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なんで、なぜ、俺が?

 

 ――彼の者、ホワイ・ナゼ・オレガ

 聖職の姫様の『性職係』に任ずる――



 ヨッキュー国首都フマン

 季節は三月の晴れ渡った空。

 ナンヤカンヤ騎士学校宿舎で一人の青年は顔を傾げる。


 青年の名はホワイ・ナゼ・オレガ。


 炎髪が天を衝くような髪型の彼はその外見とは裏腹に心優しい性格の持ち主。


 「性職係ってなんだろう?」


 額面通りに取れば性を司る仕事。

 しかしながらオレガが騎士学校で教えられてきた職業欄に該当するものは無い。


 「なぁフラ、この性職係って知ってるか?」

 「なんだぁナゼ。今話しかけないでくれ」


 「あぁ……すまん」


 オレガのルームメイトのマンネン・フラ・レテルヤンは卒業式だというのに気落ちした声を出す。


 「俺の青春ってなんだったんだろうな」

 「まだ始まってもいないだろうに」

 「ははっ確かに」


 数える事幾星霜。

 マンネンは騎士学校に入学した頃から「青春謳歌! 恋愛至上!」を掲げ女子生徒に声を掛けまくっていた。しかし彼は結局この卒業までの日に恋が成就する事は無かったのである。


