第44話 初戦開始
大嶺高校の球技大会は全学年合同で行われるため、金土の2日にわたって行われる。
普段は土曜日は休みなのだが、2日目にかぶってしまうので、生徒たちには不評である。
全種目トーナメント方式で行われる。1回戦は4チームがやることになり、2回戦は1回戦で勝ち抜いた2チームと初戦になる14チームで行うことになる。
負けたチームはその後暇になってしまうが、応援をしたり自習を好きにしていいことになっている。
フットサルはグラウンド、バスケットボールは男女共に体育館、バレーボールは屋外のコートを使う。
涼は男子のトーナメント表を見ていた。
「ふむふむ、涼君は1回戦の第一試合なんだね。なんともくじ運が悪い感じだね」
急に隣で聞こえてきた声にびっくりする。
「なんだ、奏か。びっくりした」
「びっくりさせようとしたからね」
満面の笑みでいう奏。髪を高い位置で結んでいる。
涼は、そんな奏に見惚れてしまった。
「ん? どうしたの。もしかして、怒っちゃった?」
「いや、その笑顔も髪型も可愛いなって思ってた」
「っ! く、口説いてる?」
「いや、思ったことを口にしちゃっただけ」
奏は真っ赤な顔をして、もじもじして涼のシャツの裾を摘んでくる。
「もう、そういうところだよ。涼君」
「あー、また2人でいちゃついてる」
「まどか、そんなことないぞ」
「そうよ、涼君が私を口説いてきただけよ」
「口説いてないからな」
「本音は?」
「ちょ、ちょっとは……ってなこと言わんわ」
「ざーんねん」
(この奏の笑顔が可愛いな)
「やっぱり2人で盛り上がって……涼君は試合数が多いんだね」
「ああ、そうなんだよ。まあ、いいけどね。楽しむだけだよ」
「おお、前向きだね」
「奏とまどかは何試合目?」
「私たちは1回戦はないから、2回戦の第4試合。1回戦から数えると、6試合目だね」
「じゃあ、応援できそうだな。俺は、その間に2試合やることになるけど」
「じゃあ、まどかと応援してるね」
「頼むよ」
すると、奏を呼ぶ声が聞こえてきた。
「奏! 俺の試合を応援してくれる気になったか?」
賢治が近づいてきていた。
「んーん、全然その気はないよ」
「なんで、いいじゃないか、応援してくれよ。幼馴染なんだし」
「私たちはこの涼君の応援をするの」
「涼君? 羽山なんかいないじゃないか。ん? って、まさかお前が羽山か」
「ああ、そうだよ」
「イケメンでしょ」
奏は、そう言って涼の体操着の裾を摘んできた。
それを見た賢治は涼を睨んで言う。
「ちょっと、イメチェンしたからって調子こいてんなよ。お前」
「は? 別に調子こいてねえよ」
「お前、前も言ったよな。奏に近づくなって」
「それに了承した覚えはない」
「ふざけんなよ。ならお前勝負しろ」
「は?」
「バスケの試合で俺が勝ったら奏に近づくな」
「いや、普通に嫌だけど」
「負けるのが怖いのか?」
「なんでチームスポーツで、個人的な勝負をするんだよ。成り立つわけないだろ」
「お前が1回戦勝てば2回戦で勝負できる。1回戦でお前のクラスが負けても、お前の負けだからな」
「大山君何言ってるの?」
「奏、お前だって羽山みたいなやつと話したいわけじゃないだろ」
「いや、ほんとにどうしたの?」
「じゃあな。せいぜい1回戦で負けないように頑張れよ。2回戦では俺が勝つけどな」
それだけ言って賢治は去って行った。
あまりの話の通じなさに、呆然とする3人。
「いや、ほんとなんなんだ? あいつ」
「奏、本当にあんな人と付き合ってたの?」
「うん、ちょっと自分がなんで好きなのかわからなくなってきた」
すると、向井が声をかけてきた。
「おーい羽山。ちょっと練習しよう」
「ああ、分かった。それじゃあ、2人とも練習してくるよ」
「うん、頑張って。練習見てる」
「頑張ってね」
「ああ、ありがとう」
涼は向井たちメンバーと合流して、全員でパス回しからシュート練習などしていった。
それを見ていた奏とまどか。
「涼君、入ってるね。調子いいみたい」
「涼君シュート入るね。いつもあんな感じなの?」
「だいたいあんな感じかな。でも、あ、今やったでしょ。ああいうフェイント入れてからのシュートは最近覚えたんだよ」
「へー、その割にはこなれてる感じね」
「涼君、努力家だからね。何度も練習してるのよ」
「すごいね、イケメンで努力家」
「本当にね。シュートする姿も絵になるよね」
「ほんとほんと。それにしてもさっき言ってた大技ってなんだろうね。練習ではやってないみたいだけど」
「そうね、早く見てみたいね」
開始時間が近づいたため、一度集合して向井が作戦を説明する。
「試合は前後半10分ずつだから、かなりきついと思う。人数の入れ替えは自由だから、疲れたら言ってくれ。
すぐに交代する。俺と、羽山はかなり出っ放しになると思うけど頑張ろう。
ディフェンスは細かいこと言うと難しいから、とりあえず自分がマークする人を決めたら、その人からあまり離れないようにして、マークしていた人が抜かれたりした時に、カバーで入って欲しい。
シュートはチャンスがあったら、恐れずにどんどん打った方がいい。
羽山が全体をコントロールしてくれれば助かる
相手は2年生のチームだけど、バスケ部は1人だけだし、なんとかなると思う」
みんな頷く。
「それじゃあ、いこう」
それぞれが相手を決めてマークについた。
ジャンプボールには向井が立ったが、相手はバスケ部の2年生でその上、向井よりも背が高い
ピッ
ボールが浮かんで、2人が同時に飛んだ。
が、2年生の手にボールは弾かれて、2年生チームの1人がボールを手にする。
2年生がそのボールをパスした瞬間だった。涼が飛び出して、ボールを取った。
そのまま涼がドリブルで自分のゴールの方に持っていき、レイアップシュート。
見事に決まった。
「ナイッシュ! 羽山」
向井とハイタッチする涼。
(緊張したけど、とりあえず一本目!)
幸先のいいスタートに涼はほくそ笑むのだった。




