第36話 なでなで2
3人はアニメを見たあと勉強をして過ごした。
奏は学年トップを誇るのでもちろんだが、涼も成績がいい。
だから、天音にとっては理想的な学習環境と言えた。
「天音は流石に理解が早いな。成績もいいんじゃないか?」
「いい方だと思うけど、お姉ちゃんほどじゃないかな」
「そうなんだ。志望校とか決まってるの?」
「うん、大嶺受験しようと思ってるよ」
「そっか、天音が後輩になるのか」
「うん、そうしたら毎日会えるね。お兄ちゃん」
「ああ、そうだな」
そんな2人を奏は眺めながら1人思う。
(この2人、昨日初対面だったのに距離感近すぎない?)
むすっとした顔をしている。
「どうしたんだ、奏?」
「なんでもない」
「なんでもない顔じゃない気がするんだけど」
「いいの、ほっといて」
涼は少し考えたそぶりをしてから、奏のそばに腰を下ろし、奏の頭を撫で始めた。
「え? 涼君?」
「いや、奏がなんだかわからないけど寂しそうな顔していたからな。
これからも頭撫でるって言っただろ」
「う、うん」
(涼君の手、気持ちいい)
とろけたような顔になっている奏を見て、天音が珍しがる。
(お姉ちゃんのあんな姿、あの人にも見せたことないだろうに、これで好きかどうかわからないって言ってるんだから……)
しばらく奏を撫でて手を止めると、奏が残念そうな顔をして、顔をあげる。
ちょっと、イタズラっぽく笑いながら言う。
「涼君に撫でられるの好きよ。ずっと撫でてもらいたいくらい」
「そうか、俺も奏の頭撫でるの好きだよ」
「じゃあ、学校でもどこでも撫でてね」
「い、いや流石にどこでもは良くないだろ」
「涼君だったら、いいよ」
「く、口説いてんの?」
「さあ、どう思う?」
奏がじーっと見つめてきて、涼はその美しい瞳に吸い込まれそうな感覚になり、目が離せなかった。
しばらく様子を伺っていた天音が痺れを切らして言う。
「ねえ、今2人とも私のこと忘れてたよね」
「「そんなことないよ」」
「もう。……お兄ちゃん、今度私の番だよ」
「天音の頭も撫でるの?」
「うん」
「天音はダメよ」
「なんで? お姉ちゃん」
「そ、それは、その、まだ早いというか」
「子供だって撫でられるのに、早いとかあるの?」
「う、ないけど」
「じゃあ、いいね。お兄ちゃんよろしく」
「あ、ああ、分かった」
涼がおずおずと天音の頭を撫で始める。
涼の撫で方は優しい。相手を気遣って絶妙な強さで撫でる。
天音は思っていた以上に気持ちが良くて、目を瞑る。
(お兄ちゃんに撫でられるの気持ちいい。あの人にも撫でられたことあるけど、雲泥の差だわ)
しばらく撫でてから涼は手をはなす。
「ありがとう、お兄ちゃん。すっごく気持ちよかったよ。またやってね」
「ああ、そのうちな」
(天音に涼君の撫でるのが気持ちいいことがバレちゃった。ちょっと、いや、すごく残念)
奏は内心思っていたが顔に出すことはしなかった。
涼が時計を見ると6時を回っていた。
今日2人は歩きで来ている。
栗山家まで15分くらいかかる。
もうそろそろ出た方がいいと涼は思った。
「さあ、そろそろ帰る時間じゃないか?」
「えー、もう?」
「本当だ、もうこんな時間なんだ」
「ちなみに栗山家の夕食は何時くらいなんだ?」
「7時から8時の間くらいかな」
「そうか、それなら、やっぱり帰った方がいいな。送っていくよ」
「ありがとう、涼君」
「ありがとうお兄ちゃん」
戸締りをして、家を出る。
もう6月なので、6時過ぎと言ってもまだまだ明るい。
夕暮れを楽しむように3人はゆっくりと歩く。
「あー、今日は楽しかった。ありがとうね、お兄ちゃん」
「ああ、いつでもおいで。天音なら大歓迎だから」
「嬉しい。また部活休みになったら行っていいかな」
「ああ、いいよ。テスト前とかもうちで勉強してもいいし」
「それ、いいね。確か、大嶺高校も中学校と期末の時重なるんだよね、お姉ちゃん」
「確かそうだったよね」
「じゃあ、その時行くね。勉強教えてね、お兄ちゃん」
「ああ、いいよ」
「やったー」
(天音は明るい子だなー)
涼は天音の喜ぶ姿に顔を綻ばす。
すると、奏が言いにくそうに言ってくる。
「あ、あの、涼君」
「なに? 奏」
「私もテスト勉強、一緒にしてもいい?」
「いいっていうか、奏は当然くるものと思ってたけど」
「そ、そうなの?」
「奏は水臭いこと言うなよ。俺は奏がきてくれないと寂しいぞ」
「く、口説いてんの?」
「口説いてないよ。でも、本当にそう思うよ」
「そっか、それならよかった。よろしくね」
「ああ、もちろん」
(ああ、涼君にそう言ってもらえると、すごく嬉しい)
そこで天音が口を挟む。
「あー、また2人の世界に入ってる」
「「入ってないよ」」
「嘘、入ってたー」
「違うよ天音」
「誤解よ」
ワイワイと帰っている3人が声をかけられる。
「奏と天音?」
振り向く3人
そこには賢治が立っていた。
気まずい顔の奏、さっきとは打って変わって表情がなくなった天音。
またかと、うんざりした顔の涼。
賢治はそこに声をかける。
「奏、今帰りか? 天音も一緒だったのか、久しぶりだな天音……お前」
今まで、涼に気づいていなかったのか驚いた顔をする賢治。
しかし、すぐに表情を切り替えて涼に食ってかかる。
「羽山、お前言ったよな。奏に近づくなって。それなのに天音にまで近づいてるのか?」
「……」
涼は何も言わない。ちょっと面倒に思っているので、会話をする気がないためだ。
「奏、天音、今までどこ行ってたんだ。まさかこいつの家とかじゃないよな」
涼も奏も何も答えなかったが、意外なところから声が上がった。
「うるさい。だからなんだっていうの?」




