21の監視者
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天使を倒した後、重吾たちは帰宅時間が迫っていたため、そのまま通路を引き返してエントランスへと戻った。エントランスには今日もDMの姿はなく、例の『ヘリオス・スリー』の失踪と『壁抜けの男』の噂からエントランスを行き交う冒険者の数も心なしか減っているように思われた。
そして、國山先生はそこで掲示板を確認し、未だに『ヘリオス・スリー』の三人が見つかったなどの情報もなく、何の進展もない事に肩を落とした。
一行は出口に向かう他の冒険者に紛れて迷宮を後にする。クラブの中で上機嫌な様子を見せるのは重吾一人で、他の者は迷宮やDMへの疑念から考えにふける靖穂や三本、疲れた顔を見せる國山先生、少々不満げな表情を見せる金田、そして自らの失態に反省する稲葉さんといった具合に浮かない様子を見せていた。
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靖穂は帰宅後、自室で迷宮第五層にて撮った『壁画の写真』を画像の文字認識機能を利用して、検索していた。彼女はまず、壁画の21の単語の頂点に示されていた単語を調べる。
――『シェムハザ』あるいは『セムヤザ』……?
アラム語として示されるその言葉は名前であった。旧約聖書外典『エノク書』に残る堕天使『監視者たち』の長の名前。その他20の刻まれた文字も全て名前がわかってる『監視者たち』の天使たちの名前だった。
靖穂は今日、第五層で出会った『天使』の記憶、そして今までの各層の『壁画』の事からそれら天使たちの情報について調査を進める。
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神は監視者たちらを人間たちを監視するために派遣した。だが、監視者たちらは任を離れ、気に入った人間の女を妻として迎え、自らが持つ神々の知識を与えた。
監視者たちと人間の女たちの子供は「巨人」として生まれ、その自然の理を超えた存在はあらゆる生き物を食らい続け、巨体を肥え太らせ大きさを増していった。そして、「巨人」は人間を食らい、果てにはおなじ「巨人」を食らった。
摂理を捻じ曲げ、任を忘れ、欲望に走った監視者たちの蛮行は天界の四体の大天使の目に入った。
ミカエル、ウリエル、ラファエル、ガブリエルらは神に直訴し、シェムハザと監視者たちを告発した。その直訴は受け入れられ、四体の大天使は、監視者たちを罰するために天界より地上へと遣わされた。
シェムハザと監視者たちは大天使たちによって捕らえられ、暗い地の底で永劫の罰を課せられ、地上に満ちた巨人たちは以後に起こる大洪水によって姿を消し去ることとなるのだった。
※※※※※
靖穂はその物語のあらましをインターネットの情報から得た後、『巨人』や『天使』の要素に関して迷宮の事との関連性を思い至る。
――『巨人』というのはまさか……。いや、でも『討伐』しろとDMは言っていた。『悪霊』に関してもあの場所に閉じ込めている様子だったし……。DMの正体は一体……?
思考を巡らせる中で、部屋の扉をノックする音が響く。
「おーい、飯だぞ」
重吾の声。靖穂は「はーい」と返事をしながら、重吾の事にも考えを巡らす。
――兄貴はあの迷宮のことを明らかにゲームとして楽しんでいる……。それは、以前までは他の人もそうだったけど……。今は皆危機感を覚え始めている。だけれど、危機感を覚えたところで、あの迷宮が存在することも、いずれ攻略されることも変わらないように思える。
――だったら、いっそのこと、楽しんで攻略してしまう方が……。
靖穂は首を振る。
――いや、冒険者に対して止めるように説得することもできる。冒険者の自治会の会合でそうした議題を出すこともできる。実害が出る前ならいざ知らず、もう既に、いなくなった人が居る……。居なくなった人……。そう言えば失踪した『吉瀬』さんたちの家族の人たちはどうしているのだろう……。明日先生にでも訊いてみようかな……。
「おい、早く来ないと覚めるぞ」
扉をガンガンと叩き、重吾が言う。靖穂はハッと我に返ってすぐに机を立ち、夕飯の食卓へと向かうのだった。
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「親族まで行方不明!?」
職員会議にて、國山先生は教頭の発した情報を驚いてそのまま反復してしまう。他の教師陣も同じような反応をしている。教頭は怪訝な顔をしながら、ぼそぼそと、しかし動揺を隠せずに情報を述べる。
「私も何度も確認した……。だが、警察は『吉瀬裕次郎』『山込翔』『海原雄』全員の家へ連絡したがつながらず、それぞれ家宅捜索を行ったが、もぬけの殻……。全員もれなく失踪していたとのことだ……。学籍も行方不明として扱えと」
教師陣はどよめきたち、それぞれが恐怖や不安。果ては昨今の災害や事件の多さから陰謀めいた噂を口にする者まで居た。
「警察もここ最近の事件の多さから人手不足らしい……」
「失踪事件が多くて、最近知人も……」
「三家族が一度に消えるなんてあり得るのか……」
「最近は災害続きだが、人が消える事件まで……」
「繁華街でビルをまたぐ人の影とかが……」
「黒服の組織が関係してるんだ、人の戸籍まで消すらしい……」
教頭はうんざりした様子で声を張る。
「混乱は分かるが……我々の業務は変わらん。松山先生、生徒の学籍の行方不明手続きをお願いします」
教頭が資料を行方不明の三人の担任に渡し、他の少々の議題を述べた後、職員会議は終わった。だが、教師たちの恐怖心とそこから沸き立つ噂話はその日、留まることはなかった。同じく生徒たち、また、『冒険者たち』にもその恐怖と疑念はあり、様々な噂が学校内外で飛び交っていた。




