第45話 初勝利
最初のシュートは決めたが、相手のセンターは向井より背が高く、格上で、なかなかゴール下を支配できないでいた。
逆に相手のチームは3連続でゴールを決めて、流れは完全に相手にあった。
(2対6か。センターの向井がどうしてもゴール下で負けてしまうからな)
向井は180センチあるが、相手のセンターはそれより大きく技術的にも向井を上回っている。
(それなら、外から攻めるか)
ドリブルで、ボールを運んでいき、3ポイントラインの手前で右の選手にボールをパスする。
すぐにその選手の右手に移動して、手を2回叩いてボールを戻すように指示する。
ボールが戻ってきたら、すぐにシュートをした。
ボールは大きな弧を描いて、リングに吸い込まれていった。
「ナイシュ! 羽山。チャンスあったらどんどん打ってくれ」
「了解。向井」
今度は相手が3Pシュートを打ったが外れ、涼がリバウンドをする。
すかさず、相手ゴールに向かって速攻をかける。
(よし、ここで勢いに乗せてやろうか)
チラッとギャラリーを見る。奏と目が合った気がする。
(奏もみてるな。やってやろう)
ゴールの正面から、ドリブルでゴール前まで行き、思い切り踏み切る。
両手でボールを頭の後ろに持っていき、リングに向かってボールを叩き込んだ。
そのまま涼はリングを掴み足を少し曲げてから手を離し着地した。
「うぉー、あいつダンクしたー」
「誰だあれ?」
「嘘、あの人かっこいい」
「あの身長でできるのかよ」
「すっごい飛んでたんだけど」
ギャラリーは大騒ぎで、自チームは盛り上がり、相手チームは呆然とした。
涼は戻りながら奏の方を向きガッツポーズをした。
(見たか奏。俺の大技)
まどかと観戦していた奏は驚いていた。
「嘘、涼君の身長であれができるの?」
「あれが言ってた大技なんだね、奏」
「うん、すごいね、涼君」
涼がこちらを見てガッツポーズをしている。
奏は両手をあげて返す。
「ふふ、涼君、かっこいいな」
(でも、これで確実に涼君は目立ってしまうなぁ)
周りを見てもみんなが涼に注目している。
特に女子が大騒ぎしている。
「あのイケメン誰?」
「見たことないんだけど」
「え? 羽山君? えー、全然今までと違うじゃない」
「羽山君、超推せるんだけど」
「ちょっと、見た方がいいよ。かっこいいから」
奏はその様子を複雑な気持ちで見ていた。
(あー、涼君が正当に評価されるのは嬉しいんだけどね。
でもにわか涼君ファンが増えるんだろうな)
そんな奏の気持ちをよそに、コートでは涼が縦横無尽に活躍していた。
外に出たら、3Pシュートを高確率で決めて、それを防ごうと前に出てきたら、中にドライブをして、レイアップかダンクを決めてくる。
その上、ギャラリーは完全に涼の味方だった。1本決めるたびに盛り上がり、涼がボールを持っただけで期待する。
相手チームにとってはやりにくいことこの上ない。
元々1人のバスケ部員と未経験者ばかりで構成されているチームだから萎縮してしまっても仕方ない。
シュートは決まらないし、シュートを止めることもできなかった。
試合終了時40対18の大差で涼たちの1年1組チームは勝った。
「羽山、すごい活躍だったな。ありがとう」
向井が嬉しそうに話しかけてきた。
「みんながうまいこと動いてくれたおかげだよ」
「いや、指示も的確だったし、ポイントガードとしても完璧だったよ」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「一躍人気者だな」
「え?」
「ほら、あれ見てみろよ」
「向井が指した方を見ると、何人もの女子たちが遠巻きにこちらを見ている」
もっとも、これまで無視してきた涼が相手なので、いまいち近寄って来れないでいる。
その横を奏とまどかが通り抜けこちらに向かってくる。
「おお、奏にまどか。見たか? 俺の大技」
「ふふふ、バッチリ見たよ。かっこよかった」
「まさかダンクとは思わなかったよ。すごいね」
2人がどこか上気した顔で言う。
「ありがとう。そう言ってもらえたら、サプライズした甲斐があったよ」
「いつの間にできるようになったの? 練習してないでしょ」
「いや、前からやってはいたんだよ。
1on1ではあまりやる必要はなかったから、やってなかっただけだよ」
「そうなんだ。体力測定とかでもそんなに飛んでたの?」
「いや、あの頃はそう言う気分じゃなかったから、ちゃんとやってなかったんだ」
「そっか。あ、そうだこれタオル。汗拭いて。風邪ひいちゃう」
「あ、でもあっちにタオルあるよ」
「いいから拭いて」
「ああ、分かった」
顔を拭いていた涼の動きが止まった。
「どうしたの? 涼君」
「あ、いや奏の匂いがするなーって」
「あ、ごめん嫌だった?」
「いや、いい匂いで落ち着く。ずっと嗅いでたい」
「ばか」
「何いきなりいちゃついてんの?」
まどかが2人をジト目で見て言う。
涼と奏が顔を赤くする。
「え、えっと、涼君、そのタオル今日使ってていいよ」
「あ、ありがとう」
「この後、どうするの?」
「次の試合はこの試合の後だな。大山たちだ」
「そう。あのさ、もし負けてもさっきの一方的な約束なんて守る必要ないけど、でも勝ってね」
「ああ、俺も負けてもあんなの守る気はないけど、負けたくないと思ったから勝つよ」
「うん、頑張ってね。応援してる」
「ありがとう。奏に応援されてると力が出るよ」
そう言うと、一瞬きょとんとした奏でだったが、次の瞬間パァッと花が開いたみたいな笑顔になった。
涼だけでなく、周囲にいた男子たちは見惚れていた。
(奏はやっぱり可愛いな)
「じゃあ、私たちはまた上に行ってるね」
「ああ、分かった」
「後でね涼君」
「涼君じゃあね」
「ああ、じゃあな2人とも」
奏とまどかと別れた涼は体育館の外に出た。
先ほどのプレイで注目されている涼は、視線に居心地の悪さを感じながら、自販機に向かう。
自販機でスポーツドリンクを買っていたら、声をかけられた。
「あ、あの、羽山君」
振り向くと知らない女子生徒が3人いた。
「何?」
「あ、あの、さっきかっこよかったです。この後の試合も応援してますので、頑張ってください」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
と、笑顔で返すと、
「頑張ってくださいー」
と女子たちは顔を赤くさせて逃げるようにさってしまった。
今までは空気のように扱われていて、奏とまどか以外とはまともに会話もしたことなかったのに、ずいぶん変わった周りの空気に少し辟易としていた。
(本当、色々違ってくるんだなー)




