サプライズ
……………
「重吾君!」
國山先生の叫びとほぼ同時にラークシャサは動く。その赤い瞳は重吾を捉え、脚で地面を蹴る。
『ドガァアアアアン!』
地面を蹴り壊すほどの勢いで、ラークシャサは重吾へ飛来し彼を一撃で死亡状態に追い込んだのち、すぐにまた、地面を蹴り、天井へ飛び、天井を蹴る、破壊の音と疾風が通路に吹きすさぶ。金田はその様子に驚愕の声をあげる。
「早いッ!?」
『ドガァァッ!』
重吾より少々離れた位置にいた金田は、瞬く間にラークシャサの攻撃によって倒れた。
――異常に速い……!? まさか、ステータス上昇?
すぐに稲葉さんはステータスを参照。
ラークシャサ HP130/3500
・|戦闘点《BATTLE POINT》:1420+4000 5420
・|知力点《INTELLIGENCE POINT》:550-200 300
・|感知点《SENSE POINT》:1004
・|予知点《PRECOGNITION POINT》:700+200 900
・|技能点《TECHNIC POINT》:1000
『炎の舞踏』を使用する。
――知力点が下がる代わりに予知と戦闘が上昇……。これじゃあ私には対応は無理……!
稲葉さんの絶望と共に、ラークシャサは次なる標的として稲葉さんを見る。しかし、彼女の諦めを覚ったのか、あるいは何かを予期したのか、その青き鬼は次なる標的を後衛組に変更した。
――私は……。やっぱり……!
稲葉さんは膝をつき、後衛組に向かうラークシャサの様子を見る。敵は一直線に靖穂へ攻撃の手を伸ばす。だが、その間に入るように國山先生が身を挺し靖穂を守り、倒れる。同時に三本の電撃が、ラークシャサへ放たれる。
『ヴァリヴァリヴァリィッ!』
ラークシャサは舞踊の如きしなやかな動きで予知していた電撃の軌道をかわし、そのまま三本の元へと向かっていく。靖穂は、その中でも呪文の詠唱を続け、戦いを続ける姿勢を貫いていた。
稲葉さんはその光景を目の当たりにして、歯を食いしばり、立ち上がる。
――とにかく、向かう。走って、蹴って……。とにかく貢献する!
駆けだした彼女の動きは今までのしがらみを抜き去るように軽やかに、筋肉の力みと動きが意識されたものとなっていた。三本への攻撃に向かうラークシャサは背後で迫る稲葉さんの動きを察知。靖穂の魔術への警戒もあり、三本への攻撃を中断する動きを見せ始めるが、三本は近づいてきた敵をみすみす逃しはしなかった。
『ガシッ!』
――僕の魔術はこいつの攻撃には間に合わない。なら僕は今、捨て駒としての役目を全うする!
ラークシャサにとってその行動はとるに足らない存在による想定内の行動。振り払う必要すらなく、簡単に振りほどける。だが、稲葉さんの動きは違った。
『ヒュオッ!』
稲葉さんは振り向くラークシャサに振りまわされる三本の身体を掴み、それを台としてラークシャサに蹴りを振り下ろす。ラークシャサはその攻撃を避けるが、同時に発射された靖穂の魔術に対しての回避がもつれる。靖穂が放った魔術結合はラークシャサの脇腹をかすめて触れ、3500ダメージを与えて、その悪鬼を消滅させた。
『ドサッ』
「うぐっ」
三本が床に落ちてうめく、稲葉さんも近くの床に着地する。華麗な着地の反面、彼女は詰まらせていた息が回復し、少々息切れをしていた。
「はぁ……はぁ……。動けた……」
稲葉さんは感慨深くそう呟き、周囲の様子に気づいたように、近くに寝そべっている三本を見て、慌てた様子で話す。
「あ、三本君、さっきは台にしてごめんね。大丈夫?」
「あ、ああ、僕は大丈夫。結局、僕は無傷だったから。今の落下はちょっと痛かったけど」
三本は笑って立ち上がる。重吾ら死亡状態となった面々もすぐに靖穂による復活魔術が行われた。
―――――
「良かった。こんなすぐに効果が出るなんてな……。この調子でどんどん慣れていこうぜ」
復活した重吾は稲葉さんから久しぶりに思うように体が動かせたことを聞き、そう言って喜んだ。三本がその様子を見ながら、思い出して言う。
「やっぱり、なんか、思うように動けるようになると変わってくるんだなって見てて思ったよ。あのラークシャサの動きについて行けそうなぐらいの勢いだったぜ、さっきの稲葉さんは」
國山先生の復活を終えた靖穂も同調する。
「筋肉とか力の入れ方とか、運動は意識して行うと成果はかなり変わるとも聞きますからね。ウチの強豪陸上部でトップだった稲葉ちゃんは、この迷宮でもやっぱりすごい動きでした」
重吾はそれを嬉しそうに頷きながら言う。
「えー。おれも見たかったなー。まあ、後で見れるからいっか……。んじゃあ次の戦闘に行こうぜー」
彼は通路の先を見やる。その時、突然三本も重吾と同じ方向を驚いたように見た。三本はその感知能力で察知したのだ、今までに味わったことのない規模の強力な魔力を。
重吾の目には通路の先の壁に奇妙な点が映った。彼はふと、そこの違和感を覚える点に目を凝らす。
そこには人の頭があった。
そして、その頭は、壁の中から首、そしてスーツに包まれた胴、身体がぬるりと現れる。それは壁を通り抜けるスーツの男だった。
そして、重吾は気づく。
その男の顔は彼の方を最初から見定めていたのだ。
――『黒服の男』、『壁抜け』……『冒険者の行方不明』……!
その刹那、重吾は学ランの内ポケットにある小ぶりなラッパの存在を思い出す。
『何か非常事態となればこちらの『ラッパ』をお吹きください。私が駆けつけます』
――DMは確か、そう言っていた。これは……。『非常事態』だよな?
そう考えて内ポケットを探りだす重吾に対して三本は言う。
「重吾、待ってくれ。一旦……『確認』したいんだ」




