レベルアップ! もんすたあさぷらいずどゆう
……………
冒険者一行はダンジョンマスターが見守る中、二体の『幽霊』と戦っていた。
重吾が幽霊の放った黒く禍々しい球にぶつかる。
「……くっ……!」
10の表示と共に重吾のステータス、状態欄に『呪い』の表示が現れる。
高所から悠然と眺めているダンジョンマスターが解説を挟む。
「それは『呪い』状態です。持続性のある『呪い』属性攻撃を受けた場合、定期的にダメージを受け続ける状態になるのです……レベルアップでその『呪い』の正体もわかるようになるので、まずはご健闘ください」
その説明の中、稲葉さんは走り、重吾に呪いを送り隙を見せた半透明の『幽霊』に上段回し蹴りを放つ。しっかりとした体幹から放たれる鋭い蹴りは20のダメージを与え、幽霊をよろめかせた。
続けざまに三本がよろめく幽霊に向かう。そうさせまいともう一体の幽霊が三本に向け呪いを飛ばそうと念じ始める。
だが、靖穂がそれを見逃さなかった。
「兄貴、こっちに! 先生は三本君を!」
そう言いながら靖穂は呪いを準備する幽霊を後ろからホールドし、首元と思しき部分に持っていた、はさみを刺す。
14のダメージが表示される。
重吾はもがこうとする靖穂が捕まえた幽霊にに対してボディーブローの後、顎を狙った殴りを何度も入れる。11、17、10のダメージが表示され、幽霊は消滅する。
それと並行して、國山先生は、三本が蹴りを入れ13ダメージを与えた幽霊に対し二発ビンタを入れる。7、9とダメージが表示される。
だが、幽霊は三発目のビンタを避け、後ろからホールドを狙って構え始めた三本に呪いを放つ。
「うおおっ!?」
先生が叫ぶ。
「三本君!」
幽霊は振り返り、國山先生へ呪を放とうと念じ始める。
そのとき、横から、稲葉さんは飛び蹴りを入れ17のダメージを与えた!
幽霊は音もなく消え去り、戦闘が終わる。
『レベルアップ!』
全員の眼前にその文字が浮かび上がる。
ダンジョンマスターが拍手と共ににこやかな笑みを向け、話始める。
「お見事です。レベルが上がりあなた達の能力も全て上昇しているでしょう……」
各々は肩で息を切らしながら、それを聞く。
重吾が質問する。
「ハァ……ハァ……なんだってこんなに……おれは呪いが掛っているとはいえ……他の奴も……」
「皆さん、MPをご参照ください」
『!』
各々は自らのステータスを表示。そこに表示されているMPは最大値こそ、それぞれ20ほど上がってはいるが、現在値は3や2となっている。
靖穂はダンジョンマスターに訊く。
「……MPは自然に減るってこと? ……それが私たちの、体力に関連していると……?」
「お察しの通り、この迷宮での活動限界という事です。激しい動きや『魔術』を行う事で大きく消費してゆきます。……この場所はそれだけ、あなた達にとって異質な世界なのです。まあ、あとレベルを2,3上げれば数十回の戦闘や数回の魔術にも耐えられるでしょう……」
説明を聞く中、三本は重吾の身体に黒々としつつも透明な紐が巻き付いているのに気づく。その紐は、禍々しい黒の色を放っている、三本はそれに目を凝らす、彼の目にはその紐が漢字とカタカナの文字の羅列として映る。何か、意味を持った、怒りや不満の混ざった言葉や呪文のようなものが混ざった文章だという事を理解する。
「な、重吾……どうした、その……文字? の紐……」
「ええ? 紐? おれには黒い靄のエフェクトしか見えんが……? みんなもそうじゃないのか?」
國山先生や稲葉さん、靖穂も頷く。
ダンジョンマスターが三本へ目を向け、じっくりと見ながら語りだす。
「三本さんは|感知点《SENSE POINT》が他の人より伸びが良いようですね。既に25……先程、重吾さんが受けられた『呪い』の正体もハッキリと見えているご様子。この紐が『呪い』そして『魔術』の正体【魔術的結合】でございます」
ダンジョンマスターはそう言い、重吾に纏わりつく黒い光を放つ透明な文字による紐を手で触れる。手に触れた部分の文字が書き換わり、光は白い輝きへと変わってゆき、文字自体が崩れ去っていく。
「このように、『呪い』はこの紐の情報を書き換えることで解除することができるのです、この紐が見えない人には解除することはできないのでご注意を……基本的に強い悪霊は簡単には見えない攻撃や呪いを行いますので『感知』の力は重要ですよ……」
重吾は笑う。
「どうやら三本はこっちでも秀才という事らしいな」
「靖穂さんが居る前で秀才と呼ばれてもな」
三本は笑いながらそう言う。
ダンジョンマスターは説明を続ける。
「他にも|予知点《PRECOGNITION POINT》は相手の方が多い場合、攻撃が全て避けられてしまうので重要な項目です。稲葉さんや重吾さんは比較的高い傾向がありますね。勿論他のステータスも重要なものですが……」
ダンジョンマスターは手招きしながら、重吾たちが入って来た入り口の方へ飛行し始める。ダンジョンの奥は暗く、果てが見えない。
「流石に皆さんお疲れのようですので、入り口までご案内します。立てない方はいらっしゃいませんか?」
一行は立ち上がり、入口へと戻っていく。元の世界には来た時の穴に入るだけで戻れた。