第24話 朝の挨拶
月曜日朝
涼が登校すると、奏はすでに女子たちに囲まれていた。
そこには男子も数人含まれていた。
(やっぱり奏は人気あるな。とりあえず、俺も挨拶くらいはしておこうかな)
たくさんの人に囲まれている奏に声をかけるのは躊躇するものの、休日も遊んでいる仲だ。
無視してしまうのも気まずい。
陰キャである自分が声かけるのも不自然には感じたが、周りの評価よりも自分と奏の仲を優先で考えていたいと思った。
しかし、なかなか囲みが厚くて近寄れない。
声をかけてみることにした。
「ちょっと、ごめんね。通してもらえる?」
「なんだよ、お前」
誰だったか、クラスメイトらしき男子生徒に文句を言われる。
「通してもらいたいだけだよ」
「お前、陰キャぼっちに栗山さんが用あるわけないだろ」
「いや、俺にはあるから」
「はあ、お前なんだよ」
さらに男子生徒が言い募るが、そこで話の中心から声がかかった。
「あ、涼君?」
「ああ、そうだよ奏」
「おはよう、涼君」
「おはよう奏」
周囲が呆気に取られている。
涼が一歩前に出ると、集団が割れて奏に近づけた。
「え? 下の名前呼び?」
「ど、どうして」
「っていうか誰だっけ?」
口々に言っている。
が、それを気にしないで奏は続ける。
「土曜日はありがとう。楽しかったよ」
「こちらこそありがとう」
男子生徒の一人が奏にきく。
「栗山さん、土曜日にこいつと遊んだの?」
奏は笑顔を崩さずに言う。
「ごめんね、今涼君と話してるから」
すぐに涼に向き直り、
「昨日は何してたの?」
「うーん、勉強とトレーニングくらいかな。奏は?」
「私はまどかとショッピングモールで買い物して、お茶してた」
「まどか……さん?」
すると、奏の席の後ろから声がしてきた。
「私だよ。古賀まどか。奏の親友です。話したことなかったよね。
よろしくね、羽山君」
「古賀さん、よろしくね」
「奏が下の名前呼びだから、私も下の名前呼びでいいよ。
まどかって呼び捨てにして」
「いや、流石に馴れ馴れしすぎるよ」
「いいからいいから。私も涼君って呼んでいい?」
「い、いいけど」
「……じゃあ、涼君よろしく」
「……まどか、こちらこそよろしく」
流石にいきなりすぎて、二人とも照れ臭くなって、顔を少し赤らめた。
すると、蚊帳の外になった奏がむすっとした顔をしている。
奏としては2人がすぐに下の名前呼びになってしまったことに不満なのだ。
(名前で呼んでるの、私だけだったのに。ずるいよまどか)
「どうしたの、奏?」
「いいんだけどさあ、涼君って女の子のことすぐに下の名前で呼び捨てにするタイプな訳?」
「え? いや、これは」
言葉に詰まって、原因のまどかを見ると、ニマニマした顔をしている。
(なんでだ?)
「いきなりで感じ悪かった?」
そうすると、奏が頬を緩めて、
「ううん、気にしないで」
「そ、そうか、よかった」
「それじゃ、まだカバンも下ろしてないから、席に戻るよ」
「わかった。また、後でね。涼君」
「涼君じゃあね」
「奏、まどか、じゃあな」
涼が席に戻って行ったのを見ると、取り巻いていた女子たちが
質問を始めた。
「羽山君と、どんな関係なの?」
「友達だよ」
「結構仲良さそうだけど」
「最近仲良いよ」
そんな中、一人の男子生徒が口を開いた
「でもさぁ、あいつちょっと隠キャじゃない? 栗山さんに合わないよ」
「私に合うかどうかは私が決めるんだけど。
そう言うんだったら、あなたはなんでここにいるの。
女子ばかりで集まっているのに」
「そうだよ、鹿島。ここ女子ばっかりなんだから、少しは遠慮したら?」
「あ、ああ」
涼の悪口を言った鹿島という男子は奏とまどかに撃退されて、すごすごと自分の席に帰って行った。
それを興味なさそうにみた奏たちも授業の準備をするのだった。
昼休み、奏は人気のない校舎裏に呼び出されていた。
ただ、隣にはまどかが一緒にいた。
向かいには男子生徒が立っている。
男子生徒はイケメンと言える程度には顔が整っている。
「彼女はどうしたの? 栗山さん」
「どうしたとは?」
「俺は栗山さんが一人で来ると思っていたんだけど」
「彼女は私の親友の古賀まどかさん」
「古賀まどかです。付き添いできました」
「ちょっと、一人じゃないと困るというか」
「一人だったらきてなかったのですが、私一人じゃないとできない話ですか?」
「いや、できるけど」
「なら大丈夫ですね」
「まあ、いいか」
男子生徒は、意を決して話し始めた。
「栗山さん、最近別れたって栗山さんのクラスのやつから聞いたんだけど本当?」
「はい、本当ですけど」
「それならさあ、俺と付き合ってよ。」
「はい? なんで別れたからって、それならってなるんですか?
私、あなたの名前も学年もクラスも知らないんですよ。
初対面の人に付き合えって言われて、普通付き合いますか?」
男子生徒は、そう言われて慌てて言い訳を口にする。
「俺、結構有名なんだけど知らない?」
「知りません」
「結構モテるんだよ」
奏とまどかは、呆れた顔で見合わせる。
「モテるからなんだというのですか?
私があなたの名前を知らないのは変わらないですよね」
「ああ、名前を言うと、高藤久弥 2年3組 サッカー部でレギュラーやってる」
「そうですか。わかりました」
「それでどう、付き合ってくれない?」
「お断りします」
「なんで?」
「それはこちらの方がなんで? です。初対面で人となりを知らないで、なんで付き合えると思ったんですか?」
「結構俺、競争率高いんだけど」
そこで、まどかが口を挟む。
「そんなにモテるなら、その子たちと付き合えばいいんじゃないですか?
少なくとも奏に脈はないですよ」
「関係のない奴は黙っててくれ」
「私の親友にそんな口を聞いている時点で、もう終わりです。
話も聞く必要もありません。二度と話しかけないでください。
行こうまどか」
「ごめん、ちょっと言いすぎた。話を聞いて」
「結構ですから、本当に声をかけないでください」
二人は去っていく。
高藤はしばらくその姿を呆然として見送っていた。




