第102話 日野母娘
土曜日の早朝。
ランニングを終わらせた、涼と奏と天音。
涼はストレッチで2人に同時に押され、必死に耐える。
少しは柔らかくなった気もするが、やはり苦しい。
「涼君、いとこはいつ来るの?」
「ふー、じゅ、10時、くらい」
「お兄ちゃん、私たちはいてもいい?」
「あ、ああ、ふー、いても、いい」
「涼君、」
「ああ、もう! 長いよ!」
「「きゃー」」
長すぎるストレッチに涼はたまらず、振り払った。
奏と天音は嬉しそうに離れる。
「もう少し加減してくれよ」
「えーだって、涼君硬いじゃない」
「お兄ちゃんのためなんだよ」
ニコニコしている姉妹。
「楽しんでるだろ」
「バレた?」
「でも、お兄ちゃん私たちに押されてるの、結構嬉しいでしょ」
「嬉しくな、いや、やっぱ嬉しいけど」
「素直でよろしい。お兄ちゃん」
「よく言えたわね。偉いわ涼君」
2人が一緒に頭を撫でてくる。
振り払いたい気分だが、誘惑に負けてなすがままになってしまう涼。
「さ、朝ごはんの準備するね」
「ああ、頼むよ、奏」
「私も準備しようかな」
「天音はいいわ。涼君といて」
「分かった。お兄ちゃんに甘えてるね」
「なんでそうなるのよ」
「えへへ」
天音は奏が家に入った後、地べたに座っている涼の隣に腰を下ろした。
「お兄ちゃん、どんなシチュエーションで告白するか考えた?」
「ああ、あそこの花火は海に向かって打って綺麗なものがあるんだけど、雰囲気いいから、そのタイミングかな」
「おお、いいね。でもお互いを見てて、花火見れないね」
「雰囲気はいいから」
「そうだね。焼きそばとか食べちゃだめだよ」
「なんで?」
「青のりがくっついてたら、せっかくの告白も台無しだよ」
「そっか、念の為当日は何も食べない」
「あはは、それはそれで、問題だよ。お兄ちゃん」
「はは、空気ぶち壊しだな」
「じゃあ、あとは水着の準備と浴衣の準備だね」
「ああ、そうだな」
「水着と浴衣の準備は私が手伝ってあげるよ。かっこいいの選ばないとね」
「天音も奏と自分のを選ぶだろ」
「まどかさんもいるから、なんだかんだ言って抜け出して、お兄ちゃんと合流するね」
「いいのか?」
「いいよ。私もかっこいいお兄ちゃん見たいし」
「そっか、じゃあ頼むよ」
「うん」
「そろそろ中に入るか」
「うん」
3人で奏の作った朝食を食べた。
やはり、奏の朝食は美味しかった。
10時頃、家のインターホンが鳴った。
「はい」
『お兄ちゃん、きたよ』
モニターにはポニーテールにした整った顔の由佳と叔母の日野由理恵が映っている。
「今開けるよ」
涼が、扉を開けると由佳が飛び込んできた。
「お兄ちゃん、久しぶりー。会いたかったよー」
「おお、由佳。俺も会いたかったよ」
「涼君、久しぶり」
「由理恵さん、久しぶりです。さあ、入ってください」
「! お兄ちゃん、女物の靴があるんですけど」
「ああ、紹介するから、来て」
「えー、紹介されたくないよぉ」
「ほら、由佳、そんなこと言ってないで、入るわよ」
「えーん」
ふざけて駄々をこねる由佳と由理恵を連れてリビングに行く。
そこには、奏と天音が立っていた。
「うわっ! 綺麗で可愛い人が2人もいる」
「ほら、そんなこと言ってないで挨拶なさい由佳」
「ああ、紹介するよ」
まずは姉妹の方に手のひらを向けて2人を紹介する。
「こちら、同じ高校でクラスメイトの栗山奏さん。
それで、こちら妹の栗山天音ちゃん中学2年」
それから、日野母娘に手のひらを向け。
「こちらは俺の叔母で日野由理恵さんに娘の由佳ちゃん」
紹介すると、それぞれ挨拶した。
「栗山奏です。涼君のクラスメイトです」
「栗山天音です。中2です」
「涼君の叔母の日野由理恵です」
と、ここまでは順調だったのだが、由佳が自己紹介をすることになって、
「涼お兄ちゃんのいとこの由佳です。中3です」
同時に、涼の右腕に抱きついた。
「よろしくお願いしますね」
奏と天音の周りの空気はピシッと音がなったように凍りついた。
「りょ、涼君、ずいぶん仲がいいようで」
「お兄ちゃん、どうして腕を組んでるのかな?」
それを聞いた由佳が口を開いた。
「あれ、天音ちゃんもお兄ちゃんって呼んでるの?」
「え……そうですけど」
「でも、別に親戚じゃないよね」
「ない……ですけど」
「なんか、おかしくない?」
「おかしくないです! それだけお兄ちゃんとは仲がいいんです!」
「そうなのお兄ちゃん?」
「ああ、天音とはすごく仲がいいと思うよ」
「んー、そうなの。お兄ちゃんのすけこまし」
「だから、人聞きの悪いこと言うなって」
「由佳、その辺にして、座ったら。涼君、お茶入れるわね。」
「はい、お願いします。由理恵さん、俺コーヒーで」
「うふふ、分かってるわ。そちらのお二人は何がいいかしら」
「じゃあ、私もコーヒーで」
「私もコーヒーをお願いします」
「あら、みんなコーヒーなのね」
「『お兄ちゃんの影響』で、みんなコーヒーを飲むようになったんですよ」
天音が、『お兄ちゃんの影響』と言う部分をやけに強調して言う。
「ふーん、2人ともここにはよく来るんだ」
「ああ、毎日のように来てるよ。今じゃ、2人とも大切な人だよ」
涼の言葉に奏と天音が顔を赤くする。
由佳が難しい顔で言う。
「そんな2人がお兄ちゃんの身近にいてくれて、嬉しいような寂しいような複雑な気分だよ」
「ああ、ずっと友達いなかったからな、俺」
「そうだよ、私が一緒にいてあげるのが一番いいって思ってたんだから」
由理恵がコーヒーとお菓子を持って戻ってきた。
コーヒーをみんなに配りながら話す。
「そうね、由佳は涼君のことずっと心配してたもんね」
「そうだよ、お兄ちゃんと結婚してもいいって思ってたんだから」
涼と奏と天音はコーヒーを吹き出しそうになった。
「ゆ、由佳? 何冗談言ってるんだ」
「本当だよね、お母さん」
「そうねえ、確かに言ってたわ。最近も」
奏が鸚鵡返しする。
「最近も?」
「そうよ、私が支えてあげるんだって」
「そうなんですか」
「だからね、お兄ちゃん」
由佳は由理恵と顔を見合わせてから、再び涼を見る。
「うちに来て一緒に住まない?」




