第35話 はっきりしない想い
しばらく待つと、シャワーを浴び終わった2人が出てきた。
「涼君、遅くなっちゃったけど、お父様お母様にご挨拶させて」
「ああ、そうか、よろしく頼む」
それで、仏壇の部屋に行き蝋燭をつけて、奏がいつもの手順で手をあわせる。
(お父様、お母様こんにちは。いつもお世話になっています。
今日も楽しく過ごさせていただいています。ありがとうございます)
「お兄ちゃん、私もご挨拶させて」
「ああ、よろしく頼む」
天音も奏に倣って手をあわせる。
(お父様、お母様初めまして。栗山天音です。
涼さんにお兄ちゃんと呼ばせてもらっています。
これから、仲良くさせてもらいたいと思いますので、どうかよろしくお願いします)
涼はそんな2人を見て、嬉しく思う。
(両親に手を合わせてくれてるってありがたいな)
「さて、それじゃあ俺もシャワー浴びてきちゃうな」
「うん、待ってるね」
涼がシャワーを浴びている時のリビング。
「お姉ちゃん、女物のシャンプーとかボディーソープがあったから、誰のかと思ったら、まさかお姉ちゃんのだったなんてね」
「流石に涼君のを使わせてもらうのもまずいし、2人で同じ匂いっていうのもなんか気恥ずかしいしね」
「すっかりこの家に馴染んじゃってるんだね、お姉ちゃん」
「そうね。短期間だけど、涼君の好意に甘えて色々させてもらってるわ」
「お姉ちゃんは、お兄ちゃんのことどう思ってるの?」
「どうって、大切には違わないんだけど、友達と思っているとしか言えないけど」
「それだけ?」
「うーん、正直、自分の気持ちがわからないのよね」
「あの人のこと、まだ諦めきれないの?」
「随分忘れてきてるよ。これは涼君のおかげだと思う。
まあ、学校で賢治のカップルを見るとまだ胸が痛むけど」
「そっか、じゃあお兄ちゃんが好きかあの人が好きか、まだはっきりしないんだね」
「うん、そうかも」
「でも、うかうかしてるとお兄ちゃん取られちゃうと思うよ。
あんなに優しくてイケメンでお金持ちだし非のつけようがないでしょ。
唯一見た目の部分も。今度の球技大会で直しちゃうんでしょ。
女子達が放っておかないと思うよ」
「そうなのよね。
涼君が正当な評価を受けないのは悔しいんだけど、素顔を晒すのはそれはそれで、嫌だなって思う私がいて、我ながら勝手だなって思うの」
「うん、勝手だね」
「ストレートに言わないでよ」
「でもお姉ちゃん、言っとくけど、私だってお兄ちゃんをとても魅力的に思ってるからね。
他の人に取られるなら、私がアプローチしてもいいくらいだよ」
「それは嫌だな」
「ま、私は妹の立場を利用して、お兄ちゃんにたっぷり甘えさせてもらっちゃうわ」
「ううー」
「ヤキモチ妬いちゃって。
やっぱりお姉ちゃん、お兄ちゃんのことが好きなんじゃないの?」
「かもしれないけど、まだはっきりしないから」
「仕方ないかもしれないけど、早くはっきりした方がいいよ」
「わかってるわよ」
奏はクッションを抱えて顔を埋めた。
程なくして、涼がシャワーから出てきた。
「お待たせ」
「おかえり」
「お兄ちゃん、おかえり」
「お昼なんだけどさ、作ってくれるってことになってたと思うんだけど、今から食材買いに行っても遅くなっちゃうから、ピザでも取らない?」
「やったー、賛成!」
「涼君の食生活が心配なんだけど、仕方ないね」
それから、3人は四種類のってるLサイズのピザとサイドメニューをいくつかコーラなどを注文した。
30分ほどでピザは到着したので、アニメでも見ながら食べようかということになった。
