第47話 アクシデント
1年1組と1年2組の試合も後半残り5分になって36対20で1組がリードしていた。
賢治は苛立っていた。
(なんで、なんで、なんであいつは! 俺より上手いなんてことはありえない!)
試合始まってすぐに、涼が派手なプレイを連続して行い、2組チームの注意を引いたところで、シュートをするように見せかけ、ノーマークのチームメイトにパスを出して得点を重ねた。
これで、涼がどう動いても点が入る雰囲気が出来上がってしまい、流れが完全に1組に向かった。
それに加えて、センターの賢治も向井に防がれることが多くなり、得点があまりできていない。
ほとんどの得点は、他のバスケ部メンバーによるものだったから、賢治のベンチ入り選手としてのプライドはズタズタだ。
(くっそー。監督も先輩も奏も見てるって言うのに)
負けている姿を見られたくない相手にバッチリ見られているので、羞恥心も煽られる。
唯一の救いは、彼女の瑠美がバレーの試合でこの場にいないことだけだろう。
賢治が焦りで考えが回らないうちに、1組チームがパスをカットして涼の手にボールが渡った。
「何やってんだ!」
「すまん」
「ちゃんとやれ」
「わ、わかった」
賢治に怒鳴られたチームメイトは萎縮する。
雰囲気の悪い2組に対して、明るい雰囲気の1組。
これではプレーにも大きく差がついても仕方がない。
涼が声をあげる。
それにチームメイトも応える。
「よーしもう一本行こう」
「「「「おー」」」」
涼がドリブルで進んでいくと、賢治が立ち塞がった。
「そう何度もやらせるかよ、てめー」
「頭に血が上りすぎだぞ」
「はぁ、ざけんじゃねえよ」
涼は、それ以上は口をきかず、プレーに専念することにする。
(1on1いくか)
右手でボールを突き、賢治との間を詰め、上半身を後ろへ傾けた。
そこに賢治がボールをとりに前に出てきた。
(かかった)
体の後ろで、ボールを右手から左手に持ち替えて一気に抜き去った。
その勢いでリングに向かいダブルハンドダンクを決めた。
体育館が割れんばかりの歓声に包まれる。
涼はガッツポーズを決めながら自陣に戻っていく。
「あの人バスケ部の人でしょ。それ抜いちゃったよ」
「1on1のテクニックも凄すぎ」
「ガッツポーズも素敵!」
抜き去られた賢治は呆然としていた。
「ありえない。俺がやられるなんて。あいつはなんなんだ」
「おい、大山! 何してんだ。次行くぞ」
「あ、ああ」
(俺が負けるなんてありえない)
ギャラリーでは奏とまどかが応援していた。
「涼君、上手いね」
「うん、涼君は1on1なら相当上手いよ」
「これは、もう決まったかな」
「そうだね、ここから巻き返すことはできないだろうからね」
「大山君の元カノで涼君と現段階で一番仲がいい奏としては、この状況はどうですか?」
「私は最初から涼君を応援しているからね。嬉しいよ」
「そっか、大山君は眼中にないですか」
「眼中にないって言うわけではないけどね。今は涼君を応援したいから」
「なるほどね。まあ、今の大山君は少しおかしい気がするよね」
「うん、なんであんなに攻撃的なのか不思議で仕方ないの」
「そうだね」
奏はフロアを見て思う
(それにしても、大山君はどうしてあんなに変わったんだろう。
今日の表情も私の知らない大山君だったな)
現在、試合は44対22のダブルスコアになっている。
残り時間は2分になった。
「向井、試合に出していない人にも出て貰えばいいんじゃないか」
「そうだな。次にシュートが入ったら俺と羽山も含めて交代しよう」
「よし、それじゃ最後にもう一本行くか」
涼がボールを持って、敵陣にゆっくり進んでいく。
それを賢治が睨むように見ていた。
(あいつのせいだ。全部あいつのせいだ。調子に乗りやがって。これ以上やらせない)
