進むべきか、辞めるべきか
……………
「オヤ、お久しぶりですね。『放課後ダンジョンクラブ』の皆さん。……不躾な質問かもしれませんが、ここで何者かを見かけませんでしたか?」
いつもと変わらぬ調子でDMは重吾たちにそう訊く。重吾は思わず何かを答えようとするが、それを遮るように靖穂が話す。
「妙な男が居たのが見えました。よくわからないことを口走っていたのであっけに取られていたんです」
――DMがどこまで私たちの事を見え透いているのかはわからないけれど、あからさまに嘘をついてやり過ごすのはマズいように思える……。ここはこれくらい虚実交えて……。
靖穂のその思惑が通じたのか、あるいはすべてを知って嘲笑っているのか、その微笑をたたえる表情は変動なく、彼はそのまま続ける。
「そうですか。次、少しでも妙な不審者や奇妙な現象が起きれば、稲葉さんが持つその喇叭を吹いてください。私がいつでも駆けつけるので。どうぞ遠慮なさらずに……」
そう言って彼は、くるりと壁を向くと、丁度さっきの男が入っていった壁の位置をなぞるようにその赤い手で触れた。
重吾たちはその様子を不思議そうに見つめていたが、やがてDMはそれを辞めて重吾たちの方を再び見る。
「では私はこれで……。増々のご活躍を期待しておりますよ。数日ぶりに見ただけでも、皆様ずいぶん成長されているご様子です。このままいけば巨人はあと数週間で倒されることでしょう……」
そう言って彼は微笑んだのち、DMは重吾たちにちょっと会釈してその場をそそくさとエレベーターホールの方へ飛んでいった。
嵐が過ぎ去ったような気持ちで重吾たち一行は通路に立ち尽くしていた。予期せぬ存在との接触。奇妙な情報の数々。DMの不気味な様子。靖穂と三本はこの情報を得てDMへの不信感をさらに募らせるとともに、それぞれの考えを巡らせていた。
そして、國山先生が、まず話し出す。
「……みんな、このまま私たちは巨人を倒すことを目指して……いいと思う?」
國山先生は困惑や躊躇の混ざった声色で全員の顔を見回しながらそう訊く。他の面々も顔を見合わせながら困った様子を見せている。だが、重吾だけは真っ直ぐきっぱりと話す。
「おれは目指して行こうと思う。たぶん皆はDMを疑っているんだろうが、決定的に彼がおれたちを騙していたり、おれたちを陥れるようなことをしたとかの証拠もない。おれは疑う必要はないと思っている」
それを聞いて金田も話始める。
「……俺はDMはアヤシイ様子であることには同意している……。だが、重吾の言うように決定的な証拠は何もない。むしろアヤシイのはさっきの眼帯野郎の方だと思うぜ。アイツは煮え切らない回答もいくつかあったしな」
靖穂が反論する。
「でも彼の話した内容。特に行方不明の冒険者の名前をスラスラと並べていました。彼自身が保護したという話は本当かどうかは疑わしいですが、警察が彼らの捜索を打ち切った事実を確認すれば、少なくとも一つは彼の話した情報が真実であることが証明できるはずです」
國山先生がそれに返答する。
「それに関しては明日私が確認をとってみるわ……」
金田はそれを聞きつつも靖穂に反論する。
「だがよ、その一つの真実だけでアイツを信用できるか? おれが見たところアイツ、刀を腰に吊ってたぜ。確かにDMだって妙な姿ではあるが……危なっかしいモンをちらつかせてるわけじゃねえ」
三本は言う。
「正直、僕は『モラクス』の件以降この迷宮をあまり信用してない。確かに死ぬことや怪我はないが、ルールを無視できる存在が居たり、現実世界を侵食していたり、イレギュラーが多すぎる。さっきの男だってそうだ。……なあ重吾、お前だって見ただろ?」
重吾は答える。
「……ああ。……だけど、あれはDMだって一応説明はしていただろ、対応もしていた。さっきの男に対しても彼なりに対応はしていたし、おれたちが呼ばずとも検知か何かのシステムがあるのか、勝手にやってきていただろ? 心配しすぎじゃないのか?」
三本はそう言われると困った様子を見せながら「それは……」と言いよどむ。稲葉さんがその少し後に口を開く。
「私は……。少なくともこの迷宮でみんなと一緒に活動するのは……続けたいな。……皆を危険な目に遭わせたくはないけど……。私は……」
靖穂はそれを受けて、話す。
「……次に、あの『眼帯の男』の人に遭う事があったり、また何か新たな情報が分かったら、もう一度話し合いましょう……。私は今ははっきりとDMが私たちを騙しているとか、この迷宮が危ないものだとかは結論も説得もできないと思います……」
三本も少し考えた後、頷いて言う。
「……僕も決定的な証拠もないから……。ここは、続けることに同意するよ」
その言葉を聞き、國山先生は話す。
「……みんな、続けると言う事でいいのね。……わかったわ。確かに私もDMさんには不信感を抱いてはいるけれど、それだけで彼に頼まれたことを無碍にするのもよくないわね……」
重吾と金田は深く頷いた。
そして、一行は談合を終え、通路の先を目指し、歩みを進めるのだった。
―――――
次の日、國山先生は、朝の職員会議にて、『吉瀬裕次郎』『山込翔』『海原雄』三人の警察の捜査の進展について教頭から知らされることとなる。
「ご家族は全員『保護』された。が、学校には戻らず、元の家にも戻らないそうだ……。捜査はそれで終了、それ以上の情報は個人情報に当たるため我々には通達なしだそうだ」
教頭は教員たち全員にそう通達するとそのまま通常の業務連絡に戻っていった。流石に教員たちもその奇妙な事件の顛末に様々な噂を話し合ったが、國山先生だけは先日の『眼帯の男』が語ったことを思い出して、他とは異なる驚きを得ていた。
――少なくとも……。あの『眼帯の男』は三人を殺しはしていない……と見て良さそうね……。でも、だとしたら、彼は一体何者なの……?
國山先生はその日度々、その不可解な謎に考えを巡らせるのだった。




