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別次元の強さ

数ある物語の中から選んでくださりありがとうございます!


 


 だが次にあるはずの衝撃がいつまでたっても来なかった。



 恐る恐る目を開けると、柚月の首に澪の刃が届く直前のまま止まっていた。

 木刀も元の木刀へと直っている。


「あはは! びっくりした?」


 澪は無邪気に笑いながら柚月の首に沿わせた木刀をとんと軽く当てる。


(いや、「びっくりした?」じゃないよ)


 柚月は笑えなかった。

 全身が震えあがり、心臓がうるさいほど音を立てている。


 もしも澪が本気で首を取ろうとしていたら、柚月の首はたやすく転がっていたことだろう。

 それを自覚した瞬間に全身から冷や汗が噴き出して、息も切れ切れになったのだ。


「……」


 生徒たちは誰も身動きが取れなかった。


 今動いたら首を切り離されるのではないか。

 そんな不安が彼らにはあったのだ。


「やだなぁ。本気で取ったりしないって」


 尚も笑っている澪に、改めて別次元の強さなのだなと思い知らされた柚月達だった。



 ◇



 訓練場からは轟音が聞こえてくる。


 その中では炎が飛び交い、風が巻き起こり、水しぶきが立つ。


 炎は明治が拳に乗せて放ち、風は譲の持つ札から生まれ出た。

 悟の術で空気中の水気が集められ、できた礫が飛んでいく。


 そのすべてはたった一人、澪に向けられて放たれていた。


 澪は飛んでくる攻撃を避けたり木刀でいなしたりしており、焦った様子は見受けられない。


 攻撃の隙間を縫って友里が澪を閉じ込める様に結界を展開するが、澪の一振りによって音を立てて崩れ落ちた。


「あはは! いい連携だね」


 澪は至極楽し気に笑いながら4人の攻撃をさばいている。


 柚月はそれを壁際で見ていた。


 4人は汗だくになりながらなんとか食らいついている状態で、はたから見てもその実力差がよくわかる。

 だが、苦し気な表情であるにもかかわらずその瞳は爛々と輝いていた。


「だああ!! 分かっちゃいたけど全然攻撃当たらねえ!!」


 十数分、一方的に攻め立てていた悟が叫ぶ。

 悔しさが滲んでいるけれども、声色は楽しそうだ。


「はあ、はあ……そりゃあそうよ。相手は神子様なんだから」


 悟の叫びに同意するのは譲だ。

 彼女の目もギラギラと輝いている。


 新たな風を呼び込んでは澪に向って放つ。


「と言っても、もう技のストックないよぉ~」

「俺もう霊力が底つきそうなんだが」

「ちょっとしっかりしてよ!」


 打つ手が切れてしまった友里と霊力の消耗が激しい明治がもう離脱してしまいそうで、たまらず譲が叫んだ。


 実力を測るのなら、もうそろそろ閉幕した方がよいだろう。

 柚月はそう考えると声を張り上げた。


「そこまで!!」


 途端にびくりと震え動きを止める5人。


「澪ちゃん、もういいでしょう?」

「ええ、満足したわ。それに皆の癖とか直した方がいいところも分かったし」



 澪はくるりと短剣を振ると元の場所に戻す。

 対する悟たちは力尽きて床に転がった。


「あはは。皆お疲れ様。思っていたより連携もできているし、個々の術もなかなかのものだったわ」


 悟たちは澪の言葉に目を輝かせて聞き入っている。

 その様子は真剣そのものだ。



「見ていた感じからすると、悟君が祈祷師きとうし、友里ちゃんが結界師、明治君が退鬼師たいきし、そして譲ちゃんが陰陽師の適正があるわね」


 満足そうに頷きそれぞれの顔を見る澪。




「まず悟君。霊力の扱いの基本は出来ているけれど、戦闘に使えるかと聞かれたら厳しいわね」

「う、はい」


「ああ、落ち込まないで。別に悪いと言っている訳じゃないから。逆に気力の扱いはこの中だったら一番できているわ。それに水属性で祈祷師っていうのは強くなるわよ。だって自然の中で水分がないところなんてないんだから」

