第28話 ボルダリング
涼は、2人にボルダリングの基本姿勢やムーブの仕方などについて、実際にやってみせながら説明する。
「降り方だけど、こうやってできるだけ下に降りてから、降りる場所をしっかりみて飛べばいいから。
でも、必ず落ちちゃう時があるんだけど、そういう時は、受け身をとってね」
「受け身はどうすればいいの」
「よく言われているのが、足からついて、膝を曲げて衝撃を吸収して、後ろに転がる」
実際にやってみせる。
「こんな感じかな。これができれば完全に安全っていうわけじゃないけど、足首の怪我とか、かなり防げるようになるはずだよ。
落ち方は重要だと思うから、後で練習はしたいけど、最初だから、とりあえずやってみようか。
この大きい青いホールドを使って登っていけばいいよ」
「分かった、じゃあまず私からやるね」
一番簡単なコースを指定すると、奏が最初に名乗りをあげた。
「じゃあ、無理はしないでやってね」
「うん、みててね」
奏は元々女子にしては長身のためか、ホールドにも楽々手をつけ、するすると登ってしまった。
「奏すごい」
「いいね、奏。じゃあ気をつけてある程度降りてきてから、着地地点を見て飛んでね」
「うん、分かった」
奏は慎重に降りてきて、低いところまで降りてきたら、飛んで降りた。
「完璧だったね」
「ありがとう、涼君」
「それじゃあ、まどか行ってみる?」
と、言って涼がまどかの顔を見つめると、まどかが顔を赤くしている。
(やば、涼君の顔カッコ良すぎて見てると照れちゃうんだけど)
「どうしたの?まどか」
「ん、んんん、なんでもないの」
「むー、まどかー」
「え? 何かな、奏?」
「なんでもないけどー」
奏がむくれている。
「どうしたんだ、奏」
「涼君が悪いんだよ」
「え、なんで?」
「なんでもない」
(もう、涼君がかっこいいの私だけしか知らなかったのに)
まどかはなぜか照れてるし、奏はなぜかむくれている。
涼は困ったが、とりあえずこのままにしておけないので、まどかに声をかける。
「まどか、どう? できそう?」
「う、うん。大丈夫」
まどかは登り始めると集中できたようで、どんどん登っていった。
降りる時も低い位置まで降りてきて、飛んで降りた。
「よし、大丈夫みたいだね。みんな腕はどう?」
「結構張ってる感じだけど、まだ大丈夫そう」
「私もまだ大丈夫。でも、1回だけでこんなに張るんだね」
「うん、まだ初めてだし。すぐに疲れちゃうから無理はしたくないかな。
とりあえず、少し登って飛び降りて受け身の練習しようか」
「「うん」」
それから、しばらくは涼にアドバイスを受けながら、受け身の練習をした。
「じゃあ、ちょっと休憩しようか。その後もう一回登ろう」
「「はーい」」
それぞれ、先ほどのスポドリを飲む。
奏が楽しそうに言う。
「まだまだ、少ししかやってないけど、私ボルダリング好きかも」
「私も好きだな」
「そう言ってもらえると、なんだか俺も嬉しいよ」
「ありがとね、涼君」
「ありがとう」
「いいって、俺も一緒にできる人ができて嬉しいからさ」
「それにしてもさあ、涼君ってすごいイケメンだよね。どうして隠してんの?」
「ああ、それは、奏には話したけど、ちょっとしたワケがあったんだ。
お母さんが病気になってから、自分のことにかまけている余裕がなくってね。
それで、伸びるのに任せてたら、こんなにモッサクなった。
メガネは伊達メガネなんだけど、お母さんの看病とか亡くなった後とか、不眠症になってね。
クマができていたから隠すように大きな黒縁の眼鏡をしているんだ。」
「そうなんだ。なんかさっきからデリケートなことばかり聞いてごめんなさい」
「いいって、気になるだろうし」
「ねえ、涼君」
「何? 奏」
「もうクマは無くなったようだけど、いつまで伊達メガネするの?」
「ああ、もう外してもいいけど、習慣になっちゃっててね。
そのうち外そうとは思っているけど、きっかけがなくてね」
「そうなんだ。なんか涼君がこんなにかっこいいのに、陰キャとか言われると腹が立つんだけど、でもこのまま隠しておきたい気もするんだよね。
正直言うと」
「あ、わかるかも。素顔晒したら、絶対に女の子たちが集まってくるよ」
「そうかな? そんなことないと思うけど」
「涼君は甘いよ。見た目だけでよってくる人って、男でも女でもすごく多いんだから」
「ああ、俺がイケメンかは置いておいても、奏がフリーになった途端に男子が群がってきてるもんな」
「そうだよ。私がどんな人間かなんて興味ないんだよ。あの人たち」
「でも、奏みたいに優しくて綺麗な上に笑顔が素敵だったら、告白しちゃうのもわかる気がするな」
「っ! く、口説いてんの?」
「く、口説いてないって、見たまんまの感想だよ」
「そ、そう言うところだよ、涼君」
「あのー、私がいる前で、いちゃつき始めるのやめてもらえませんかね」
「い、いちゃついてないわよ」
「いちゃついてないぞ、まどか」
「でも、2人とも顔が真っ赤だし」
「こ、これは暑いの」
「うん、暑いんだよ。動いたし」
「涼君はしばらく指導にまわってて、動いてなかったよね」
「う、そ、そうだ。そろそろ始めよう」
「う、うん、始めましょう」
「そんなに誤魔化さなくっても」
まどかがニヤニヤ笑い、涼と奏は顔を逸らすのだった。
「あー、それじゃあ、コースを一段あげた方をやる?」
「「賛成」」
「じゃあ、今度は2人はこの赤いホールドをやって、俺は違うのをやってるから」
それからは順番で、それぞれの課題をこなしていく。
30分ほどやっていたら、まどかが声を上げた。
「もうだめ、腕がパンパン」
「私も腕がパンパン。もう限界かな」
「そうか、それじゃあここまでにしておこう。最後みんなでストレッチしようか」
「普通のストレッチと違うの?」
「いや、それほど変わらないけど、指と腕とか肩周りを中心に全身やるって感じかな」
「そうなんだね」
涼に教わりながらみんなでストレッチをして、涼の自宅リビングに戻る。
「2人はシャワー浴びていく? 風呂入れてもいいし」
「どうしよう、あ、まどか一緒に入らせてもらう? 涼君ちのお風呂何人か入れそうだったよ」
「え? 奏、ここでお風呂入ったことあるの?」
「ううん、シャワーだけ」
「シャワーならあるんだ」
「大丈夫よ、涼君変なことしないから」
「そう言う問題?」
「まあ、奏が入っている間はドキドキしてたけど、何もしないよ」
涼の発言に奏が少し驚いて聞く。
「ドキドキしてたんだ、涼君」
「そりゃあするよ」
「興味ないのかと思ってた」
「そんなことないよ。奏みたいなモデル体型ですごい美人が自分のうちのシャワーを使ってるんだよ。
ドキドキしないほうがおかしいよ」
「く、口説いてんの?」
「口説いてないって。思った通りのこと」
「もう」
「あのー、2人の世界に入らないでもらえますか? 私いるので」
「あ、あ、それじゃあ、どうするまどか。一緒に入らせてもらう?」
「着替えも持ってきてるし、そうさせてもらおうか」
「わ、分かった、準備してくるな」
涼は逃げるようにリビングを出ていった。




