第40話 賢治と瑠美
ある日の放課後、大山賢治と稲田瑠美は校門前で待ち合わせをしていた。
「瑠美、お待たせ」
「賢治くん、部活お疲れ様」
「おう、美術部の方もお疲れ様」
「じゃあ、行こうか」
「おう」
瑠美は小柄なので、180センチほどある賢治と並ぶと、かなり身長差のあるカップルに見える。
そんな賢治を見上げるように見て、瑠美は聞く。
「部活の方は順調?」
「まあな、3年が抜けた後だけど、レギュラーには入れそうだし、上手いこといってるさ」
「そう、よかった」
「瑠美はどうなんだ? 美術部の方は」
「今は次のコンクールに備えて技術を高めているって感じかな」
「そうなのか」
「そうだ、今県のコンクールに出品しているんだけど、よかったら今度の日曜日にでも一緒に観に行ってくれないかな?」
「んー、そうだな。俺、絵見てもよくわからないからなあ」
「……そっか」
「まあ、気が向いたら行こうか」
「……うん。ありがとう」
(一緒に行くって言って欲しかったな。でも好きじゃないなら仕方ないか)
瑠美は、賢治の返事に不満を覚えたが態度には見せないで、グッと抑えた。
賢治は、瑠美の心境に気づきもしないで、隣で歩いている。
「そういえば、最近何かあった?」
「なんで?」
「なんか、機嫌が悪い時があるみたいだから」
「ああ、幼馴染たちがちょっとな」
「栗山さんの姉妹っていうこと?」
「ああ、そうなんだよ。最近、奏は弁当も作ってくれないし、一緒に学校にも行かないんだ」
「そ、そうなんだ」
(それは、別れたからじゃないのかな)
「その上に妹の天音なんか、俺のことお兄ちゃんとも呼ばなくなったしな」
「妹さんとも疎遠になったの?」
「それに、最近男と仲良くなってるみたいで、頻繁にその男のうちに遊びに行ってるみたいなんだよな」
「でも、元気そうでよかったじゃない。……私がいうのもなんだけど、ちょっと心配してたから」
「元気なのはいいけど、姉妹揃って男のうちに遊びに行くことないと思わないか?」
「えー、それはどうしてそう思うの?」
「だって、俺が幼馴染なんだぜ。遊びに行くなら俺のうちでいいじゃないか。なんで、別の男のうちになんか行かないといけないんだよ」
「でも、賢治くんは私と付き合ってるし」
「でも、俺たちは幼馴染だから、普通に遊んでもおかしくないよ。そう思うだろ」
「……そうなのかなぁ」
瑠美は、賢治の言い様に不安を覚えつつも、それを指摘する勇気が持てないでいた。
(やっぱり、私が栗山さんと別れさせたのが、不満なのかなぁ。でも、あの時点で二股だったんだし、どっちかに決めてもらわないと、栗山さんにも悪いと思ったんだよね)
瑠美は賢治と付き合い始めた時は、奏と二股をしているとは知らなかった。
友人に賢治が奏と付き合っているということを聞いて、初めて知った。
それで、このままではまずいから、どちらかと別れるように賢治に迫ったのだ。
先に賢治と付き合っていたのは、奏だったが瑠美も賢治が好きだったため、諦めることができずに賢治に選ばせることにしたのだ。
そのため奏に対して、負い目を感じている。
(はぁ、栗山さんとは一度話す時間が持てたらな。賢治くんに頼むわけには……流石にいかないか)
瑠美の思惑をよそに賢治は喋り続ける。
「しかも、あいつ羽山って言ったか。
奏に会うなって言ってるのに、性懲りも無く会ってやがるんだよ。
陰キャのくせに」
(陰キャっていうのは関係ないと思うんだけど。それにしても羽山って聞いたことあるような気がする)
「今度、もっとガツンと言ってやらなきゃな」
「あまりやんないほうがいいと思うよ」
「なんでだよ」
「栗山さん姉妹が誰に会おうと勝手だと思うの?」
「俺は幼馴染だから。
母親の初音さんにも頼まれてるんだから、俺には義務があるんだよ」
「初音さん? に頼まれたのって、付き合ってる時じゃないの?」
「そうだけど」
「別れた後まで、頼まないと思うよ」
「それは、付き合ってるのをやめたけど、幼馴染はやめてないんだから俺が守らないといけないんだよ」
(なんで、こんなに幼馴染にこだわるのかな? 友達と幼馴染って何が違うんだろう)
瑠美は、賢治に細かい部分での価値観に違いは感じていたが、大きな不満というのは感じていなかった。
しかし、奏に対する姿勢に関しては、思うところがあった。
「私たち付き合ってるんだから、他の人に時間を割くんだったら、その時間を私に割いて欲しいな」
瑠美は、あまりはっきり言う性格ではないが、ここはきちんと伝えるべきだと思い、自身の考えを口にする。
「瑠美にもちゃんと割くよ。その上で、奏と天音にも割くようにしてるから、安心してくれ。な」
「そう、なの?」
流石の賢治も自分の言い方に不信感を感じさせたことに気づいて、今度は瑠美のフォローに回る。
「そうだよ、瑠美が一番だからな。そうだ、今度の日曜映画に行こう。
俺観たい映画があってな、それを観に行こう。
それで、その後カフェに行って、映画の話をしよう。どうだ? 瑠美」
「まあ、いいけど」
(さっき、コンクールに行こうって、誘ったのに……)
賢治は若干煮えきれていない態度の瑠美に重ねて言う。
「映画楽しみだな。そうだ午前中に映画見て、午後は休憩してからショッピングでもしようぜ。
俺、瑠美の買い物に付き合うから。絶対楽しいぜ。な」
強引に話を進めていく賢治に瑠美は、表情を作りながら笑顔を送った。
賢治は瑠美が笑顔に戻ったことに安心するのだった。