「天音は『ダンジョンで出会いを求めたのは間違いだっただろうか』は途中からになっちゃうから、やめといた方がいいよね」
「いいよ、一度見たことあるし」
「じゃあこれにしようか」
ということで、前回のアニメの続きを見ている。
ひとしきりピザも食べた天音が涼と奏を交互に見て考える。
(ちょっと揺さぶりかけてみようかな。私の楽しみでもあるけど)
「お兄ちゃん」
「何、天音」
「もう食べた?」
「うん、だいたい食べたな」
「そっかそっか。じゃあ、えい」
天音が、涼の左腕に抱きついてきた。
「あ、天音?」
「ちょっと、天音!」
涼の腕に発展途上とはいえ、天音の柔らかい感触が伝わってくる。
女性に抱きつかれるのは初めての涼は顔をほんのり赤くしている。
(はずかしい、けど嬉しいかも)
「うわ、すごい筋肉。お兄ちゃん逞しい」
「逞しいじゃないでしょ。離れなさいよ」
「私、妹ってことになったからいいの」
「よくないわよ」
「じゃあ、お姉ちゃんもやってみたら? お兄ちゃん喜ぶよ」
「そんな、よ、喜ぶわけないじゃない。ね、ねえ涼君」
赤くなりながら、ちょっと期待しながらも涼にいう。
「え? いや、む、むしろ喜ばないわけないけど」
涼は自分の一言で、恥ずかしくて真っ赤になる。
「え、そう、なの? 涼君、嬉しいの?」
「う、嬉しいよ」
辿々しく話している2人。
見ている、天音が焦ったく感じて口を出す。
「もう、早く抱きつきなよ。お姉ちゃん」
「だ、抱きつくって」
「……」
天音の一言で余計に涼は固まってしまった。
奏は真っ赤になっている。
「お姉ちゃん、早く」
「じゃ、じゃあ、涼君、し、失礼します」
「あ、ああ」
おずおずと涼の右腕を抱えるように抱きついてくる奏。
奏の胸は大きく形がよい。
右腕が柔らかい極上の感触に包まれていくことで、涼の心臓がこれでもかというくらい拍動して、顔もさらに真っ赤になる。
(涼君の腕、賢治より太くて逞しい。あ、比べちゃうのは涼君に失礼よね)
奏は自分の思考に罪悪感を抱きながら、涼の腕を強く抱く。
その動きに涼はさらに硬直する。
「お兄ちゃんどう?」
「どうって?」
「2人に抱きつかれて嬉しい?」
「う、嬉しいかな」
「じゃあ、抱きついて良かった」
上目遣いで天音が言ってくるのを見て、あまりの可愛さに、目を逸らすとそらした先では奏がやはり上目遣いで見ている。
(姉妹が可愛すぎる。何でこんなことになってるんだ)
しかも、両方からシャンプーと彼女達本来のいい匂いが漂ってくる。
頭がクラクラする。
「あ、あのな。2人とも」
「な、何?」
「ど、どうしたのお兄ちゃん」
「2人とも魅力的でさ、そんな2人に抱きつかれていたら、俺の理性も精神力も心臓も限界を迎えてきてるんだ」
「私もだよ、お兄ちゃん」
「わ、私も。涼君」
「じゃ、じゃあさ、一度離れようか」
「わかったよ、お兄ちゃん」
「わかった、涼君」
2人は離れていった。
イタズラっぽく天音が涼に尋ねる。
「お兄ちゃん、2人とも離れちゃって残念だと思った?」
「っ!? ……う、うん、思った」
前向きに生きると決めている涼は、正直に答える。
揶揄うつもりだった天音は逆に恥ずかしくなってしまった。
「そ、そっか、じゃあ、今度またお姉ちゃんとやってあげようかな。ね、お姉ちゃん」
「へ、う、うん。涼君がいいなら」
「う、嬉しいけど、いろいろ持たないかもしれない」
「えへへ」
「ふふふ」
「あはは」
3人は顔を見合わせ、照れながらも笑うのだった。
それからは、少し近い距離で3人並んでアニメを見るのだった。