そんな殺気さえこもっているように見える視線を涼は気づかずに進んでいく。
(3ポイント狙えそうだな)
自分についているはずの賢治のディフェンスもなぜか離れていて、ほぼフリーのため3Pシュートの体制に入る。
その時、ようやく涼がフリーになっていることに気づいた賢治は、慌てて涼に向かって走っていく。
しかし、すでに涼はシュートを打った後だった。が、賢治はぶつかる勢いで涼に迫っていた。
その賢治に魔が差した。
(このままこいつを潰せばいい)
賢治は涼の足を目掛けて勢いそのままに突っ込んだ。
涼の両足を抱えるように賢治がぶつかる。
着地ができずにひっくり返った涼は後頭部からフロアに倒れ込んだ。
ドン
一瞬体育館が静まり返ったようだった。
奏が慌てて立ち上がった。
「涼君!」
無我夢中で、奏はフロアに向かった。
(あの倒れ方はまずい)
奏がフロアに行った時には、両チーム涼のそばに集まっていた。
奏は迷わず涼の横にいって跪いた。
「涼君!」
声をかけるが返事がない。
どうやら意識をなくしているようだ。
(涼君が死んじゃう!……ダメ、取り乱しちゃ。次はどうするんだっけ、呼吸だ)
パニックになりそうだったが、必死に押さえつける。
奏は涼の口に頬を近づけ呼吸と胸の動きを見る。
「呼吸あり」
(お、落ち着いて)
震える手で手首に指を当てて脈拍を測る。
10秒ほどはかり脈拍を確認する。
「脈拍あり」
「んん」
涼が意識を取り戻した。
ぼーっとした目で奏の顔を見た。
「涼君! 良かった!」
「あれ、奏」
「涼君、頭打って倒れてたのよ」
「そうだったのか」
ギャラリーにいた教師たちも降りてきていたのだが、奏が適切な処置をしていたために静観していたのだが、声をかけてきた。
「羽山君、大丈夫かい?」
「あ、はい。後頭部が痛いですね」
「意識の方はどうだい?」
「少しぼーっとするけど、大丈夫そうです」
「念のために病院に連れて行きたいけど、すぐに動けないと思うから、少し休んだら行こう。少し移動させるね?」
そういうと、先生たちは寝た状態の涼を持ち上げて、安全な場所まで移動して、横にした。
「少しここで休んでいてね。気持ち悪くないかい?」
「大丈夫です」
「涼君。本当に大丈夫?」
「ああ、奏大丈夫だよ」
「先生、私ここで羽山君の様子を見ていますので」
「じゃあ、お願いできるかな」
「はい」
「奏、私にできることない?」
「まどか、それじゃあ保健室行って、アイスパックをもらってきてもらえる? 頭冷やしてあげたいの」
「わかった、行ってくるね」
奏は涼と2人になって、泣きそうな顔になる。
「涼君、本当に良かった」
「ああ、心配かけてごめんね」
「本当だよ。意識なかったのよ。心臓止まるかと思った」
「そうだったのか。本当に悪いことしたな」
「涼君は全然悪くないよ」
「どうなったんだ。3ポイント打った時、誰かがぶつかってきたなって思ったけど」
「大山君がぶつかったの。というか、足を掴みに行ったような当たり方だった」
「そうだったんだ」
「怒らないの?」
「今、怒る元気ないよ」
「それもそうだね。でも、私は大山君に怒ってるんだよ。
あれは本当に危険な行為だよ。バスケやる人がやっちゃいけないよ。後で文句言ってやる」
「そうか。試合はどうなったんだろ」
「どうなったか聞いてないけど、負けたってことはないでしょ」
「それはそうか。確か3ポイント入って47対22だったもんな」
「よく覚えてたね」
「うん、メンバー交代しようとして、点も確認してたんだ。もうすぐ代わろうと思ってたのにこのザマだ」
「後ちょっとはやく交代してたらこんなことならなかったのにね」
「ほんとだよ」
「かなでー、持ってきたよ」
「あ、まどか、ありがとう」
涼はまどかがアイスパックを持ってきたので、頭を冷やして少し休むことにした。