 「で、なんだよナゼ」

 「この性職係ってなんだと思う」


 「聖職係!? そりゃお前姫様の身辺警護だよ。スゲーじゃんっ!」


 マンネンは女の子に目がない事を除いてはとても優秀な人物。オレガ達同期の中でも上位十人に入るぐらいは博識。


 「そうなのか? でも騎士学校じゃ習わなかったぞ?」

 「ばっかお前。それは騎士学校卒じゃよっぽどの事がなきゃ付けねぇからだよ。聖職ってのは本来ユリ教会シスター側の人間が担う役職なんだ」


 「へぇそうなんだ。フラは良く知ってるな」


 ナンヤカンヤ騎士学校が騎士を排出する学校ならば、ユリ教会学院が聖職者を排出する学び舎。


 「まぁでも異例かもだけど、俺は順当だと思うぜ?」

 「何が?」

 「ナゼが聖職になるのは」


 オレガとマンネンは騎士学校入学時からの付き合い。かれこれもう十年も一緒に居ることになる。そんな旧知の仲の奴にこそばゆい言葉を貰い若干オレガは照れてしまう。


 「同期の中で間違いなくナンバーワンだと俺は思ってる」

 「ありがと」


 オレガも決して戦えない訳ではないが、戦闘より支援職メインの技能を持っている。


 「騎士学校の評価制度が武力重視なせいでナゼがトップランカーにはなれなかったのが未だに納得いかないけどなぁ」


 マンネンは今からでも直談判に行きそうな顔。


 「気にしなくていいよ。ゆくゆくは実戦で証明していくさ」

 「だな。でもまぁお前がユリ教会シスター学院じゃなく騎士学校に来てくれたのが俺の幸運だったぜ」


 「おいおいやめてくれって。別れずらくなるだろう?」


 見つめ合うオレガとマンネン。

 こんなに良い奴なのにどうしてコイツは恋人が出来ないんだろう。とオレガは考え、自分が女だったら貰ってやれたのに、と言う気持ちで見てしまう。


 「ナゼ、世話になったな」

 「こっちこそ」


 お互いに荷物を纏めて長年寝食を共にした部屋の扉に佇む。


 「じゃあなナゼ。聖職係頑張れよ」

 「あぁ。フラも騎士団で偉くなってくれ」


 部屋に一礼して二人は固い握手をする。

 マンネンは金色の髪を揺らしながら颯爽と去っていった。


 「あっ! ナタリアちゃん俺と付き――ぐほぉっ」


 訂正。

 最後までいつも通りで安心したよ。と思うオレガであった。







 マンネンと別れたオレガは騎士学校の敷地内を練り歩く。特に何かある訳でもないけどお世話になった学び舎をもう一度見ておきたいという心情。


 「姫様の身辺警護か」


 敷地内では卒業生達が後輩達に見送られたり、親御さん達と一緒に記念撮影をしたり自由な光景が見て取れた。


 本当はオレガもマンネンと一緒の騎士団に入りたかった。雄々しく戦う姿がカッコよく思春期男子の憧れの職業ナンバーワン。


 オレガの両親は支援職育成機関ユリ教会学院を勧めたけど、騎士学校に行きたいというオレガの強い意志に屈して無理を言って通わせて貰った経緯がある。


 家系的に支援職の方が適正はあったけれど男子たるもの先頭に立って戦いたい。ありがたい事に認めてくれたオレガの両親は卒業まで手厚く見守ってくれた。



 「とりあえず卒業した事と就職できた事を報告しとかなくちゃな」


 オレガの実家は少し離れた所にある「炎えんの国」という場所。この燃えるような頭髪も炎の国の者特有の体質で学校では少し珍しい。とはいえこのヨッキュー国は多民族国家なのでオレガが邪険にされる事は無かった。


 オレガはポケットからここ数十年で普及した通信機器を取り出して耳にあてる。

 スマト・フォン・ワンコール博士が発明した通信機器、通称スマフォ。


 ――プル


 「は〜い! 愛しのママですよ〜」

 「あっ、母さん。俺だけど」


 予め連絡を予想していたのかワンコールで出てくれたオレガママはいつもの様に嬉しそうにする。


 「俺、騎士学校卒業したよ」

 「おめでと〜。頑張ったわね〜」


 「うん、今まで育ててくれて、ワガママに付き合ってくれてありがとう」

 「いいのよ〜。ナッちゃんはわたし達の宝物だからね〜」


 マンネンを始めオレガの同期の皆も良い人ばかり。


 「それよりごめんね〜。本当は卒業式に行く予定だったんだけど〜」

 「気にしなくていいよ。それより父さんの具合は大丈夫?」


 卒業式の数週間前にオレガパパが突然動けなくなった。飛んで帰ろうかと思ったオレガであったが母親から心配無いと拒否された。


 「大丈夫よ〜。命に別状は無いから安心して〜」

 「そっか。良かった」


 診断結果はツーフー・フゥフゥという病気らしく足や手の関節が大きく腫れる症状が特徴。およそ大人の一部の人が掛かりやすい病気で、動く事は疎か他人が近くを横切るのも禁止されているらしい。


 「―グォォォォ! ペロやめろ〜」

 「……ホントに大丈夫?」


 電話口でオレガパパの絶叫が聞こえる。おそらくオレガ家ペットのペロが何かをしたようだ。


 「母さん、話は変わるけど就職先が決まったよ。騎士団じゃないのが残念だけど」

 「よかったじゃない〜。わたしは息子が元気に過ごせるならどこでもいいわ〜」


 そう言ってくれるとオレガも少しやる気になる。


 「自分でもビックリなんだけどさ、どうやら姫様の身辺警護の部署らしいんだ」

 「ほえ〜。身辺警護ってすごいじゃない。お母さん鼻が高いわ〜」


 「どの姫さまに仕えるかわからないけど、やれるだけやってみる」


 ヨッキュー国には三人の姫様が居て、それぞれ役割が大きく違う。おそらくあの文章から推察すると「性」を司る姫さまだというのは予想がつく。


 「もし上手くいかなくてもアナタには帰る場所がありますからね〜」

 「うん。ありがとう母さん。愛してるよ」


 「うふふふ〜。ママも愛してるわ〜」


 おっとりポワポワなオレガママの言い方に安心する。思えば騎士学校に行きたいと言った時に最初に折れてくれたのは母さんだと彼は懐かしく思う。


 恐らく最前線で戦う事=危険な事と思っていたから息子をそんな場所へは送りたく無かったという親心。


 親の心子知らず……か。


 「父さんの病気が治ったら首都に招待するよ」

 「わ〜い楽しみ〜」


 「じゃまたね」

 「元気でね〜」


 通話を終えたオレガはゆっくりと歩き出す。


 「性職係ってのは恐らく書き損じたんだな」


 親友と別れ両親に感謝を述べ、オレガは騎士学校の門の前に立ち大きくお辞儀をする。



 「――お世話になりましたっ!」



 さぁ社会人一年目を始めよう!

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