「はい!」



 祈祷師は霊力より体外の気力を扱うのに長けた追儺師。

 悟も霊力の扱いはあまりうまいとは言えないが、その分気力のコントロールが上手かった。


 そして水属性という強みもある。

 このまま訓練を積めば、もしかしたらこの中で一番伸びしろがあるのかもしれない。




 澪の眼がふいっと横に移る。

 その先には友里と明治がいた。


「友里ちゃんと明治君は十二支の家の子たちだったわよね。道理で、もう戦闘スタイルを確立できていたよ。よく頑張っているね」

「「はい!!」」



 褒められて顔を輝かせる友里たち。

 明治のあんなに嬉しそうな顔を見たのは初めてだ。


 友里は結界を張ってサポート全般を請け負うスタイルの結界師。

 そして明治は切り込み隊長よろしく、接近戦を得意とした退鬼師。


 なるほど、ぴったりだ。


「友里ちゃんは結界を素早く張れるし、明治君の動きに合わせて形を変えて攻撃にも防御にも回れるところがいいわね」

「あ、ありがとうごじゃいます!!」


 思いっきり噛んでいる。

 友里は恥ずかしそうに口を押えていた。


「ただ結界の厚みがばらけているときがあるから、薄いところを狙われると破れてしまう。さっき私がやって見せたようにね。だから均一により強い結界を張れるように訓練した方がいいわ」

「わ、かりました」


 友里はよほど緊張しているようで、声が裏返っていた。

 再び口を押えて赤面している。




「明治君は攻撃力が高いし友里ちゃんの補助を受けて特攻してくるスタイルも悪くはないわね」

「ありがとうございます!」


 ぱあっと目を輝かせる明治。

 その顔は普段の大人びた顔ではなく少年然としていた。


「でも分かってると思うけど、そのスタイルは補助に依存しているわ。単独戦の時は自身の身を危険に晒しうるから注意が必要よ」


 友里と明治は葦の矢に来る前から戦闘スタイルが身についていた。

 幼いころから一緒に訓練していた影響で、ついお互いに頼りすぎるスタイルになってしまったようだ。



 澪は其処を見抜いた上で指摘していた。



「それに霊力の込め方が力みすぎていらない分まで入っちゃってるわ。余剰分を削ることで持久力も上がると思うからその辺りを集中的に訓練したらいいわ」

「はい!!」


 明治は何度もコクコクと頷いている。

 頭が振り切れそうな勢いだ。



「さて最後は譲ちゃんだけど……」



 残る譲は怨霊や妖を従服させ式神として使役するのを得意とする陰陽師タイプということだが、彼女にはまだ式はいないはずだ。


 ちらりと譲を見ると、ごくりと唾を呑みこんでいた。

 続く澪の言葉をじっと待っているのだ。


「今はまだ使役している子はいないのよね? 木属性の言霊ことだまを札に込めて攻撃の幅を利かせているのは上手だと思うわ」

「ありがとうございます」


 譲は照れくさそうに頬を上気させはにかんでいる。

 そんな顔もできたんだ。

 と柚月は意外に思った。


 まじまじと見ていたら視線に気が付いた譲に睨まれてしまったが。



「それで、実は陰陽師って一番人数が少ないのは知っているよね? 何故かはわかる?」

「はい、もちろんです。隠を使役するに至る精神力および霊力を持ち合わせている人間がほとんどいないことが挙げられます」



 譲の言う通り、陰陽師のタイプは使役を主としている戦闘スタイルの為、まず使役できる隠を探さないといけない。

 やっとのことで見つけたとしても、その隠を服従させるのも困難なのは間違いない。


 自分を主人と認めてもらわねば、その力を借りて隠と戦うなどできないからだ。



 そのため自分の力で戦闘するスタイルの他のタイプより圧倒的に少数なのだ。


「そう。陰陽師の素質がある子自体少ないのだけど、その代わり陰陽師は攻防に優れた追儺師になることが多い。譲ちゃんはそんな可能性を秘めているわ」


 あの澪がここまで言うなんて。と柚月は思わず譲を見た。



 艶やかな暗い青色の髪と水色の瞳。

 それは確かに豊富な霊力をその身に宿しているという証拠。


 譲はその瞳を見開き、澪の話に聞き入っている。



「言霊を札で使役できているのなら後は相性の良さそうな隠……できれば妖か物の怪のレベルのものがいいかな。それを使役できるだけ訓練を積んで、コントロールの感覚を掴んでいくといいわ」

「あ、妖に物の怪、ですか!?」


 譲は思わず悲鳴に近い上擦った声を上げた。


 澪は簡単に言うが、妖レベルの隠はまだ一人では討伐できないし、物の怪などもってのほかだった。


「ええ、使役する隠が強ければ強いほど、陰陽師の価値は跳ね上がるから」



 澪はきょとんとした顔で肯定する。

 今までさんざん強い隠と戦ってきて感覚が普通とずれているのだろう。


 至極当然という顔で譲を見ているだけだった。


「……ええと、が、頑張ります」


 譲は引きつった笑みで曖昧に頷いた。

 そうするしかないだろう。


 柚月は心の中で合掌を贈ったのだった。




ここまでお読みいただきありがとうございました!


「面白そう・面白かった」

「今後が気になる」

「キャラが好き」


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