第37話 賢治との遭遇3
「うるさい。だからなんだっていうの?」
賢治は天音の言葉に驚いて目を見開いている。
天音は目を怒らせて続ける。
「あんたと私たちとはもう何も関係ないんだから、ほっといてよ」
「何言ってるんだ、天音。俺たち幼馴染だろ」
「そうよ、ただの幼馴染よ。別に仲良くしないといけないなんてことはないわ。
私たちに干渉しないで。うざいんだけど」
「俺は、初音さんにもよろしく頼むって言われてんだよ」
「そんなの、あんたがお姉ちゃんを裏切るまでの話よ」
「裏切ってなんかいない。今でも奏は幼馴染なんだから」
「あんた……幼馴染って言えばなんでも許されるって思ってるわけ?」
「っ!? そんなことはないけど。……そうだ、天音。なんであんたなんて言ってるんだ。
どうして賢治お兄ちゃんってよんでくれないんだ」
「はぁ? あんたがなんでよんでもらえるって思ってるか、謎なんですけど。
それに」
天音は涼の腕を引っ張り、腕に抱きつく。
「紹介するわ、私のお兄ちゃん」
「なっ!」
賢治は絶句した。
なんとか立ち直り、言葉を続けるが、それは醜悪で根拠も何もない言葉だった。
「そ、そうだ。天音も奏もそいつに騙されているんだ。
そいつはただの陰キャで友達もいないクズなんだぞ」
「幼馴染を二股の末に振ったやつと、振られた当日に強引なナンパで連れ去られそうな所から救ってくれた人とどっちがクズよ」
「なっ、奏、連れ去られそうだったのか?」
賢治は奏に話を振る。
「……うん」
「そうか。俺がいれば守ってやれたのに。
そうだ、これからはちゃんと俺が守ってやるから、こっち来い。そんなやつに守ってもらう必要はない」
「……稲田さんはどうするの?」
「瑠美にはもちろん、幼馴染を守るためだって説明する。
だから、これからは今までと同じように、学校に一緒に行って一緒に弁当を食べよう。
それに休みだって、前ほどじゃないけど一緒の時間を作る。
だから3人で一緒にいようぜ」
涼は奏の顔を見る。
少し血の気の引いた表情からは感情を読み取ることは難しい。
(奏は、どう動くかな。
まだ気持ちが残っているから、幼馴染としてだけでも大山といることを選ぶ可能性もあるか)
そう考えると、涼の気持ちは暗くなった。しかし、奏の判断に委ねるしかない。
(でも、この判断次第で、奏がうちにきたりすることは無くなるのかな。
奏が幼馴染として大山を選んだ時、俺はどうするのがいいんだろう)
天音は天音で、怒り顔はそのままに奏がなんと答えるか見守っているようだ。
「……」
しかし、奏は何も喋らない。
涼は賢治にこいと言われて心が揺らいでいるのだと思った。
(こう言う時は、カナデだけに委ねないで、多少強引でも引き戻してやらないと)
涼は奏の手を多少力を入れて握った。
奏が驚いたように涼を見た。
涼はニコッと笑って、奏を見る。
奏は緊張がほぐれたように頬を緩めて前を向く。
「賢治……」
「なんだ、奏」
「私は賢治が好き」
涼が寂しそうに笑みをこぼして奏をみる。
(それが、奏の選択なら仕方ない)
天音は目を大きく見開いて、奏を見る。
そして悔しそうに顔を下に向ける。
賢治は嬉しそうに顔を綻ばせて勝ち誇ったように涼を見る。
「それなら、奏、こっちにこい。今までとおり俺が奏を守ってやるから。
そんなやつ俺たちの間にはいらない」
賢治のそう言う言葉を奏が聞こえないかのように次の言葉を紡ぐ。
「でもね、賢治。私たちは付き合ってた」
「ああ、そうだな」
「それで、二股をかけて振ってきたのは賢治だよ」
「ああ、それは仕方ないことだったんだ。でも、幼馴染として」
「それって虫が良すぎない?」
「え?」
「いくら私が賢治のことがまだ好きだからって、賢治が好きな人とつきあって、私を振って、私には幼馴染に戻れだなんて。私が納得するって思うの?
そんなことありえない」
「……」
「それに、別れてからの賢治はひどいよ。
困っていた時に助けてくれた涼君の悪口を散々言った挙句、俺のところにこいって、何様って感じよ」
「でも、それはそいつが俺たちの間に入ろうとしているから」
「涼君を、そいつ呼ばわりしないで。
それに、私たち幼馴染の関係はとっくに修復できないところまできてるよ。
賢治が二股して、私を振った時に」
「でも、奏は俺のことが好きなんだろ。
だったらそばにいたいんじゃないのか?」
「自惚れないで! 私が賢治に振られた日にどれだけ悔しくて、悲しい思いをしたと思ってるの?
それを私が賢治をまだ好きだからって、稲田さんとの関係はそのままに私が賢治を受け入れるなんて思わないで」
賢治が絶句した。
反面、涼は内心ほっとしている。
(よかった、奏が冷静に判断できて)
天音が一歩前に出て言う。
「お姉ちゃんが、あんたに気持ちが残っているのは昔の付き合いがながかったせいよ。
どうせ、あんたのことなんかすぐに忘れるわ。
私はあんたのことを幼馴染なんて思わない。
だから、この関係は終わりよ。もう話しかけてこないで」
「嘘だろ、天音。俺たちの仲じゃないか」
「そんな仲もう終わったのよ。
それと金輪際、天音って呼ばないで。あんたは他人なんだから。呼ばれると不愉快だわ」
あまりのことに呆然とする、賢治。
何か言いたそうな奏と目が合い、すがるように奏に声をかける。
「奏」
「私も、奏って呼ばないで。もう幼馴染の付き合いもしないんだから。
お願いね、大山くん」
言葉が出ない賢治。
奏と天音は賢治から目を逸らし、涼を見た。
「さあ、涼君お待たせ。うちまで送っていって」
「お兄ちゃん行こ」
「ああ、分かった」
涼はほっとしたような顔に笑みを浮かべる。
3人は賢治を置いて並んで歩き始めた。
後には信じられないと言うような顔をした賢治が残されていた。
3人で歩いていると。天音が揶揄うように涼に言う。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんがあいつのところに行っちゃうんじゃないかと思って寂しかった?」
「天音!」
「あ、いや、そうだな。寂しかったよ。もう奏とも天音とも遊べなくなると思ったから」
「涼君」
「お兄ちゃん私は大丈夫だよ。お姉ちゃんがあいつのところに戻っても私はお兄ちゃんといるからね」
「天音……ありがとうな」
そう言って、天音の頭を撫でる涼。
それに少し驚きながらも、嬉しそうにする天音。
「えへへ、どういたしまして」
奏はむすっとした顔で言う。
「私だって、涼君とは友達だもの。離れたりしないよ」
「お姉ちゃん、あいつのことまだ好きなんでしょ」
「それはそうだけど、その気持ちはだんだん小さくなってきてるの。
今の大山くんのところになんて戻ろうと思わないわ」
「そうか。じゃあこれからも一緒だな。よかったよ、奏」
涼の言葉に、奏は頬が熱くなる。
(私の涼君に対する気持ちはなんなんだろう。好きは好きなんだけど、異性としてなのかな。でも、今は……)
「わ、私も涼君のそばにいるって言ってるんだから、頭撫でてよ」
「ああ、いいよ」
奏は頭を優しく撫でる涼の手の感触に目を細めた。




