあえず今のところは大丈夫そうで良かったわ」
「はい、ありがとうございました」
「でも、24時間から48時間くらいで何か起こりやすいみたいなのよね」
「静かにしてますよ」
「うーん、親戚とかはいないのかしら」
「気軽に来れる距離ではないので、ちょっと無理だと思います」
「でも1人にしておけないのよね」
「あ、それなら、先生。私が涼君のうちに泊まり込みます」
「「え」」
麻里と涼が驚いて同時に声を上げる。
「私なら、涼君のうちに毎日行ってるし、家族みんな涼君のことを知っているし、大丈夫です」
「でも、男女を1つ屋根の下に置いておくのも問題ありそうなのよね」
「でも、今回は涼君に何かあってからでは遅いんですよ。診ている人が必要です」
「そうねえ、じゃあ、保護者の方に私から連絡します。
それでいいようだったら、お願いするけど、反対だったらダメよ」
「はい、わかりました。でも、もし私がダメだったらどうするんですか?」
「その場合は、私が羽山君のうちに泊まるわ」
「なっ、だ、ダメですよ」
麻里がニヤッと笑い探るように言う。
「あら、栗山さんが良くて、なんで私がダメなの?」
「え、っと、それは、先生独身じゃないですか」
「それは、栗山さんも一緒よね」
「で、でも。涼君が大人の色気に惑わされたり……」
奏の声がどんどん勢いを無くして行き、最後は聞こえなくなってしまった。
麻里は微笑ましそうに笑い、
「まあ、とりあえず栗山さんにお任せする方向にするわ。ダメだった時はその時考えましょう」
「……はい」
(俺の意見は……)
涼は、勝手に決まってしまった状況に困惑するのだった。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
先ほど、ランキングを見たら、日間でも週間でも4位になっていました。
読んでいただいている皆さんのおかげです。
ありがとうございます。
また、誤字報告をしてくださる方、ありがとうございます。
助かっております。
この場でお礼とさせてください。
話はまだまだこれから続きますので、お時間ある方はぜひお付き合いください。




