突撃! 隣の婚約破棄
みなさんどうもこんにちは。
『突撃! 隣の婚約破棄』のお時間がやってまいりました。
リポーターのヨネーケです。
本日私が訪れているのは、ここ、ニャッポリート王国でございます。
いやあ、緑が豊かで、本当にいいところですねー。
それでは早速行ってみましょう。
おお、これまた随分ご立派なお屋敷ですねぇ。
さぞかし名のある貴族のお家に違いありませんよ。
おやおや、どうやらお庭でホームパーティーの真っ最中みたいですね。
ちょっと覗いてみましょうか。
「オリヴィア、ただ今をもって、君との婚約を破棄する!」
「そ、そんな!?」
あー、やってるやってる。
案の定婚約破棄が繰り広げられてますよ。
すいませーん、お取込み中失礼します。
「む? なんだ貴様は。どこかで見た顔だな……」
いやー、これは恐縮です。
『突撃! 隣の婚約破棄』、リポーターのヨネーケです。
「き、貴様があの!? ええい、今は忙しいんだ! 帰ってくれ!」
まあまあそう仰らずに。
少しだけお話を伺ったら帰りますから。
「クッ、ほ、本当に少しだけだぞッ!」
へへ、ありがとうございます。
こちらのさっきから居丈高な方は、侯爵令息のデニスさんと仰るんだそうです。
そしてデニスさんに突然婚約破棄されてしまった可哀想なお嬢さんは、伯爵令嬢のオリヴィアさん。
いやぁ、随分とお綺麗な方じゃありませんか。
私だったらこんな美人が婚約者だったら、絶対婚約破棄なんかしないけどなぁ。
そしてデニスさんにしなだれかかっているピンクブロンドのゆるふわ女子は、男爵令嬢のレイチェルさん。
なんでもデニスさんは、オリヴィアさんがレイチェルさんに嫌がらせをしていることを理由に、婚約を破棄することにしたんだそうです。
なんというか、典型的な婚約破棄現場って感じですよね。
あ、ところでオリヴィアさん。
「は、はい?」
今日はホームパーティーということで、とても美味しそうなお料理が並んでますけど、私もご相伴にあずかってもよろしいですかね?
「あ、はい、それはもちろん」
いやあ、ありがとうございます。
おや、こちらのお料理はなんというんです?
「ああ、それは味噌ピーナッツです」
味噌ピーナッツ?
「はい、加熱したピーナッツに甘めの味噌を絡めたもので、この辺の郷土料理なんです」
へー、ピーナッツに味噌をねえ。
これは初めて見たなぁ。
いただきます。
――んん! こりゃ美味い!
このとろりとした甘い味噌が、実にピーナッツによく合いますねえ。
「ふふ、ありがとうございます。これ、私が作ったんです」
なんと、オリヴィアさんの手作りでしたか。
いやあ、オリヴィアさんは絶対いいお嫁さんになれますよ。
「……でも、もう婚約破棄されてしまいましたけどね」
あ、確かにそうですね……。
「オイ、そろそろいいか!? こっちは大事な婚約破棄の最中なんだよ!」
ああ、どうもすいません。
私に遠慮せず続けてください。
「フン! オリヴィア、君は今日遂に、レイチェルの大事にしているルビーのネックレスまで盗んだそうだな! これは立派な犯罪だぞッ! 貴族の端くれとして恥ずかしくないのか!」
「そんな! 誤解です! 私は神に誓って、盗みなどしておりません!」
「でもぉ、ネックレスは私とオリヴィアさんとデニス様の三人でいる時になくなったんですぅ。デニス様が盗みなんてするわけないですし、そうなると犯人はオリヴィアさんしか有り得ないんですよぉ」
「ホラ、レイチェルもこう言っているだろうが!」
「くっ……」
あらあら、これは埒が明きませんね。
老婆心ながら、私が口を挟んでもよろしいですかね?
「はぁ!? 部外者は引っ込んでてくれ! これは僕たちの問題なんだ!」
いやいや、でも私にはネックレスの在り処がわかりましたよ。
「なにィ!?」
「っ!」
「ほ、本当ですかヨネーケさん!」
ええ――それは、デニスさんの服のポケットですよ。
「「「――!!」」」
「ぼ、僕の服のポケット!? そんなわけ――あっ!?」
ほらね、あったでしょ。
「ど、どうして……」
私も長年『突撃! 隣の婚約破棄』をやってますからね。
大体の婚約破棄のパターンは頭に入ってるんですよ。
話を聞いた瞬間、レイチェルさんの自作自演だってわかりました。
「……」
「そ、そうなのかレイチェル……」
自分の服にネックレスを隠しておいたら、万が一調べられた時に言い逃れができなくなってしまいますから、近くにいたデニスさんの服に隠したんでしょう。
欲を言えばオリヴィアさんの服に隠せたらベストだったんでしょうが、今日のオリヴィアさんのドレスはポケットがないタイプのもので、仕舞っておく場所がありませんからね。
婚約破棄が無事済んだ後に、デニスさんの服からこっそりネックレスを回収する予定だった。
違いますか、レイチェルさん?
「チッ、あんたさえいなければ、全部上手くいくはずだったのにッ!」
「み、見損なったぞレイチェルッ! 君がそんな痴れ者だとは思わなかった!」
「いや、痴れ者は貴様もだ、デニス」
「……え?」
おっと、ここでずっと事の成り行きを静観されていたデニスさんのお父さんが、満を持して口を開きましたね。
「こんな低レベルな色仕掛けに引っ掛かって大事な政略結婚を台無しにしおって。貴様のような男に家督は任せられん。今この時をもって、貴様とは親子の縁を切る」
「そ、そんなッ!!? どうか今一度考え直してください父上ッ! 父上ぇッ!!」
うんうん、これにて一件落着ですね。
「あの、お陰様で助かりました。本当にありがとうございました、ヨネーケさん」
いやいや、私は当然のことをしたまでです。
どうかお気になさらないでください、オリヴィアさん。
「そういうわけにはまいりません! どうかこのお礼はさせてください。まずは……我が家で晩ごはんをご馳走したいので、お越しいただけますか?」
おや、いいんですか?
「はい、是非!」
へへ、そういうわけなら、ご相伴にあずかりましょうかね。
それでは私はこれからオリヴィアさんのお宅にお邪魔しますので、スタジオにお返ししまーす。
味噌ピーナッツは千葉県の郷土料理です。
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