拡がる死の爪
……………
「うああああああ!?」
重吾はそのステータスからは想像しがたい高ダメージに驚きつつ、自身の身に起こったことにも困惑して叫んでいた。
重吾は、それでもエルフィンナイトから距離を取るよりも攻撃を仕掛ける方が得策と判断し、飛び退く距離を抑える。
ゆらりと緩急のある動きをする騎士はその冷たい瞳を重吾に定めながら、剣を両手で握り、振り上げる。
だがその行動は、後ろから攻撃を行う金田に、剣をぶつけるための物だった。
「ぬがっ!?」
突然後ろに振り下ろされた剣に金田は右肩を切られ13のダメージを受ける。タックルの動きも殺されたが、金田は構わず騎士にバットで殴りかかる。
同時に重吾もエルフィンナイトの銀の鎧の隙間に、自らの突きを差し込もうと距離を詰める。
だが、重吾は騎士の口元が何か動くのを見る。
――魔術か!?
金田のホールドが極まる寸前、重吾は後ろに飛びのこうと動くが、一陣の風が、重吾の胸にぶつかる。
『ドガッ!』
重吾は後ろに押される、ダメージは10。そこそこの威力。
金田も同時に強い風による圧力で10のダメージを負いながら吹き飛ばされる。エルフィンナイトはバットの452ダメージをものともせず、剣を体の前にもたげる。
かの騎士はそのまま次なる魔術攻撃を用意すべく、声にならない呪文を口ずさみ始める……。が、彼の死角から魔術的結合が飛んで来る。
「!?ッ」
エルフィンナイトは驚きその結合の方を見る。それは反転防護魔術であり、結合の紐は大きく湾曲、その先を騎士が目をその先へと走らせる――
『ドガッ!』
「……!」
騎士は300のダメージを負う。彼がその重い一撃によって鎧が崩れる中、振り向く……が、その前にもう一撃、291のダメージ。攻撃の主は國山先生。その予知能力によりエルフィンナイトの行動を予見、魔術結合によるブラフを利用し弱体化した悪霊に強力な一撃を与えた。
國山先生は二撃目を加えた後、後ろへ逃走。あまり走るに向かない靴と服であるが強力な一撃による怯みでエルフィンナイトは追撃には時間がかかった。やっと動き出し、國山先生へと走って向かう。そして、國山先生は唐突に振り向く。
エルフィンナイトはそこへ向け剣を振り上げる。だが、その剣を振り下ろしながら呪文を口ずさむ中、彼女の背後から飛び出そうとする重吾、そして後ろから迫りくる金田を察知する。すぐにそれに対応しようとするが、國山先生は迷いなくエルフィンナイトへ攻撃を仕掛ける。
これによりエルフィンナイトは、その剣を振り下ろそうとも、振り下ろさず他の二人に対処しても、致命的な打撃を受けることとなる。
刹那、銀の剣は重吾へ向けられる。
一撃必殺を恐れたか。
だが、金田のタックルは反転防護術に蝕まれ、鎧も破損した騎士にはあまりにも強烈。689のダメージ。
エルフィンナイトの剣は重吾の眉間に突き付けられ、彼に13のダメージを与えて死亡状態にしたのち、消滅した。
『ドサッ』
重吾が床に倒れる中、國山先生も疲れからか、へたり込む。彼女の目にはレベルアップの表示と復活魔術の習得が示されていた。
金田もその場に座り込み息をつく。
そして、稲葉さんは通路の奥で一人、その様子をただ見ていた。自分の動かなかった足の震えを呪いながら……。
―――――
全滅しかけながらも全員で何とか第三層を脱し、そのままなだれ込むように帰路についた一行はその日、全員が強い疲労感を覚え、熟睡した。
翌日、いつものように変わらぬ学校生活を終え、放課後に迷宮のエントランスへ入った一行には、掲示板が掲げられる場所がまず目についた。そこには何人かの人が集まっている。重吾がそれに興味を示して、掲示板の内容を見るべく人ごみに割って入った。
そこには冒険者順位が掲げられていた。
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個人ランキング
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1位 伏見重吾 Lv39
2位 三本健 Lv44
3位 金田修 Lv40
4位 伏見靖穂 Lv38
5位 國山千秋 Lv39
6位 稲葉南 Lv39
7位 矢本漣 Lv44
8位 千歳実巳 Lv43
9位 渡瀬桜 Lv40
―――――――――
――矢本くんの仲間……レベルは上がってるけど順位が上がってないな……。
重吾はそれを見た後、周囲を見る。すると周りの一部の人は掲示板の別の場所に注視していた。彼はその目線を辿り、掲示板の個人ランキング、パーティランキング、説明等のコーナーの隣……。以前までは空きスペースだった場所に目を向けた。
そこには無数の張り紙がされていた。
『第二層にて【デスクロウズ】目撃!! 財布、2万円窃盗!』『第二層東で【デスクロウズ】 突然、覆面の二人組に襲われ死亡後、放置。幸い盗まれたものはありませんでした。』『【デスクロウズ】第一層東奥に向かう中で集団に囲まれました、その時の似顔絵です。』『【デスクロウズ】被害、二層で頻発! 上位冒険者の方、助けてください!』『傭兵依頼! 第二層で【デスクロウズ】から守って! 安全なレベルアップを』
「これは……」
パーティ名や冒険者名が掛れたその張り紙のほとんどは【デスクロウズ】と書かれ、被害報告が為されていた。悪質かつ犯罪的な冒険者狩り集団は迷宮の第二層、戦い慣れたであろう冒険者や傭兵に頼るものにさえその牙を向け、蝕んでいたのだった。
「ふーむ」と悩まし気にそれを見る重吾の隣に、國山先生が現れて、掲示板をしばらく見て、何かを決心したように言う。
「重吾君……それに、皆にも、ちょっとこの状況に対して私たちがしなきゃいけない事を前々から考えてて……。皆に聞いてもらいたいのだけれど」
重吾たちは國山先生のそのどこか確信めいたものを帯びた言葉を聞き、人ごみを離れてエントランスの端で、話し合うのだった。




