わがまま
数ある物語の中から選んでくださりありがとうございます!
お楽しみいただければ幸いです♪
『もしもし?』
「あ、僧正? 柚月だけど」
『ああ、久しぶりだね。調子はどうだい?』
「うん、ぼちぼちかな。そっちはどう?」
『うん、皆元気だよ』
柚月はその日の夜、寺に電話を掛けていた。
寺の番号にかけると電話口に出たのは僧正だった。
少し低い渋めの声が耳に心地いい。
「そういえば、澪ちゃんは?」
『ああ、彼女は仕事中だよ。ここ何日か帰ってきてないかな』
「そうなんだ」
澪は今日も今日とて隠の討伐に出ているようだ。
彼女は大体いつも電話に出ない。
どの時間帯に掛けても澪が電話に出た試しがなかった。
それほどまでに忙しいのである。
柚月は少し心配だった。
過労で倒れなければよいのだが……。
『隠はいつでもどこでも現れるからねぇ。澪も忙しいのだよ』
「分かってるよ。でも大丈夫なのかな?」
『まあ、今までも何日か戻らないことはよくあったし、酷い時は1か月丸っといなかったこともあるからねぇ』
なんてことのない調子で僧正は言ってのけるが、それは大丈夫ではないだろうと柚月はツッコミを入れたくなった。
「大丈夫? 過労で倒れない?」
『はは、傷の心配じゃなくて過労の心配とは』
「いやだって、澪ちゃんの強さは知ってるし」
『まあそうだね』
澪の強さは誰よりも知っている。
だから隠に後れを取ることは心配すらしていない。
それよりも疲れによるダメージの方が心配だ。
会ったら何か労わってあげないと……。
『それで? 何か用があって連絡してきたんじゃないのかい?』
僧正の声に逸れかけていた意識が引き戻される。
「あぁ、そうだった。あのさ、来週から夏季休みに入るから、友達を連れて行ってもいいかなって相談なんだけど……」
柚月は言葉尻をしぼませながら僧正の出方を伺うように訊ねた。
『おや、ちゃんと友人ができたみたいで何より』
電話口から僧正のにこやかな声が聞こえてくる。
気分を害した様子はない。
寺の者達は柚月と奈留のことを随分と可愛がってくれている。
身寄りもなかった柚月達にとってはそれだけで救いになっているのだが、だからこそわがままを言って困らせたくはない。
柚月が何かをお願いするのは実はこれが初めてだった。
『う~ん。だけど困ったな。単に遊びに来るってわけでもないのだろう?』
「あ、うん。一応訓練もしたくて」
『だろうね。葦の矢の課題は多いだろう? それも実技がね』
「よく知ってるね。あんまり多くて僕びっくりしちゃったよ」
『ははは、結構有名な話だからな。にしても急には準備できないしなぁ』
少し悩まし気に唸る僧正。
(そうだよ、いきなり言われても困るよね……)
柚月は思い付きで提案したことに罪悪感を抱いた。
普通に考えて泊りに来るのならいろいろと準備が必要なのは間違いない。
「……あ、ごめんなさい。無理そうなら全然断っておくから」
『うーん、そうだねぇ。とりあえず上の人に聞いておくよ。すぐには返事できないかもしれないけど、それでもいいかい?』
「うん! ありがとう!!」
電話をピッと切り、柚月は少し行き当たりばったり過ぎたかなと頬を掻いた。
(まあ無理だと言われたら学校の訓練場で訓練すればいいんだし)
そう考えるとベッドにもぐりこむ。
もう夜も遅いのでそのまま寝ることにした。
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