放課後ダンジョンの傭兵
……………
彼らは真っ直ぐとこちらへ来て、偶々気づいた重吾、そして感知能力によって気付いた三本に対して、微笑み、一人の男が代表して口を開く。彼は冬服ブレザーの学生服をかっちりと着こなし、柔らかなストレートヘアを中分にしている。
「どうも、『放課後ダンジョンクラブ』の皆さん」
クラブの面々は困惑した様子を見せるが、唯一、三本が冷静に彼を見て言う。
「矢本漣……さっきの掲示板に乗っていた三位の男だ。極東高校二年生のテストで毎回見る名前だ」
「毎回二位……と言わないお心遣い感謝するよ、毎回一位の三本健君」
彼はニヤリと笑い三本を見る。三本の眼鏡越しの眼光は矢本を胡散臭そうに見ている。重吾はそんな矢本に話を伺う。
「初めまして……かな? おれはあのランキングの」
「二位の重吾君だろ。大丈夫、ランキング上位10位まではいつも把握している。あれは一時間おきに自動的に更新されるみたいでね。着々と自分たちの順位が上がるのを見ていたら君たちの名前もステータスも覚えてしまったんだよ。最上位パーティの『放課後ダンジョンクラブ』さん」
「そうか」と頷く重吾の隣、腕組をして黙って聞いていた金田が話に入る。
「で、アンタら何の用だ。まさか、また宣戦布告じゃねえだろうな」
矢本は髪を手で少し撫でつけながら言う。
「ふふふ……。君たちあの『ビブリオバトラーズ』を退けたってね。13人パーティなんて中々いないんだから大したものだよ。まあ、僕たちは彼らとは正反対さ」
稲葉さんが訊く。
「正反対?」
矢本は頷く。
「そうさ。僕たちは、パーティを分割し、それぞれ別に動くことでレベル上げをしてゆき、時には他パーティと協力する『傭兵』なんだ。ボス攻略や、最初に上層階を動く際はこの三人で協力して動く。効率的なレベリングと攻略を主軸にやってるメンバーだ。『冒険者狩り』はしない、安心してくれ」
金田が右眉を吊り上げて言う。
「じゃあ何しに来たんだよ、冷やかしか?」
矢本の隣に立っていた男が金田を見る。
彼は制服の上着を脱いだ緩いネクタイとズボンから一部はみ出たシャツのだらしのない格好で、固い髪質を短髪に切りそろえている。顔については金田とは対照的に眉がハの字に上がっている余裕というよりもだらけた表情をしており、その顔や格好と同様、気の抜けた声で話す。
「俺等は用もねえのに話しかけねェよ。黙って聞いてろー」
――コイツが恐らく、ランキング7位の『千歳実巳』か……。
金田はそう考えながら呆れた様子で答える。
「フン……じゃあサッサとしてくれ」
千歳はまだ煽りを入れようとするが、それを静止するかのように矢本が口を開く。
「どうやら忙しいようだ。手短に言おう。僕たち『傭兵』は仲間を求めている。僕たちと同じように『他パーティを渡り歩くレベリング』をして、僕たちの様に手早く、上位に昇りつめ、一番に迷宮攻略目指す仲間……。どうだい、そんな堅実なプレイングよりも効率重視のこっちに来る人はいないかい?」
重吾たちクラブの面々は黙って顔を見合わせているが申し出を受ける者はいない。それを受けて矢本はさっきと一切変わらぬ調子で喋る。
「……どうやら、今はいないようだね。僕たちは君たちのような個人ランキング上位の人たちをいつでも募集している。このエントランスでよく『傭兵』としてパーティに協力しているから、興味があったら僕たちの誰かに声をかけてくれよ。勿論『傭兵依頼』も募集してるからね」
矢本が話し終えると目線を隣にいる千歳に一瞬向ける。千歳はそれに気づいてか気づかずか一言申し添える。
「俺等は今日、三層へ上がる。……へへへ。お前らと決定的な大差をつけることになるぜー」
そう言って矢本と他の二人は人ごみに消えて行った。
金田はため息をつきながら言う。
「結局ただの宣伝か」
重吾がなだめるような調子で答える。
「まあまあ……。こういうやり方もあるってコトを学べただろ。『傭兵』ねえ……。確かに個人のレベル上げの効率は高そうだ」
三本が思いつめた表情でつぶやく。
「効率的……」
國山先生が三本を見て心配そうに言う。
「三本君、最近疲れてるようだけど大丈夫?」
「……いえ。大丈夫です。少し勉強で疲れてるだけでしょう……。いい息抜きになってますよ……」
そう答えた三本の表情は、しかし、思いつめた様子のままであった。
―――――
人ごみの中、矢本に対してさっきまで隣に立っていた女子が話しかける。茶髪に制服を着崩し、スカートの丈も少し短めに履いている彼女は矢本と同じく『傭兵』としてレベリングをしている渡瀬桜である。
「漣、あれでよかったの? わざわざレベリングのための時間まで割いてやることだった?」
同じく先程隣に立っていた、気の抜けた表情の男、千歳実巳も同調する。
「時間の無駄だったとしか思えねえよ、俺ァ……。まあ、何でもいいんだけどよ」
矢本はニヤリと笑った表情で答える。
「大丈夫さ。彼ならきっとこっちに来る。僕と同じ負けず嫌いなのは僕はよく知っているからね……」
三人はその少し後、三者バラバラの方向へと歩き、バラバラのパーティと合流して薄暗い迷宮の通路へと入っていった。
―――――
第二層にて、重吾たちクラブの面々は迷宮の地図埋めの為に通路を歩き回っていた。
金田は手に持った金属バットを杖の様に持ちながら、二層の高い天井を仰ぎ見て、つまらない表情をして口を開く。
「なあ、もう、ボスの居場所の見当はついてるだろ……。地図埋めなんてしなくていいんじゃねえのか。宝があるわけでもねえんだからよ」
重吾が反論する。
「まあ、必要はないが、レベル上げのついでにこういう目的があった方が良いだろ。それに地図が埋まっていないと気持ち悪いもんな。なあ健?」
三本が答える。
「ああ。穴あきの地図ほど気分の悪いものはない」
金田は興味なさげに言う。
「そうか……。効率的とは言えんが、まあ満足できるのならいいんじゃねえか」
國山先生がその言葉に口を開く。
「効率的……ね。まあ、私たちは成り行きでここに来てしまって『巨人』を倒す事を目指しているだけ……ランキングも報酬もあまり関係はなかったわね」
重吾は笑う。
「おれはただ楽しそうだったから二つ返事でオッケーしたからねえ……。ゆったりやっていこうぜ」
その言葉に三本は深く考え込むような様子を見せる。國山先生はその様子に感づき、声をかけようとする。
だが、國山先生は予知により、敵の接近を悟る。
「正面から……魔術が来る!」
石畳の通路の果て、暗闇より、無数の光り輝くつぶてが重吾たちに飛び掛かってくる!




