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引き裂かれた手

     ……………


 冒険者の円卓会議が盛り上がっている中、第三層のエレベーターホールに昇ってくる三人の冒険者……。【デスクロウズ】の『皿間』『イマ』『ジャム』が今しがた第二層のボス『ムルムル』を倒し、第三層にやって来たのだった。

 階段を登りきると、そそくさと帰る『イマ』と『ジャム』の二人を、皿間が呼び止める。

 

 「おい、お前ら……。話がある」


 イマは振り返り、そのパーカーのフードに隠した顔を皿間へ向ける。ジャムもサングラスの中の瞳を皿間へ向ける。薄暗いダンジョンの通路でさえも彼は深い色のサングラスを外すことはない。

 皿間は彼らに近づき、密やかに話しはじめる。


 「お前ら……そろそろ俺達【デスクロウズ】をここから追い出そうとする『冒険者自治会』が動くってのは知ってるよな?」


 ジャムは答える。


 「ああ、江馬君が対処するって言ってた……」


 「そうだ。奴は俺を介して何人かのサクラを雇っている。金や利害関係の一致で会議を引き延ばし、こちらに有利なルールを施行させる役目だ……。だが、どのみち俺らは対処される。既に【デスクロウズ】の悪評は広く知れ渡っているからな……。第三層に進出できるほど俺らは強くなった、が、ランキングトップではない……。トップ勢を含めた冒険者の大半が結託すれば、形勢不利さ」


 イマはフードの影からその大きな瞳を皿間の顔に向ける。皿間は軽々とした口調でありながら、真剣な表情で言葉を紡ぎ出していた。


 「そこでだ、俺は外に戻ることを提案する」


 イマは特にそれに驚く様子もなくそれを聞いてた。だが、ジャムは血相を変えて驚き、思わず大声で反応した。


 「外だって!?」


 「馬鹿野郎、声がデカい……。ああ、外だ。既に俺は手を打っている……。上手くいけば今よりずっと稼ぎもよく、いい場所で過ごせる……。こんなしみったれた場所じゃねえ、ちゃんとしたシャバでな」


 ジャムは心配そうに答える。


 「で、でもよ。外は『組』の連中が張ってるんじゃねえのか……?」


 ――小心者が……。だが、そう言う意味では御しやすい……。だからこそ、俺に忠誠のあるイマの他に、コイツを選んだ……。

 皿間はそう考えながら、ジャムに説明する。


 「だから、俺が手を打ったって言ってるだろ? 安心しろ、俺についてくりゃ、絶対に『組』に襲われることはねえ……。だが、このことはまだ、俺たちだけが知るべきことだ……他の奴らには話すな」


 「ど、どうしてだよ」


 「お前らには、やってもらいたい『仕事』があるンだよ」


 そう言って皿間はイマとジャムの肩に手を回し、更に小声で計画を打ち明けるのだった。その声は第三層のホールから漏れ出ることはなく、闇の中に沈殿し、三人の記憶の中にのみ留められることとなる。


     ―――――


 エントランスホールでは重吾ら放課後ダンジョンクラブの面々が渡瀬さんを交えて話し合いが行われていた。彼らはまず不安気な渡瀬さんの話を聞く。

 

 「その……漣……矢本のことなんだけど……。今は彼、私とは組んでなくて……」


 稲葉さんは何かを察するように訊く。

 

 「何か……。ケンカでもあったの……?」


 渡瀬さんは微妙な表情で答える。


 「けんか……って言えるほどでも、ないのかな……。私……。私、少し前に漣と千歳と三人で第三層の敵と戦ったんだけど……。そのとき、あいつが妙に焦ってて……。前から気づいてはいたんだ、あいつ、元々負けず嫌いで、無理をする節があって……。あなたたちが元に戻って、ランキングを上げるのをみて、それが過度になってきてた。それもあって、私は漣に今までの無茶も含めて指摘した……」


 三本は訊く。


 「それで……あいつは怒って……?」


 渡瀬さんは首を振る。


 「『わかった』って言って……それっきり。千歳とはそれ以降も組んでいるようだけど……。でも、それ以外にも組んでいる人の噂を聴いてさ……」


 渡瀬さんの瞳の不安気な揺れが強くなる。靖穂はその話と様子、そして先ほどの会議での矢本の立ち振る舞いから、荒唐無稽にも思える出来事を想起する。


 「まさか、【デスクロウズ】と……?」


 靖穂のその呟きに、渡瀬さんは答える。


 「正確には分からない。ただ、『冒険者狩り』をしているという話の中に、よく似た二人組の情報が出ていることがあったの……顔は流石に隠して、服も変えていたみたいだけれど、服装の特徴は私の知っている漣だった。体格とかも……。それに、千歳とは少し話す機会もあって……。何か、彼も彼なりに思うところがあるみたいで、直接言いはしないのだけれど……」


 渡瀬さんは拳を握る。


 「私……何度も漣に直接聞こうとしたんだけれど……。彼ははぐらかしてばかりで、避けられてる。……お節介で、彼にとっては邪魔でしかないかもしれないけど……。でも、このまま、あいつが……。千歳や、他の皆を巻き込んで、何か間違った、大きな失敗を……してしまうんじゃないかって……」

 

 声が震える。


 「あいつ……。昔から、何かで一番になろうとして……。誰かに見てもらおうとして……。それがへたくそで……。でも、私は……。私は見ていたのに……」


 三本はその話を聞き、矢本に自身を重ねて考えていた。

 ――お前も……。僕と同じ……。いや、それ以上に……。

 

 渡瀬さんの話を聞き終え、重吾は彼女の前に出て、決意した様子で言う。

 

 「……おれたちが矢本を探して直接話を聴く」


 「……え? っでも……」


 渡瀬さんは重吾を見る。重吾は頷いたのち、三本を見て言う。


 「友達の友達がマズいことになってんだ。行くさ。……会議の事もあるしな」


 三本は答える。


 「僕としても、アイツに思うところはある。言わなきゃと思う事も……。だが、【デスクロウズ】がもしも出張ってきたら……どうするつもりだ?」


 重吾は笑う。


 「一緒に倒す……! そんだけだ」


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